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男が500人に1人しかいない現ファ世界の特異点的男子  作者: オッコー勝森
序章:メトロポリス京都に引っ越し編

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1 新宅は男子寮(※タワマンのペントハウス)


 京都の新天地に向かう車の中で、俺は、認識の大転換を迫られていた。

 男が希少。それは今まで、考えたこともない可能性だった。

 断片的にだけども、俺には前世の記憶がある。前の世界で、男女は普通に(・・・)ほぼ同数だった。その常識に縛られていた。故に、自分以外の男を外で見ないし、歴史上の人物もほとんどが女性である理由は、女性が矢面に立つ風潮の社会だからと解釈した。

 でもそれは、やっぱりおかしい。いくら女性中心に世の中が回っていても、男女が同じだけいれば、男とのエンカウント率が0とか、あり得ない。

 思い出す。先ほど、目が合った瞬間に吸い寄せられてきた女性のことを。


「あのお、中葉さん。つかぬことをお伺いしたいのですが」

「はい。どんなことでもお聞きください」

「男って何人に1人ぐらいなんですか?」

「大体、500人に1人ほどです」

「……男が生まれる確率って、どのくらいなんです?」

「まあ! つくし様は男の子なのに勉強熱心なのですね。一般的な人工妊娠の場合は750から500分の1、自然妊娠の場合は200から100分の1と言われております。ただし、『メルミン』という薬を服用すれば、男子誕生の確率を50分の1程度まで上げることが可能です」

「へえ、そんな薬が。そんな薬があるくらいに……。男なしでの生殖は?」

「多くの科学者が取り組んできた課題ですが、誰も成し得ておりません。人工妊娠で、卵子の受精に精子側の生殖細胞として女性由来のものを使った場合、細胞分裂のステージで卵が自壊してしまうのです。参考になりましたか?」

「はい、とても。理解しました。これまでの全てを、理解しました……」


 後部座席で一人、噛み締めるように納得する。

 腑に落ちた。道理で、俺みたいな粗忽者でも、おばあちゃんたちから甘やかされるわけだ。

 男の希少価値が高いから、積極的に守らざるを得ない。


「着きました。ここが、花央院学園の男子寮です」

「タ、タワマン……っ」


 午後六時頃、俺たちは目的地に到着した。春分の日を過ぎたばかり、この時間の空はすでに青黒い。けれど、屋上から差し込む強い光が威容なる建造物の姿を煌々と照らすせいで、薄暗闇の中でも全貌を把握出来た。

 寮を名乗っていい建物じゃなさすぎる。新しい名詞を作ってもらえ。

 中葉さんから予め、向かう先が鳳家──日本の歴史と政治の中核を為す大貴族、紫徳五家が一つで、なんと俺の実家らしい──の屋敷ではなく学園寮と聞いて安心していた、前世から小市民の俺に、このサプライズは効く。静江おばあちゃんに京都が日本の首都と習い、道中で数々の摩天楼を観測したにもかかわらず、タワマンって古都京都の景観条例に引っかからないんですか? と、益体のないことを考えてしまう。


「つくし様。これは、入り口でピッとするカードです。ピッてしてください」

「ピッ、ピッ」

「まあ、生体情報が登録されるので、明日には要らなくなるのですが。昇り降りにはエレベーターを利用します。エレベーター、分かりますか?」

「分かりまぁす!」


 エレベータ、久しぶりだけど前世ぶりじゃない。九歳の誕生日、静江おばあちゃんと一緒に狩猟師資格を取りに行った時、協会の小汚いビルで乗った。乗りこなしたと言っても過言じゃない。

 わあ、傾けなくても槍が入るぞ! 扉がデカい!


「つくし様の住居は最上階。50のボタンです」

「はい。最上階の何号室ですか?」

「最上階、です」


 ペントハウス(※高級マンション最上階のワンフロア)、だと……?

 開放的な扇型のリビング。

 腕では到底囲え込めないぐらい広いガラス越しに覗く、百万ドル程度では絶対に会計が済まされない夜景。


「大丈夫ですか? 高所恐怖症など」

「いやあ、あのぉ、物理的に高いだけの所は怖くないんですけどねぇ」

「では是非お楽しみください。一番興奮するのはやっぱり初回ですから」

「ええまあ、楽しみますけど……」


 せっかくなので、とりあえず、反射した自分の姿が見えなくなるぐらいまで、ガラスに寄ってみた。


「はぁ、京都を視界の背景にする色男、絵になるなぁ。やばぁ……」


 振り返る。熱の篭った瞳だった。中葉さんの呟いた言葉は聞き取れなかったけど、嬉しそうなのは間違いない。嬉しそうにされると嬉しくなってしまう。

 心が温かくなって、和む。


「……あっ! も、申し訳ありません! 気持ち悪かった、ですよね」

「? 気持ち悪いとは? 俺、ニス塗り立ての場所でも踏みました?」

「いやっ! あの、あはは。えっと、あそこの席にお座りいただけますか? これからのこと、説明いたしますので」


 指し示された方角には、迫力ある大型テレビとソファがあった。映画鑑賞会とか開いたらすげえ良さそうだな。寮メイツを誘ってやりたい。ポップコーン製造機とかあるかな?

 三人用のソファがカタカナの「コ」の字に三つ並んでいる。中央のど真ん中を陣取った。右斜め前のこちら寄りに座る中葉さん。


「お伝えしていた通り、来月の四月から、つくし様には花央院学園に、中等部三年生として編入していただきます」

「はい! 学校楽しみです! 友達たくさん作ります!」

「えっ? 友達たくさん……? ひょっとして、普段から対面で出席されるおつもりなのですか?」

「それが当たり前じゃないんですか? まさか伝染病が流行っていたり?」

「いえ、男性には授業の出席義務はありませんので、ほとんどの方がオンライン講義を、それも興味のあるものだけご利用になります。試験は、一科目でも赤点ラインを越えていれば合格です。わざわざ出向く必要はございませんよ」


 なんだそれ? いくらなんでも男に甘すぎじゃあ? よほど勉強が好きじゃないと、身につくものも身につかないだろ。

 ああ、そうか。男が500人に1人レベルになると、その知性よりも生存の方が圧倒的に大事になるんだ。それこそ、登校に伴うわずかな危険が問題視されるくらいに。うわ、多分これ、ちょっとした外出も歓迎されないぞ。

 けど俺は、ペントハウス引きこもり生活なんざ御免だ。シンプルに息が詰まりそうだし、ぬるいシロップ漬け生活で、静江おばあちゃんや恵華おばあちゃんが言う、国に尽くせる人間になれるとは思えない。


「男子は、学園の籍はあっても座席はないとか、そういう感じです?」

「いいえ、つくし様の座席はもちろんあります。男の子でも、面白い教科のある日だけ登校するという方はいらっしゃいますから」

「であれば、俺はなるべく登校したいです。病気とかの理由があれば休みますが、そうでなければ校舎に行って、直に学びたい」

「えっ、ええええ!? その、奥様と相談させてください……」


 ソファを離れて、広い部屋の隅っこでゴニョゴニョ通信する中葉さん。奥様とは、中葉さんにとって本来の主人である俺の母親だろう。

 すぐに戻ってきた。


「私と、プロの護衛を一人付ければ許可するとのことです」

「別に要らないですよ。心配性ですね」

「女子はともかく、男の子ならば当然のことです」

「そうですか。スマホを貸してもらえたら、俺が母様と直接話したのですが」

「奥様はひどく緊張なさっております。つくし様とお話しする心づもりがまだまだ出来ておりません」


 なんじゃそら。それが、鳳家の屋敷ではなく男子寮(タワマン)に俺を直接送った理由なのかね。息子をずっと放置していた負い目でもあるのか?

 にしても、大人二人に見送られての登校とは、前世の常識に照らし合わせるとだいぶ気恥ずかしいな。そのうち一人の中葉さんに迷惑ではないかと尋ねたところ、「むしろ望外の喜びです」と、心底からの言葉であるかのように返された。反発するのも馬鹿らしくなってしまう。


「同じクラスの女の子たち、学業に集中出来るのかな……? アピールしたい子ならともかく、舞い上がっちゃうような子は……」

「ん? 何か言いました、中葉さん?」

「つ、つくし様にとっては些事でございます! お気になさらず!」

「はあ……。あの、もう七時前ですけど、お腹空きません? 俺、結構作れますよ。食材があればですけども」

「すでにご用意させていただいておりますので! ダイニングテーブルでお待ちください!」

「わ、分かりました」


 尽くされてばっかだな。

 シュンとした。


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