読書/堀辰雄「聖家族」 ノート20180704
堀辰雄「聖家族」1932(昭和7)年
貴族階級の学者・細木九鬼の死は、妻女と愛弟子である主人公に深い影を落とした。――細木九鬼とは、wikiによると、芥川龍之介がモデルなのだそうだ。
主人公・河野扁理は亡くなった九鬼に可愛がられた苦学生だ。葬儀のとき河野扁理は、密かに懸想していた細木夫人に出会った。細木夫人は、河野扁理に、亡夫の蔵書を整理してもらうことにした。
実のところ、河野扁理は、軽井沢万平ホテルで夫人に出会っている。夫人はあまり覚えていない。しかし、河野扁理が亡夫の影が憑いていることを悟った。夫人は自分が青年によって心が乱れることを恐れた。そして、さりげなく娘である細木絹子を青年に引き合わせる。しかし、絹子は青年に惹かれつつも、正直に気持ちを伝えられなかったことを後悔しだした。
亡き恩師の妻女と青年の歓談のなかで、絹子は学校帰りに級友たちと、生まれて初めて古本屋に入ったところ、父親の蔵書印が押された書籍をみつけたと話す。扁理は、実は自分が生活に窮して先生から頂いた大切な本を売ったものだと告白した。――その正直さから、妻女と青年は一気に和む。だが一方で河野扁理は、夫人への憧憬とともに、絹子に新たに芽生えた恋心に対し、身分不相応だと考え、距離を置くようになった。
河野扁理は、たまたま知り合った、下層の少女である踊り子に見初められ、うまく手玉にとられ恋仲になってゆく。二人が連れ立って歩いて行くところを、恩師の妻女が車中からみかけた。
細木夫人は自分がした恋で苦しんだことを思い浮かべ、娘の心中を察した。
ほどなく、河野扁理は長旅に出ることを二人に告げにやってきた。
この後、母娘二人のところに青年からの手紙が届いた。絹子は恋患いで伏せっているところだった。
河野扁理は海辺の町にいるらしい。
絹子は、もしかして扁理が自殺しようとしているのではないかと、自分や母親を責める。しかし細木夫人は、夫の霊が憑いている扁理だから、死ぬことはないだろうとたしなめた。
堀辰雄の短編作品は、明確がオチがなく、ストンと切り落とすような話をいくつか見かける。この物語もそうだ。この後の展開はどうなるのあろう。まあ、普通はこれでリアルな恋愛話は終わることだろう。
wikiによると、堀辰雄は、ブルーストの『失われた時を求めて』に影響されたものだという。
ブルーストの作品は、筋自体は大づくりな恋愛劇で、装飾的な文章の中に、読者や演劇、社会問題、世界情勢などを盛り込んでいる。読みづらいそれというのは、黙読ではなく、音読すると流れるような響きを奏でだす。――文字で綴った壮大なオーケストラなのだ。
堀辰雄の文章も黙読すると読みづらい。しかし、音読することで、やはり音楽だということが判る。
宮崎アニメ『風立ちぬ』は、堀辰雄の諸作品をまとめて、飛行機設計家・堀越二郎の仕事に重ねている。アニメの主人公堀越二郎が、夢をみてイタリアの飛行機設計家とシンクロする描写があるのだが、本編の冒頭にある少年時代主人公の妄想からとっているのだろうか。
久石譲指揮のオースケストラが奏でる、マンドリン・ベースの、南欧風音楽がよく合っていた。
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