一話 クローバー
燃えている家の中両親の死体を前に僕は世界に絶望していた。
この世界は残酷で罪に溢れ、弱い者が蹂躙され搾取される。
こんな糞みたいな世界に僕は生きている。
こんな世界に僕がいる。
「…あはっ…ははっ…あははははっあははははっ」
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遡ること5時間ほど前
「じゃあ母さん今日は師匠のところ行ってくるから」
「わかったわ、夜までには帰ってきなさいよ」
「気を付けてな」
「じゃあ行ってきまーす」
父さんと母さんに行ってきますと言い家を出た。
僕はアレク、最近7歳の誕生日を迎えたばかりのエルフだ。
何て事のないただのエルフの村に暮らしている。
家族は父さんと母さんと僕の三人家族。
父さんは優しくて物知りで分からないことがあればなんでも教えてくれる。
母さんは怒った時はすごく怖いがなにがあっても僕の味方でいてくれる。
僕はそんな両親が大好きだ。
今僕はそんな父と母になにか返せるものはないか近所に住んでいる師匠に相談に来ている。
「ねえ師匠、母さんと父さんに日頃の感謝を伝えたいんだけどさどういうことしたらいいかな?」
縁側に腰掛け静かにたたずんでいるエルフの老人に話しかける。
「そうじゃなー…うーむ、ワシはそういうことをあまりしてこなくてな…」
お互い頭を悩ませてしまう。
「そうじゃ!お前の両親が共通して好きなものから選んでみるというのはどうじゃ?」
「あー!それなら確かに見つかるかも!」
早速考えてみる。
母さんは植物が好きだった気がする。
庭でもなにか育てていたはずだ。
そした父さんは確か家族のためになる物が一番と言っていた気がする。
だったら家族のためになる花や物がいいな。
「師匠わかったよ何をしたらいいか!」
「そうか、それで何をするんじゃ?」
「四つ葉のクローバー見つけて父さんと母さんにあげるの!」
「ほう、いいのー両親もきっと喜ぶぞ」
「じゃあ早速探しに行こうよ師匠」
「それワシも行くのか?」
「うん、早く早く」
師匠の手を引き村の外に出る。
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村の外には平原が広がっており辺り一面に花が咲き誇っている。
「じゃあ師匠はあっち探して、僕はこっち探すから」
「ああ、任せい!」
師匠は家を出る前とは打って変わってやる気に満ち溢れていた。
そんな師匠を見て自分も負けてられないと気合いを出して探していると少し遠くの方から声が聞こえた。
その声が聞こえた方角に進むと。
自分と同年代ぐらいの子供たちが遊んでいた。
恐らくここら辺にある人間の集落の子どもたちである。
「おーい何してるのー?」
声をかけ手を振る。
子供たちがこちらに向いてくれた。
「なぁ、あれってエルフじゃないか?」
「うわ、絶対そうだよ、あの耳とか絶対そうだよ」
「あっち行って遊ぼうぜ」
子供たちは何かひそひそ話をしてどこかに行ってしまった。
「あ………まあいいや」
気を取り直して引き続き四つ葉のクローバーを探す。
茂みの中であったり花畑等を探すが見つかるのは三つ葉ばかりで中々に見つからない。
しかも日が暮れそろそろ家の門限に差し迫っていた。
「全然…見つかんない…」
探すのに疲れ木陰で仰向けになり休んでいると
「おお、どうじゃった四つ葉は見つかったかの?」
「ううん、見つからなかった…」
「そうか…ここら辺の四つ葉はもう他の人が取ってしまってもう無いのかもしれんな」
師匠が僕の頭を撫でた。
「うん、そうかも」
「なんてな…じゃーん!」
「え?」
師匠が懐から四つ葉のクローバーを僕の目の前に差し出した。
「ほれ、お待ちかねの四つ葉じゃよ」
「わあ!…えっと、これって貰っていいの?」
「ああ、構わんよワシはお前の手伝いに来ただけじゃからの」
「ありがとう師匠!」
師匠が僕の頭をもう一度撫でた。
「弟子の願いなら何でも聞くのが師匠じゃよ」
四つ葉を手に入れた。
そうして僕たちは手を繋いで帰路を辿る。
あと少しで村に着くところだったのだが、村の方角から何かが燃えているような匂いがする。
「ねえ師匠なんか臭くない?」
「そうじゃの、なんの匂いじゃろうか」
村に帰ってこれた。
だが村の家からは煙が上がっており地面には馬の足跡がたくさん残っている。
いったいこの惨状は何があったのだろうか。
師匠の僕の手を握る力が強くなった。
「師匠どうしたの?」
「……早く家に行くんじゃ…早く!」
「え?え?」
「ワシも後でそっちに行くから先に行くんじゃ!」
よくわからなかったが師匠の手を離し急いで家に向かった。
しかしなぜだか家に近づいていくほどに嫌な予感が頭を過ってしまう。
どうしてこんなにも胸騒ぎがするのかわからなかった。
そうして家の前まで来た。
家からは黒い煙が上がっており玄関のドアが開きっぱなしだった。
「………」
玄関は荒らされ誰かが争ったような跡が残っており血が辺りに飛び散っていた。
更に血の水溜まりのようなものができておりそれはリビングのドアの隙間から流れて来たものであることがわかった。
「…おっ…お゛え゛っ……」
吐き気を催し腹の底から何かが喉まで迫り上がってきていた。
「ぐっ……はぁ……はぁ……」
なんとか堪え家の中に入った。
家の中はひどい匂いで何かが焦げているような匂いがしていた。
「はぁ……はぁ……」
一歩踏み出す度に足取りが重くなる。
頭はクラクラし呼吸もまともにできていない。
そんな中ようやくリビングのドアに手を掛けた。
ドアは熱いがそんなことを気にすることは今の僕にはできなかった。
ドアノブに手を掛けぐっと押しドアを開いた。
「………うあ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛……」
目の前に飛び込んできた光景を僕は現実だと思うことができなかった。
父さんと母さんが切り刻まれ火で真っ黒な死体としてそこに横たわっていた。
「あ゛ぁぁぁあ゛あ゛あ゛っ……」
言葉にならない呻き声のような物が喉から出ていく。
足からはふわっと力が抜けその場に崩れ落ちてしまった。
「はっ…はっ…ははっあははっ…っお゛え゛」
堪らず吐瀉物を出してしまった。
「あ゛あ゛ぁぁ………ぁ……」
そこで意識は途切れてしまった。
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次に目を覚ますと僕はソファに横になっていた。
なぜだか気を失う直前の記憶がないいったい何があったのだろうか。
「いてっ……」
しかも頭も痛い。
思い出そうとすると段々頭痛が酷くなっている気がする。
頭の痛みに思わず狼狽えていると
「ようやく起きたか」
「…し…しょう…?」
なにやら普段とは違い真面目な顔をした師匠がそこに立っていた。
「何があったか覚えているか?」
「…いやあんまり上手く思い出せないかも」
「…そうか」
師匠はなにかほっとしたような顔をしている。
そしていつもの柔らかい表情に戻り。
「今日からお前はワシの家で少しの間じゃが住むことになったぞ」
「え?どういうこと?」
「お前の両親に頼まれての、これから少しの間二人っきりで旅に出かけるからお前をワシに預けると」
「えー…なんで父さんと母さんは僕を置いていっちゃったの?僕も行きたかった!」
「そりゃお前が子供だからじゃろう」
「僕だってもう立派な大人だし!」
「ははっまあ落ち着け少しの間じゃからすぐ帰ってきてくれるさ」
「…うん」
「それともワシと一緒は嫌かの?」
「…ううん、そんなことないし」
師匠はいつものように頭を撫でてくれた。
そしてそっと抱き締めてくれた。
「師匠?どうしたの?」
「いや、なんでもない少しだけこうしておきたいんじゃ」
「そっかじゃあいいよ」
こちらからも抱き返した。
「よし、今日はお前の好きなものでも作ってやろう」
「やったー!じゃあシチューがいい!」
「ああわかった、少し材料を取ってくるから家の中で大人しく待ってるんじゃぞ」
「うん、わかった!早く戻ってきてね」
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そうして両親の元を離れ師匠の家で過ごすことになった。
最初1ヶ月は楽しかったのだがやはり父さんと母さんに会えないのは寂しい。
今はソファに横になりぼーっとしている。
「いったいどうしたんじゃアレク、いつもより元気がないようじゃが?」
「…師匠僕はいつ外に出ていいの?もう1ヶ月も家の中じゃ退屈だよ」
「あと1日我慢してくれ、それでもう出れるようになるんじゃ…」
「そっか…じゃあもう1個聞きたいことがあるんだけど…母さんと父さんはいつ帰ってくるの?」
「それはまだ分からなくての…」
「そっか、母さんと父さんはもう僕のことどうでも良くなっちゃったのかな?」
「そわなわけあるか!お前の両親だって久しぶりの旅行で羽目を外しとるだけじゃよ、きっと帰ってきてくれる」
「そっかそうだよね…きっと」
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そうして翌日久しぶりに外に出た。
外は雪が積もっており空気が冷たかった。
「師゛匠゛ー゛寒゛い゛よ゛ー」
「そりゃそうじゃ今は冬じゃぞ」
師匠は呆れたように着ていたコートをそっと掛けてくれた。
「暖かい、これ師匠の?」
「ああ、そうじゃよ」
「でっかいね、師匠みたいに大きくなるにはどうしたら良い?」
「そりゃよく食べてよく運動してよく眠ればワシみたいになれるぞ」
「そっか、なら僕も毎日運動してるしご飯もいっぱい食べてるしいっぱい寝てるしすぐおっきくなれるよね?」
「ああ、そうじゃな」
「そういえば師匠ここってどこなの?ここって僕が住んでた村じゃないよね?周りに家はここにしか無いし」
「そうじゃな」
周りには家がなくあるのはだだっ広い平原だけ
「……ここはのワシの別荘での、今は少し旅行みたいな感じじゃよ」
「へー、師匠別荘とか持ってたんだ、意外とお金持ちだね」
「意外とじゃと?」
「だって師匠いっつも家の中にいるか庭で木の手入れしてるかしかしてないじゃん、暇そうだし」
「これでも昔は魔法使いとして名を馳せてたんじゃからの?」
「へー、絶対嘘だ」
「ふっ、また後で魔法を教えてほしいと泣きついても教えてやらんからな」
「いいもん別に、父さんに教わるし」
「…そうか」
一瞬師匠の顔が曇った気がする。
父さんの話を出したせいか別にいいと言ったせいか、どちらのせいかわからなかった。
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そうして二年が過ぎ今日は僕の十歳の誕生日だ。
食卓にはシチューとパンが置かれ対面には師匠が座っている。
「いやーすまんの誕生日だと言うのにこんなものしか用意できんくて」
「…ううんそれは全然気にしてないから大丈夫…」
「…お前の両親は今日も少し来れないらしくての」
「ううん、もう慣れてるから大丈夫、それに俺には師匠がいるから…」
「そうか…」
最近の食卓は静かで会話があまり生まれない。
会話があるとしたら体調だったり体に変化が起きていないかだったりが大半だ。
シチューを飲み干し皿をテーブルの上に置いた。
「ごちそうさま、師匠おやすみ」
「ああ、おやすみ」
席から立ち上がり階段を上る。
2階には師匠の部屋と今僕が使っている客間と二つほど部屋があり、手前に師匠の部屋が奥に僕の部屋がある。
廊下を歩いていると師匠の部屋のドアが開けっぱなしなことに気がついた。
普段なら師匠の部屋に入ることはない。
だが今日は違った。
ドアを開け中に入った。
師匠の部屋は整理整頓されており片付いていた、ふと机の上を見ると日記が一つ閉じたまま放置されていた。
なぜだかその日記に興味が湧いてしまった、手にとってページを捲った。
最初の数ページはありきたりのないことが書かれており、エルフの村に来たとか、師匠と呼ぶ子供に懐かれてしまったとかその時にあった印象的なことが書かれていた。
読み進めていくが一週間もすると飽きたのか中身の日付がが飛ばし飛ばしで記入されていた。
書いてあることも僕となにかをしたかだったりを書いているだけで特に着目すべき点はなかった。
そこから更に数ページ捲った。
すると突然記入されている文字の数が増えた日があった。
それは僕と師匠が一緒に暮らすことになったとわかった日だった。
その日付を見るとなぜか手が震え目の焦点が合わなくなってきた。
これを読むと自分にとって良くないことがあると直感でわかってしまった。
読むのをやめようかとも思ったがここでやめてしまうとこの違和感に一生気付けないと思い目を擦り日記を読む。
10月1日
今日は縁側でのんびりしているとアレクが家に来て両親にどうしたら感謝を伝えられるのかを一緒に考えてほしいと言われた。
だが残念なことにワシは両親には全くそんなことをした覚えがないので参考になるようなことは一つも言えなかった。
するとアレクが四つ葉のクローバーを見つけようと言い出した。
ワシは肯定だけして家で待ってようとしたがアレクに無理矢理に外に連れ出され探すのを手伝うことになってしまった。
だがいざやってみるとノリノリで探していたのでワシは相当弟子に甘いことがわかった。
そうして夕方まで探しようやく一つだが四つ葉を見つけることができアレクを探した。
アレクは疲れたのか木陰で寝そべり休んでいた。
そんなアレクに近づき四つ葉のクローバーを手渡した。
アレクは相当喜んでおり今まで一番のはしゃぎぶりだった。
手を繋いで家に帰っている途中なにやら村から焦げ臭い匂いがした。
村に着くと全ての家から黒い煙が上がっておりただ事ではないことだけがわかった。
地面には馬の足跡が残っていた。
そうして村中の家に入り生き残りを探したが全員が無惨な死体となっていた。
アレクの家に向かうとアレクがリビングの前で倒れており、近づくと目に写ったのはアレクの両親がリビングで無惨な死体となっていた光景。
その後アレクを村から離れた隠れ家に連れ帰ると目を覚ましたアレクは今日の記憶が抜け落ちていたようなので隠しておくことにした。
この事を思い出させるわけにはいかなかった。
アレクに嘘をつき両親が生きていることにした。
いつまでもそんなことが通るわけがないと思いながらも騙すことに決めた。
「……っ…あ゛ぁぁあ゛あ゛」
頭が痛い、割れそうだ。
頭を抱えその場でうずくまる。
だが全部思い出した。
あの日、村で何が起きたのかどうしてこんなことになっているのか全部。
歯を食い縛り日記の続きを読み進める。
日記を読んでわかったのはここは僕がいた村の近くではあるようだった。
どうして僕が見つけられなかったのかは師匠が1ヶ月掛けて村の痕跡を消していたかららしい。
だから最初の1ヶ月は外に出られなかったのだ、僕がもし外に出て見つけてしまうことがあれば記憶を思い出してしまうかもしれないから。
そして村のエルフ達の遺体は全て村があった場所に埋められているらしいことがわかった。
日記を開いたまま机の上に置いた。
そして部屋を出て1階に降りる。
玄関に向かっていく。
「おい、アレクどこ行くんじゃ?」
「…すぐ戻るから」
「…そうか」
僕は家を出るなり平原を駆け抜けた。
心臓がバクバクと動いていて耳鳴りがする。
村の場所はわからないが自然と足は動いていた。
「ここだ…はぁ…はぁ」
村があったであろう場所に辿り着いた。
周りの地面よりも少し窪んでいる地面が目に入った。
そこを一心不乱に手で掘っていく。
爪と指の隙間には土が詰まり、掘っていく度に指からは血が滲んでいる。
そうして掘り進めていくとゴツンとなにか硬いものにぶつかった。
そこには白く石のような物が見えた。
全容を見るため更に周りを掘り進めていく。
「あ…」
とうとう見つけてしまった。
頭蓋骨だ。
パッと見では人間のものだと思ってしまうがそれにはまた別の特徴があった。
耳の骨が尖っており明らかにその頭蓋骨はエルフの物だった。
「…あ゛あ゛……う゛う゛…あ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛…」
父さんか母さんかそれとも他の誰かのなんてわからなかったがそれでもこれがあることで事実なのだとわかってしまった。
父さんと母さんはもうこの世にいない。
原因は?
犯人は?
どうして?
見つけなければなぜあんな惨劇が起こったのか、誰に村の人たちは殺されてしまったのか見つけなければ。
必ず見つけてみせる。
見つけ出して…
「…殺してやる」
その後家に戻ると師匠が出迎えてくれた。
「おかえり…」
「ただいま…」
「どこに行っとたんじゃ?」
師匠の手には日記があった。
「…村があった場所に」
「…そうか」
沈黙が続いた。
「アレク、お前はどうしたい?」
「え?…それはどういう?」
「お前は犯人を見つけたいか?」
予想外の質問に体が固まり視線は自然と下に向かっていった。
「…そうか…明日の朝準備ができ次第ワシに声をかけろ」
「…それは…どういう…こと?」
「お前を鍛えてやる」
まさかの提案だった。
だが今はそれに答える余裕がなかった。
「………おやすみ師匠…」
「…ああ、おやすみ」
2階に上がり自室に入りベッドに潜った。
翌朝枕には濡れた跡があり湿っていた。




