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もう一度妻をおとすレシピ 第9冊  作者: 奄美剣星
Ⅱ 映画・テレビ
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映画/宮崎駿監督作品『風立ちぬ』 ノート20180511

 宮崎駿監督作品『風立ちぬ』ジブリ2013年


 ネット動画を観ていたら、宮崎速雄監督作品『風立ちぬ』の予告編があり、早速、アマゾンでDVDを注文し、視聴した。

 作家・堀辰雄が自身と婚約者との悲恋を描いた『風立ちぬ』の小説を基礎に、飛行機設計技師の堀越二郎のイメージを足した本作で、まず驚くのは、『シン・ゴジラ』『エヴァンゲリオン』を手掛けた庵野秀明監督が主役・堀越二郎を演じていることだ。視聴者の反応はどうだろうかと、検索してみると、案の定、とある男性ブログを拝読すると、棒読みではないかという批判があった。他方でまた、とある女性ブログを拝読すると、女性心理を理解しないエゴイスト男性設計家の夢につきあったヒロイン・菜穂子がサナトリュウムでの孤独死にかわいそうというご意見もあった。

 ところで、先日、私は、ミステリ賞の公募予選落ちした自作小説で、ジュペリを扱った作品の取材にあたり、ジュペリがニーチェの哲学に心酔していたということを知った。そのジュペリを、宮崎駿も信奉し、やはりニーチェを信奉ししているらしいことを知った。『紅の豚』は主人公のモデルがジュペリだといわれている。他方で、『風の谷のナウシカ』の漫画版クライマックスからラストシーンで、「生命は闇の中に瞬く光だ」とか「生きねば」という台詞があり、本作のラストシーンと重なる。――そういう事情で、私は、ニーチェの関連書籍を何冊か読んだことがある。

 宮崎駿とニーチェで検索すると、両者を関連付ける事情を描いたものもあった。

 「どうせ何をやっても無駄だ」という深い絶望をニーチェは〈ニヒリズム〉とした。小説の舞台は大正時代の関東大震災から、戦争終結直後だが、物語の大半は、多くの試作機を手掛けながら、ゼロ戦の一つ前の段階で止まる。帝国大生だった主人公は、関東大震災が発生する冒頭で十三歳のヒロイン・里見菜穂子と列車車中で出会い、十年後に軽井沢で運命の再開をして恋に落ち、婚約する。しかしヒロインは当時・不治の病だった結核にむしばまれていた。

 主人公が、大学卒業後に三菱重工に採用され、五年目にして、試作機のチーフになった。航空エンジンの出力が未熟で、それに合わせた機体を設計する必要があり苦闘していた。その気分転換で夏の軽井沢を訪れていたのだ。有名なスパイである共産主義者ゾルゲらしき人物と偶然に同席した際、満州国建国、国際連盟脱退、中国・アメリカ・イギリス……日本やドイツは、世界中を敵に回して戦争して空中分解するだろうという話をする。主人公は、東京の職場に復帰しても、学生時代からの親友である職場仲間が、同じ意見をいう。しかし、技師たちは、淡々と飛行機の設計を続けていった。主人公は、「どうせ日本は戦争に負けるのだから設計の仕事はやめよう」という話はしない。

 ヒロインは、余命いくばくもない。どうせ病気で死ぬのだから結婚はあきらめようとはしない。軽井沢で偶然に再会した主人公に告白したのはヒロインのほうだ。婚約後、療養先である長野県のサナトリュウムを抜けだしてきて、主人公の下宿する上司・黒川の家に押しかけてきて思い人の妻になった。主人公は、二人の「時間に限りがあるから」と、彼女を受け入れる。――こうまでされたら帰れとはいえまい。――さらに、黒川氏も最初は、君のエゴだろと意見するが、夫人の応援があって結局承諾。夫妻を媒酌人として祝言を執り行ってもらった。

 夫婦生活といっても、ヒロインは寝たきりだ。いってらっしゃい、おかえりなさいをいうだけである。訪ねてきた主人公の妹・堀越加代は、夢に向かって邁進する兄が、ときおり、周囲に対する配慮に欠ける点を責める。彼女はアンチテーゼをもちかける役回りだ。

 若い夫婦の別れは突然だった。

 女医になった妹・加代が訪ねてきたときで、折しも、逆ガル翼の試作一号機の試験飛行に成功した日でもあった。ヒロインは病床を引き払って、長野のサナトリュウムに戻って行く。追い駆けようとする加代を、黒川夫人が引き止め、「美しいときだけを好きな人にみせたかった」のだろうと、ヒロインの心境を代弁する。

 ――もし……加代の意見をくんで、堀越二郎が、主任技師の座を降り、菜穂子につきっきりで看病をしたとする。ゾルゲらしいスパイに接触した関係で、会社から守ってもらえず、特高による拷問の結果、獄死する可能性がある。はたまた戦局が悪くなったら、主人公はヒロインを置いて戦地行きだ。そのあたりの事情をヒロインは知っている。――菜穂子は、幸福の絶頂をくれた夫や周囲の人々に感謝して、死に場所となる長野のサナトリュウムに戻って行ったのだ。――こういうしっちゃかめっちゃかな行動は、堀辰雄『風立ちぬ』のヒロインの行動ではなく、むしろ、当時サナトリュウムで療養していた堀辰雄の行動そのものだ。

 宮崎アニメに話題を戻す。

 ラストシーンは主人公の夢で終わる。以前から、夢の中でたびたび現れて励ましてくれた、イタリアの設計技師ガブローニとの対話で終わる。草原に打ち捨てられた軍用機群の中を歩いてい行くと、主人公は、その人に再会した。そしてヒロインの魂が昇天していくところを見守る。ヒロインは、――全力を尽くしたのだから、もう私のところへ来てとは言わない。設計者としての役割は終わったけれど、それでも、「生きて」というメッセージを告げて消える。主人公は、「生きねば」と呟き、憧れのガブローニのお喋りを聞きながら、草原の中に消えてゆき幕となる。

 ――たぶんね――

 プロの俳優でも声優でもない庵野秀明監督を主役としたのは、朗読風にしたかったのだろうと思う。当然、棒読みは計算ずくのことで、はじめっから万人受けにはできていない作品だ。――棒読みが鼻についたとすれば、たまたま観た人の好みじゃなかったということで……。――少なくとも私は十分に楽しめたし、ごく自然に感動した。 

 余談ながら、作家・堀辰雄の『風立ちぬ』は、1976年、若杉光夫監督によって実写映画化されており、テレビドラマ『赤い疑惑』で人気絶頂だった、三浦友和と山口百恵のコンビで演じられている。

          ノート20180511

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