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もう一度妻をおとすレシピ 第9冊  作者: 奄美剣星
Ⅲ 読書感想文
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67/100

読書/乾ルカ『わたしの忘れ物』 ノート20180617

乾ルカ『わたしの忘れ物』東京創元社2018


 目次

  妻の忘れ物

  兄の忘れ物

  家族の忘れ物

  友の忘れ物

  彼女の忘れ物

  私の忘れ物

   エピローグ


 物語は、六章+エピローグでオムニバスになっている。ヒロインは中辻恵麻、H大学三年生だ。三月半ば、その気もないのに、なぜか学生課で奨学係女性ユウキさんの斡旋を受けることから物語が始まる。期間は一か月。紹介されたアルバイト先は、地下鉄商店街に設けられた、忘れ物係だった。担当者女性は水樹凛さん、そして遠縁の親戚で部下の男性橋野聡一くんだ。皆いい人達だ。恵麻は、なくしものをパソコンで入力する仕事をして重宝される。

 以下、各章エピソードとなり、そこで登場するゲストキャラは、「小道具」となる忘れ物で、見た目はガラクタだが、当人たちにとっては、大切な人との絆を再認識することになる大事なアイテムになっている。

 忘れ物係の水樹さんと橋野さんは、失くしものをとりにくる人々が、一見ガラクタである忘れ物をとりにくる動機を推理して楽しむ。これが単調な仕事をこなす醍醐味だと恵麻に語る。――ミステリである。基本、ホームズ役が水樹さんで、語り部である恵麻がワトソン役となる。

 「妻の忘れ物」では、靴ベラのついた鍵の話。鍵を失くしたら困るだろうなあと思っていると、夫にとって使い心地のよい靴ベラだった。

 「兄の忘れ物」では、使い古しの手袋を、青年が依頼者だ。しかし忘れ物係の規定では、期限が過ぎると捨ててしまうことになっている。だが、勘の鋭い水樹さんの裁量で残されていた。――ニートをしていた弟が、三十くらいになってようやく定職に就き、アパート暮らしを始める。安い初任給でどうにか買った手袋だ。兄は弟が嫌いで、これを地下鉄車両に置き去りにする。直後、弟のアパートが火災となり死亡したのだ。

 「家族の忘れ物」では、施設に預けられた痴呆老人が依頼者だ。しかし何を忘れたか忘れてしまった。水樹さんはアウトレットモールと靴の名前、自分を見知らぬ女性と間違えて呼んだことからこう推理した。――老人には娘がいる。元気だったころに今は閉鎖されたアウトレットモールで、靴を買ってもらった。家族は何年も前から老人に会っていない。老人は調子がいいときに、施設を抜け出して、係にやってきたのだ。――老人は、家族にとって忘れ物にされてしまっていたということになる。

 「友の忘れ物」は、H大学付属高校の女子生徒制服だ。幼子を授乳するため、多目的室に入ったところ見つけた。その後、引き取りに男子生徒、さらにはその連れの女子生徒がやってくる。男子生徒は何回もくるのだが、不審な点が多いのでなかなか渡さない。そして最後に落とし主の男子生徒を連れてきた。三人して謝る。――真相は、最後に現れた男子生徒が忘れ物。学校からの借り物だ。恵麻は最初、不良少女の着替え、女子生徒間のイジメによって隠された、最初に現れた生徒の女装癖を疑ったのだが、そうではなかった。最後の男子生徒は性同一障害者で、学校カウンセラーの仲介があったためか、学校・級友たちが、それを理解していた。問題は家族で、息子の現実を受け入れられない。そこで当事者は、多目的室で着替えていたのだが、授乳に来た女性がせかしたので、慌てて飛び出していって忘れたのだ。

 「彼女の忘れ物」は、イニシャルのついた時計を故意に忘れては取りに来る老紳士の話だ。かつて甲子園にいったころもあるバッテリーの相棒が行方不明になった。老紳士は忘れようとするために棄てたこともあるのだが、必ず戻って来る。そこで、相棒は生きているのではないのかと考えるようになった。――そこで、橋野さんの不思議な行動とリンクする。橋野さんはオカリナを故意に失くしものにして、また手元に戻って来る不思議を楽しんでいた。恵麻がわけを尋ねると、子供の時に泣いていたとき、通りかかった紳士からオカリナを貰ったのだという。その老紳士は「羽生の宿」を吹いてくれた。水樹さんはその老紳士が亡くなった父親だと分かった。オカリナは水樹の手元に届けてもらうことを欲していたのだ。

 「私の忘れ物」は、語り部である「私」だ。述者は、アイドルになった親友の話をする。目立たない自分と華やかな親友。住む世界が違うと思い込んで、遠のいてしまった。アイドルになった親友が自分を遠ざけたのではなく、引け目を感じてひいてしまったのは自分だと考えた。このときの恵麻の忘れ物はアイドルになった親友をキャラクター・ストラップにしたものだった。これが戻って来たとき、恵麻は改めて親友との絆を思い出す。――エピソードの中に、不自然な交通事故の節が入る。そこが最終章での伏線となる。

 そして「エピローグ」。

 アルバイト期間が満了するとき、述者恵麻は、記念に珈琲メーカーを水樹さんたちに贈る。水樹さんたちもご両親に何か贈ると言う。恵麻は、アルバイトを紹介してくれた、奨学係女性ユウキさんに会いに行く。そこにきたのは一か月前に傘を忘れたのだ。アイドルになった親友と色違いでおそろいの傘だった。そして恵麻は、だんだん悟ってくる。自分は、交通事故で亡くなったこと、親友が形見として、その傘を引き取ってくれたことを。――つまるところ、ユウキさんは、映画にもなった漫画『スカイハイ』にでてくる、あの世の扉の門番女性でもあったというわけだ。――実は、物語全体が、走馬燈であったということになる。……このオカルト要素が、日常の中のミステリーに、感動を加える装置となっていることは言うまでもない。

          ノート20180617

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