読書/堀辰雄「ルウベンスの偽画」 ノート20180523
堀辰雄「ルウベンスの偽画」江川書房1933(昭和8)年
短編小説である。
内容は、軽井沢に遊んだ述者が、ハーフ系の男たちを取り巻きにした、美しい男爵令嬢をみかける。ドキドキするのだが、特に恋愛には発展しない。狭い町なのか、述者と一行はいくつかの場所で何度も出会う。しかし会話はない。述者の一方的な観察のみがある。男爵令嬢は魅力的だ。述者は取り巻きたちに嫉妬する。その取り巻きの一人で、彼女の最もお気に入りの青年が、令嬢に見えないように、嫌な顔をするのをみて、述者はほくそ笑む。そして、物語の終わりで、間抜けな仕草をするリスと重ねて、――おばかさん――と呟くのだ。……人間観察が痛い。
ルウベンスとは、バロック期の画家ピーテル・パウル・ルーベンス(1577‐1640)のことだ。ルーベンスは、ドイツ出身で、スペイン領ネーデルランドで過ごした、フランドル派の画家である。祭壇画や肖像画のほか様々なジャンルに及ぶ細密な絵を残している。――するというと、いろんなアングルで、細密に観察してみたということになるのだろうか。――21世紀現在となっては、好みが分かれることだろう。堀辰雄が私淑した作家の一人ブルーストの『失われた時を求めて』は、くどくどとした描写である。本作は堀辰雄の処女作だというのだが、この人は自分のものにするために、実験してみたのだと思う。
述者は、男爵令嬢に、「ルウベンスの偽画」という渾名をつけた。――美しいのだが本物じゃない。上っ面だけのお嬢様。そんな女にちょっとでも惚れた自分が情けない。ハーフの取り巻きどもと一緒だ。主題は、そんなところだろうか。
ノート20180523
男爵令嬢は、『菜穂子』と同一モデルで、著者が世話になった上流階級令夫人の娘。その方にこっぴどくフラれた。本作は一種のリベンジポルノでは……。




