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6、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第6章 優しさは、また誰かの帰る道になる   作者: Nao9999


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第160話 履き慣れるまでの時間

人は、新しい靴を履くと少しだけ歩き方が変わります。


それは靴が変わったからではなく、「前へ進もう」と思う気持ちが少しだけ変わるからなのかもしれません。


今回は、第1話で繋がった靴の続きを描きます。

「あの日渡せなかった靴。」


店主の言葉が、まだ耳に残っていた。


優斗は店を出ても、その箱をすぐには開けなかった。


抱えたまま国道を歩く。


夕方の風が車の音を運び、ガードレールの影が少しずつ伸びていく。


あの日も、こんな風だった。


違うのは、裸足じゃないこと。


帰る場所があること。


そして、一人じゃないことだった。


ベンチに腰掛ける。


ゆっくり箱を開けると、革の匂いがふわりと広がった。


少し古い。


だけど丁寧に磨かれている。


店主が何度も手入れをした跡が見えた。


「待ってたんだな。」


思わず笑ってしまう。


靴に話しかけるなんて、おかしい。


それでも、そう思えた。


優斗はそっと履いてみる。


少し硬い。


踵もまだ馴染まない。


立ち上がると、不思議なくらい歩幅が小さくなった。


「新しい靴って、こんな感じか。」


昔は、靴そのものが夢だった。


今は違う。


履いて歩けることが嬉しかった。


数歩。


また数歩。


ぎこちない。


でも、それでいい。


履き慣れるまでには時間がかかる。


人生も同じだ。


その時、後ろから小さな声が聞こえた。


「あの……。」


振り向くと、小学校低学年くらいの男の子が立っていた。


ランドセルが少し傾いている。


靴紐がほどけたままだった。


「どうした?」


「結べなくて……。」


優斗はしゃがみ込む。


「教える?」


男の子は頷いた。


「こうやって輪っかを作って……。」


「うさぎさん?」


「そうそう。」


何度か失敗する。


「あー!」


「焦らなくていい。」


もう一度。


今度は結べた。


「できた!」


その笑顔は、太陽みたいだった。


「ありがとう!」


男の子は走り出そうとして、また振り返る。


「お兄ちゃん、その靴かっこいいね!」


優斗は少し照れた。


「ありがとう。」


男の子が走り去ったあと、足元を見る。


店主から受け取った靴。


誰かに初めて褒められた。


その一言だけで、胸が温かくなる。


ポケットに手を入れる。


黒糖飴が一つ。


包み紙が夕日に透ける。


優斗は空へ向けて笑った。


「母さん。」


返事はない。


だけど風が吹いた。


その風は、国道をまっすぐ先へ流れていく。


まるで「あの日」から今日まで続いてきた時間を運ぶように。


夜。


家へ帰ると、父・拓海が玄関で待っていた。


「おかえり。」


「ただいま。」


その二文字が、もう自然に口から出る。


「その靴。」


「うん。」


「似合ってる。」


優斗は少しだけ目を伏せた。


「最初は硬くて歩きにくかった。」


拓海は笑う。


「いい靴ほど、最初はそうなんだ。」


その言葉に優斗ははっとした。


人生も。


家族も。


信じることも。


全部そうだった。


すぐには馴染まない。


痛い日もある。


それでも歩き続ければ、自分の足になっていく。


食卓には温かい味噌汁が湯気を立てていた。


灯もやって来て、いつものように笑う。


「今日も国道歩いてた?」


「うん。」


「何かあった?」


優斗は少し考えてから答えた。


「靴紐を結べるようになった子がいた。」


灯は首を傾げる。


「それだけ?」


「それだけ。」


少し沈黙が流れる。


でも、その沈黙は居心地が悪くなかった。


「優斗らしいね。」


灯が笑う。


拓海も笑う。


優斗も笑う。


その夜。


玄関に並んだ靴を見ながら、優斗は静かに思った。


あの日、渡せなかった一足は。


ようやく、本当の意味で歩き始めたんだ。

第160話を読んでいただきありがとうございます。


今回は「靴は履き慣れるまで時間がかかる」ということを、人との関係や人生そのものに重ねました。


第1話で渡せなかった靴は、優斗が履くだけでは終わりません。その靴で歩いた先で、また誰かの靴紐を結ぶ。


そんな小さな優しさの連鎖こそ、この物語が描きたい景色です。


次回は、第5章終盤として、さらに「あの日の国道」が現在へ繋がる出来事を描いていきます。

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