読書/堀辰雄『菜穂子』 ノート20180522
堀辰雄『菜穂子』感想文
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宮崎駿監督作品アニメ映画『風立ちぬ』のDVD視聴後に、原作の一部をなす同名小説を読み、続いて本作を読んだ。我ながらミーハーなこと。作家・原辰雄の文を初めてみたとき、あれ、どこか見覚えがあると感じた。というのは、当時もっとも斬新で、二十世紀最大の傑作で双璧とされていた、ブルーストの『失われた時を求めて』とジョイスの『ユリシーズ』を研究していたためだと判った。私が両作を知ったのは、たまたま、ジュペリに取材した自作小説で、その名が挙がっていたため、読んだことによるものだ。
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〈主要登場人物〉
三村→黒川菜穂子……合理主義者で、ロマンチストである母を、亡き父に対して不義であり、不潔に感じるらしく、激しく反発。当てつけと逃避から、強引な親戚の勧めに応じて結婚。愛のない生活を始め、やがて結核を患う。
三村夫人……菜穂子の母。上流階級の人。上海で客死した旧知の作家・森於菟彦に秘めた思いを抱くロマンチスト。強情な菜穂子に受け入れてもらえず、信州の別荘で孤独死する。
都築明……ロマンチスト。菜穂子とは幼馴染で相思相愛のようなのだが、母のロマンチックな要素が自分の本性と重なることから、少女時代に都築を拒絶した。ところが、東京でばったり出会ったことで、恋心を再燃させ、紋々とする。菜穂子の永遠の恋人。建築設計家。
黒川圭介……母子で安穏とした生活を送っていたのだが、菜穂子が嫁いできたことで、安穏としたことで、調和が乱れ困惑する。マザコンで菜穂子よりも背が低い。
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〈内容〉
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第Ⅰ編 楡の家……二部構成
ロマンチストである三村夫人が、リアリストの娘・菜穂子の行く末を案じつつ、自らの心情を告白する内容の日記である。晩年を過ごし孤独死した別荘にそれを遺す。三村夫人が、上海で客死した、旧知の作家・森於菟彦に思いを寄せていたことを知った菜穂子は、不潔だと思ったのか、一読した後、日記を破棄してしまう。日記は本人が亡くなったところで途切れる。
第Ⅱ編 菜穂子……全24章構成
本質的に自分と同じであるロマンチストな母親。合理主義者の菜穂子は母から逃れるように、愚かな親戚の強引な結婚話に乗っかって、結婚はしてみたものの、夫の黒川圭介は極度なマザコンで、姑は子離れしていない。圭介は才色兼備で、どこか冷たい菜穂子にヘキヘキして、家庭内で遠ざけてしまう。そのうちに、菜穂子は肺結核になった。姑は隔離するように、信州のサナトリュウムに菜穂子をやった。居場所のない菜穂子はほっとするのだが、だんだん寂しくなってきた。他方で、菜穂子は数年前、東京でバッタリ再会した幼馴染である、建築家・都築明が気になってきた。
都築明は一途で、いまだに菜穂子を愛していた。菜穂子は心を揺らし、仕事が手に着かない。設計事務所の社長は理解のある人で、そんな都築を、しばらく休暇をとるようにと勧めた。都築はその言葉に甘えて、信州のサナトリュウムにいる菜穂子の元を訪れ、さらに思いを募らせる。
夫の黒川圭介は、菜穂子をサナトリュウムに隔離したことで、母子水入らずの生活となってホッとしていたのだが、だんだんとそんな自分に罪悪感を覚えだす。息子の独占欲が強かった母親も、菜穂子を気の毒がって、通り一遍ながら、手紙をだすようになる。
都築明がやってきたことでパニックになった菜穂子。都築が帰ってから、信州のサナトリュウムで、母同様に孤独死するのかと自問しつつ、雪深いそこを抜け出し、中央線列車に飛び乗って東京に帰る。
東京で出迎えた夫・黒川圭介はなぜ戻って来たのかと菜穂子を問い詰める。可愛そうだと思いつつも、母親とは反りが合わないし、世間体もあるから戻れというニュアンスの話をした。菜穂子は一目会ったから帰ると言い出す。夫は、一緒に暮らそうと喉元まで出かけるのだが言えない。けっきょく菜穂子は、圭介の用意したホテルに一泊し、翌朝、信州のサナトリュウムに戻ることになる。暖房の効いた部屋の窓の外は雪景色で、路地では子供たちが雪合戦をしていた。やがて、夕食ができたという知らせを聞き、食堂に向かうところで物語は終わる。
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〈感想〉
宮崎駿の『風立ちぬ』におけるヒロインの菜穂子は、堀越二郎との出会いのところで、堀辰雄の『菜穂子』ヒロインらしく、フランスの詩の一節を披露して、才媛ぶりをみせたものの、全体としては、原辰雄の『風立ちぬ』ヒロイン・節子の性格に近く、従順で薄幸の女性を演じている。あるいは、母親である三村夫人に近いのかもしれない。また宮崎版の主人公は、実在の飛行機設計家・堀越二郎となっているのだが、建築設計家である都築明のイメージと重なる。さらに、夫である黒川圭介のイメージは、宮崎版の主人公上司・黒川氏と重なり、小柄だが、頑固者ながら面倒見のいい人として描かれている。婚約者の堀越二郎から手紙をもらった菜穂子がパニックを起こして二郎のいる名古屋へ押しかけたとき、「一目会ったらサナトリュウムに戻ります」と言った菜穂子に、二郎は、「帰らないで。一緒に暮そう」と言う。――そうこなくっちゃロマンスじゃない!
堀辰雄版『菜穂子』読後に、おそらくは、エピローグがあって、都築とのロマンスが準備されていたのではなかろうかと思った。未完成な感じ、アンバランスな結末は、急逝した作者の体調と時間的なものだろう。また、もう十年ほど生きていればの話だが、作者は、最終的に、宮崎アニメの形に仕上げたのだろうとも思った。
それにしても、宮崎アニメを観るまでは堀辰雄の名前すら知らなかった拙。ほんとに、ボーっとして生きていたものだなあと思う次第。
ノート20180522
追記
後で知ったことだが、ここに出てくる夫人というのは、堀辰雄が世話になった上流階級夫人で、娘の菜穂子というのが、片思いの女性だったらしい。「風立ちぬ」に登場するヒロインは、菜穂子モデル女性にふられてから、軽井沢で絵を描いていた美少女で、婚約し、結核で亡くすことになる。




