読書/ブルースト『失われた時を求めて3 ゲルマントのほう』 ノート20180322
第二次世界大戦で、将軍達に教鞭をとった英国軍大尉リデルハートは、『ナポレオンの亡霊』において、古代ローマのスキピオから第一次世界大戦の小モルトケまで、著名な将軍達を挙げて、戦術史を著している。その中で、本編『ゲルマントのほう』が、軍人たちに好まれ読まれていたという一節があり、興味深く思った。
なお、このシリーズには巻末に、井上究一郎氏が訳したジャン=イブタディエ氏の要約があるので、以下に抜粋しておく。ただ、書き写すにあたり、誤変換があって、後日、こちらの裁量で手直ししたため、若干の変更がでてしまっている(*あくまでノートなので、そのあたりはズボラ)。
ジャン=イブタディエ「『失われた時を求めて』の要約 三 『ゲルマントのほう』」
この要説は、『スワン家のほうへ』に対置されるが、それとおなじように、田舎とプチブルジョワとの交際社会は、貴族の交際社会に対置される。『ゲルマントのほう』の全体のテーマは、したがって、話者の、ハイクラス社会での逸話だ。二部構成で、第二部だけが二章に分けられている。全体は、まず話者の家族がゲルマントの館の一アパルトマンに引っ越した時点ではじまり、これをきっかけに、名は人と対決する。『ゲルマントのほう 一』は一つの旅を間にはさんで二つの主要な大場面をふくんでいる。最初の大場面は、ラ・ベルマが出演するオペラ座のパルム大公夫人が予約した夜の観劇会で、話者はそこに大社交界のショーを発見することができる。彼はゲルマント公爵夫人に恋をするようになり、友人サン=ルーが入隊しているドンシェールの町に旅立つが、そうすることで(サン=ルーはこの貴婦人の甥にあたるのだから)この公爵夫人に紹介してもらえるのだろうとの希望を抱く。ドンシエールでの滞在は、『ゲルマント』第一部の二次的な大場面であって、そこには地方の駐屯部隊に生きる人々の世界があり、戦術論が交わサれ、ドレフェス事件についてのコメントがおこなわれ(ドレフェス事件ははじめてこの書物にあらわれる)、電話に出た祖母の声の痛ましいエピソード(『ジャン・サントゥイユ』からの再録)がはいる。パリに帰った若者は、春になって、サン・ルーとその愛人とに再会する、愛人はかつて一娼婦にほかならない。ついで、第二の大場面(オペラ座の夜の観劇会と対照をなす)「ヴィルバリジ夫人の午後のパーテェー」がくる。これをきっかけに小説の登場人物がすべて登場することになる。退出するときに、シャルリュスは、稚拙な助言を話者に申しでる。
ブルーストは、彼自身で、『ゲルマントのほう 二』を二章にわけた。第一章(つぎのサブタイトルをもっている、「私の祖母の病気。――ベルゴットの病気。――公爵と石。――祖母の死」」)は、やさしく話者を守護する人物、あの祖母の臨終にささげられている。第二章(サブタイトルは、「アルベルチーヌ」の訪れ。――サン=ルーの友人たちに約束されている富裕な結婚の見通し。バルム大公夫人のあえにおけるゲルマント家の才気。――シャルリュス氏への奇異な訪問。――私にはますます彼の性格がわからなくなる。――公爵夫人の赤い短靴」)は、第一章よりもはるかに長い(二五〇ページ)。サン=ルーは、彼をひどく苦しめたラシェルとわかれる。話者は公爵夫人への恋から回復する。アルベルチーヌは話者と再会し、彼に接吻する。主人公はゲルマント家に招待される。この章の最初の大場面であって、彼は同家所蔵のエルスチールの諸画面をながめる、しかしゲルマントの名はすでにその魅力を失い、話者は社買おう買いへの幻滅を感じた。シェルリュス氏のもとを訪れた主人公は、理解しがたい一場面を目撃する、その場面で男爵は、はっきりした理由もなく、激怒から平静に移るのである。
この物語の結末は、ゲルマント大公夫人のもとに招かれるいきさつを予告する、その大公夫人のサロンは、彼女の従妹であるゲルマント公爵夫人のサロンよりも、さらに閉鎖的である。ドレフェスはのスワンは、重病におかされているが、公爵夫人はそんな彼を歩道に置き去りにしたまま、招待された晩餐会に出かけてゆかなければならない。『ソドムとゴモラ』の「重大な発見」は、最後のページで予告される。このようにして、コンブレーの主要人物たち、祖母やスワンの、病気あるいは死と、社交界のむなしさとを明確に跡づけて、本編はおわる。
(井上究一郎訳)
井上究一郎訳「プルースト全集4 『失われた時を求めて』第三編 『ゲルマントのほう』Ⅰ」筑摩書房1985年 430‐431頁
ノート20180322




