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二話 幸せ

目を覚ました。

立ち上がると少し目眩がした昨日のこともありあまり気分はよくなかった。

目も充血しておりうっすらと目からは涙が滲んでいる。

部屋を出て廊下からチラリと師匠の部屋を覗くと師匠はまだ眠っていた。

それにしても昨日の鍛えてくれると言うのは本当なのだろうか、いや今はそれよりも先にしなくてはいけないことがある。

朝食を作り机の上に置いておき川に水を汲んだ。

そして服を着替え外に出て村があった場所に向かう。


---


昨日と変わらずそこにはもうなにもなかった。


「父さん、母さん、ただいま」


昨日父さんと母さんの骨を掘り出し墓を建てておいた。

父さんと母さんの墓に向かって手を合わせる。


「ごめん父さん、母さん、帰るのが遅くて…」


目を閉じる。

墓の前に花を置き家に帰った。


---


師匠はもう既に起きていてリビングにいた。


「…あの師匠…昨日の件お願いしたいです」

「…ああ…わかった…」


師匠は鞄に色々と荷物を詰め家を出た。

そして師匠の後をついていった。


「よし、ここでいいじゃろう」


半径5メートルほどの大きさの洞穴に着いた。

そして師匠はこちらに杖を差し出した。


「これを持て」

「…はい」


杖を受け取ると、師匠はそこに生えている岩石から3メートルほど離れた。


「今からお前に習得して貰う魔法を見せてやる」

「…はい」

「…では…いくぞ」


師匠が杖を前に突きだし岩石に対して照準を定めた。

杖からは青く淡い光が漏れ出している。


「…………ウォータークラッシュ」


唱えた瞬間、水の塊が杖の先から勢いよく飛び出し岩石に衝突した。

岩石は粉々に砕け破片が四方八方に飛び散った。


「…しっかり見たな?これが魔法じゃ、お前にはこれからワシの知り得る魔法を全て伝授したいところじゃが…」


息を飲み込む。


「その前にやらなければいけないことがある」

「…はい」


師匠は鞄の中から本を取り出した。

少し埃を被っており表紙はボロボロだった。

数ページほど捲りこちらに差し出した。


「今からこれを使ってお前の魔法適正を検査する」


鞄からなにか動物のドロリとした血が入っている瓶を取り出し開いたページにトロリと落とした。


「よし、ここに手を付けろ」

「…わかりました」


手を当てると血がフツフツと沸き立ち色を赤から青に、緑に、一度赤に戻り、黄色になったりなどの変色を見せた。

そして色の変化が落ち着き一度強く光った。

目を開けたときには変化は落ち着きその姿を見せた。


「…青か」


血の色が青に落ち着きページに染み込んでいた。


「これでわかった、お前の適正は水だ」

「…はい」

「…どうした、あまり嬉しそうではないな」

「いやそういうことじゃないんですよ」


慌てて訂正する。


「じゃあどうした?」

「師匠の適正は何なのかなって…気になって」


師匠は一度笑みを浮かべ自分の頭を撫ですぐに真剣な表情に戻った。


「ワシの魔法適正はお前と同じ水だ」

「…そうですか」


少し口角が上がってしまった。


「…ではやるぞ」

「はい」


次に師匠は俺の手首を掴んだ。


「師匠?」

「次にするのは魔力の流し方を体で覚えてもらう」

「はいっ!?…」


掴まれた手首からビリッと電流が走った。

体がブルブルと震えている。


「っ!……っ…!」

「耐えるだけではだめだ、まずはこの感覚を覚えなければ魔法なんて一生使えないぞ」

「…っ…はいっ!」


そうして一時間ほど続き、ようやく体の震えが収まってきた。

体が魔力が流れるのに慣れてきたようだ。


「……ふぅぅ……」

「……もういけそうだな」


師匠は手を離した。


「では次はワシがやったようにお前にもワシに魔力を流してもらう」

「はい」


師匠の手首を掴む。


「……ふぅ」

「肩の力を抜いてただ集中するだけじゃ…腹の底から絞り出せ」


一度肩で呼吸する。

目を閉じると母さんと父さんとの思い出が脳裏によぎる。

楽しくなくても幸せだったあの日々は消えない、忘れてはいけない、忘れられない大切な日々。

だが今はそんなこと忘れよう、今の自分に必要なのはただの復讐心、執念だけだ。

絶対に許さない。


「……よし…魔力の流れは問題ない」

「…はい」

「…次の段階に行くぞ」


次に師匠は表紙に変な絵が描かれた本を取り出した。


「これは魔法書じゃ、次にお前にはここの中の初級魔法を覚えてもらう」

「はい」


数ページ捲り止まった。


「これだ、これを覚えてもらう」

「……何て書いてるんですか?」

「…ウォーターボールという魔法じゃ、この魔法は全ての水魔法の原点、基礎となるものじゃ」

「はい」

「今から見本を見せる、だから魔法の出始めから生成される瞬間の魔力の流れをしっかりと見て覚えろ、イメージをしろ…もし万が一これができなかったら水魔法はなにも使えないからな」

「……はい」

「では…いくぞ」


杖を構え。

師匠の体から杖に魔力が流れた瞬間水球となって姿を表した。


「これがウォーターボール、どうだ魔力の流れは覚えたか?できそうか?」

「やってみないとわからないです」

「そういう時は嘘でもできると言ってもいい」

「はい」

「ではやってみてくれ」


師匠と同じように杖を構える。

肩で深呼吸をする。


「…ではいきます」


やることはさっきと同じだ、魔力を杖に流し水球に形を変容させる。

まずは魔力を流す。


「……ふぅ」


腹の底から手首に魔力を流し杖まで行き渡らせる。

ここまでは順調。

あとは水球に変容させるだけだ。


「……っ…!?」


水球を生成することはできた、だが形を保てない。

ボコボコと形を膨張したり収縮したりと落ち着かない。

体が震える、杖を両手で支えるが体の震えが一向に収まらない。


「……っ…ふっ………」


ポンと肩に手が添えられた。


「落ち着くんじゃ、今ここにいるのはワシとお前だけ、他にだれもいない」

「……っはい!」


徐々にだが体の震えは落ち着いてきた。

それに呼応するように水球の暴れも落ち着き形は綺麗な球体に落ち着いてきた。


「…よし、できたな」

「…は…い……」


できたといっても形を保つので精一杯だ。

その後1分ほど形を保ち。


「もう解除しても大丈夫だ、初めてでここまで保つことができたのなら十分だ」

「…はい」


解除した瞬間水球は弾け辺りに飛び散った。

そして手首も痙攣し始めた。


「ぷるるるる…し、師匠…か、体ががががが」

「まあ初めての魔法じゃからな、めっちゃきつい筋肉痛みたいなもんじゃな」

「ななななるほどどどどど」

「よし今日は帰ろう」

「ははははいいいい」


---


家までの道中は師匠におぶってもらった。


「ふぅ…アレク着いたぞ」

「はい……」


もう指が1本も動かせる気がしない。

ベッドまで運んでもらった。


「今日はもう寝ておけ、明日のために体は休ませておけよ」

「はい…あの師匠」

「どうした?」

「…いつもありがとうございます師匠……」


言い終わりそのまま目を閉じるとすっと意識が落ちていった。


---


師匠視点


「…いつもありがとうか……」


眠っているアレクの頭を撫でる。

目の前にいるのはまだ10歳の少年だ。

そんな子に魔法を教えている、自分がこの子にできるのは本当にこんなことだけなのだろうか。

もっと明るい道を見せてやれたのではないのだろうか。

200年間、長く生きてきたのに弟子に正しい道を見せてやれない、自分が情けない。

でも昨日見せたあの表情、きっともう止まることなんて頭にはなかった。

だったらせめて少しでもこの子が生き残る確率が高い選択をしたい。

この子には決して死んでほしくない。

自分を師匠と慕ってくれる、もといた場所から逃げるように村に入った自分を最初に受け入れてくれたこの子とその家族に恩を返したい。


「こちらこそじゃ、いつもありがとうアレク…お前はワシに助けられたように思っているのかもしれんが、逆じゃ、本当はワシの方が助けられとる…」


部屋を後にし自室に戻った。

相変わらず部屋は無機質で生活感はなにもない、机の上には日記が閉じた状態で置かれている。

手に取り最後のページを開いた。

最後のページには四つ葉のクローバーが挟まれている。

これはアレクとあの日四つ葉のクローバー探しで見つけた物だ。

腐らないように魔法をかけて保存している。

四つ葉のクローバーを手に取り紙で包みアレクの部屋に向かった。

部屋に入り机の上に置いておいた。

そして部屋を後にした。


---


アレク視点


目を覚ますと朝になっていた。

筋肉の痛みは消えスッキリとした寝起きを迎えている。

立ち上がり伸びをした。

ふと机の上に視線をやると手紙のような物が置かれていた。

疑問に思い開けてみると中にはあの日の四つ葉のクローバーがあった、母さんと父さんにあげるはずだった四つ葉のクローバーが。

これも魔法なのだろうか綺麗な形のまま保たれていた。

紙に包み直しポケットに入れた。

1階に降りると既に師匠は起きておりリビングで魔法書を見ていた。


「おはよう師匠」

「ああ、おはようアレク、もう体は大丈夫か?」

「はい、ばっちしです早く今日の魔法の特訓をしましょう」

「そう急ぐな、まずはしっかりとご飯を食べて体を作るぞ」

「はい!」


朝食を作り食べ終え急いで部屋に戻り服を着替える。


「師匠もう行けます!」

「ああ、行こうか」


---


そうして3年ほど月日が経った。

魔法の特訓が終わった。


「お前がここにいるのももう今日までか」

「……はい」


3年の月日が経ちあの事件でわかったのは犯人が都市にいる可能性が高いということ。

ただ都市はここからかなり遠く行くなら片道切符分しかお金がなかった。


「師匠、ありがとうございました」


師匠に向かって深々と頭を下げた。


「……ああ、こちらこそありがとう、頭を上げてくれ」

「……」


師匠がこちらに近づき自分のことを抱き締めた。

それに対してこちらも抱き締め返した。


「あっちに行っても手紙は1ヶ月に一回は頼むぞ」

「はい、毎日書きます」

「そんなにいらん、余裕があれば書いてくれ」

「…はい」

「あとこれをお前に」


師匠はイヤーカフのようなものを取り出した。


「これは?」

「これは付けるとエルフの耳が人の耳に見える魔道具でな人間の街に行くならこれをしないと入れてもらえんからな、絶対に付けろよ」

「はい」

「付けなかったら差別されまくるからな」

「…は、はい」


---


そうして翌日玄関のドアを開け一歩踏み出した。

辺りはただの平原で空は綺麗に晴れていた。


「師匠ではまたいつか帰ってきます」

「絶対に帰ってこい、約束じゃぞ」

「…はい」


馬にまたがり進んだ。

振り返ると師匠の目は心なしか潤んでいるように見えた。

少し心が揺らぎかけた、今からでも引き返しても遅くないのではと思ってしまった。

もう寂しくなってきた。

歯を食い縛り前を向いた。

手綱を握る手に力が入る。

視界がぼやけ前がうまく見えない。


---


1年ほど移動をしてようやく都市まであと1日で付く。

そうして今は夕食を食べているのだが


「どうしたのアレク元気出しなよー」

「は、はい」

「サラン、ダル絡みはやめとけアレクが可哀想だ」

「知らないよー私の勝手だもーん」

「…ザンク、そろそろサラン止めた方がいいんじゃ…」

「まあいけるだろアレクもああ見えて嫌がってないだろ」


今自分は道端で出会った冒険者パーティーと一週間ほど旅を共にしている。

こちらは冒険者パーティーのリーダーだが適当なところがある剣士のザンク、自分が野宿で凍えているところを助けてもらった。

他には弓矢使いで先ほどダル絡みをしてきたサランと、サランを止めようとしていた魔法使いのアラン、タンクのタングと計四人でチームを組んでいるらしい。

そんなこんなで夕食も終わりテントで眠ろうとしていると


「おーいアレク起きてるか?」

「……はい、起きてますよ、なんですかザンクさん?」

「外に明らかに人が残した痕ではないもながあってな、一緒に確認しに行くぞ」

「他の方は?」

「他のやつはもう今日の疲れのせいでぐっすり寝ててな、起こすのも悪いからお前ならいいかなって」

「……わかりました、行きましょう」


杖を取りザンクとともにその痕まで行く。


「ここですか?」


そこには動物が食い荒らされた痕があり臓物が飛び散り血も飛び散り中々にグロテスクな現場となっていた。


「ああ、これとか人にしては死体の処理が雑だろ?」

「そうですね、それにこの爪痕なんて人間には付けられないですよ」

「しかもまだ臓物が暖かくてな恐らく…最悪なことにまだこの辺りにいるんだよ」

「なるほど……!!…ザンクさん!」

「ああ、確かに聞こえたぞ小さいが唸り声が」


振り返り杖を構えるザンクも剣を構えた。

息を飲み込み何が現れるのかを静かに待つ。

少しずつ足音が大きくなってきた唸り声も鮮明に聞こえるようになってきた。


「ザンクさん前衛は任せますよ」

「ああわかった」


そうしてそれは現れた。

熊のような見た目をしているが頭が3つ付いているケルベロスのような魔物が。

ぐわぁぁあああと大きな唸り声を上げながら右手を振りかぶり鋭い爪で切り裂きにかかった。

しかしそれをザンクが剣で受け流し、腕を切り落とした。

それを見てこちらも照準を合わせ魔力を杖に込めてイメージし水球を生成する。


「…ザンクさん離れて!」

「おう!」

「ウォータースプラッシュ」


唱えると水は勢いよく魔物に向かっていき付着した、そしてワンテンポ置いて爆弾のように炸裂した。

魔物の体は皮膚が剥がれ血が滲んでいた。

魔物が悶え苦しんでいる隙にザンクが距離をつめ剣を振り抜き首を3つ切り落とした。


「ふぅ…中々に言い腕じゃねえかアレク」

「ありがとうございます、ザンクさんが前衛で戦ってくれたお陰ですよ」

「へへそうか?じゃあお互いのお陰ってことで、ほい」


ザンクは手をグーでこちらに向けた。

こちらがわからずに戸惑っていると。


「そっちもグーで合わせんだよ」


そう言って空いている腕で自分の腕を掴み拳と拳を合わせた。


「ふぅ…これの処理は明日するからもう寝ようぜ」

「………はい!」


そうして朝になり魔物の素材になりそうな部分を採取し残った部分を燃やして処理をした。

そしてザンクたちとは2日で別れることになった。


「よーし、じゃあなアレク、都市はあっちだからなもう迷うなよー」

「わ、分かってますよ、迷ったのだってわ、わざとですし」

「ほーん、わざと迷うやつなんて初めて見たな」

「……」


そうしてザンクたちとは別れた。

馬にまたがり先を進むとようやく遠くに建物のような物が見え始めた。


「やっとか…長かったな」


ポケットの紙を取り出す

紙には四つ葉のクローバーが包まれている。


「父さん、母さん、師匠、やっとだよ待っててね」


そうして街の門を通り都市に入った。

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