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ドリジャール、エメロッテ、クロコスミアの三人で次の作戦を考える

 廃墟となった車庫(ギャレージ)を整理させ、馬車に寝かされているドイル軍曹に応急手当をさせ、軍曹と馬車を駐屯地に送り出し、熱気立つゴーレムの上からその製造者を引き下ろすための梯子を見つけてきて彼女を地上に降ろしてやった頃。


 空はとっぷりと暮れ、それまで昼食を食べ損ねたことをすっかり忘れていた俺たちは、猛烈な空腹感に襲われ、屋敷の中に引っ込んだ。とはいえ、吹き曝しのままゴーレムを放置しておくのは現状余りにも危険だ。そこで、夜風に当たってようやく過熱状態から復帰したホルダーを、屋敷の勝手口の下に開けられた荷入れ(カーゴシュート)の中に案内した。そこは、屋敷で消費される諸々の食料品や消耗品を納入するための装置だ。


 外からみれば、それは地下へ続くセメント製のスロープにしか見えないが、その先には屋敷の使用人たちが使う作業区画に設けられた倉庫に通じている。だから、そのスロープに荷物を落としてもらえば、使用人たちは重い荷物を主人たちに見られることなく、屋敷の奥へと運ぶことが出来る。


 ぽっかりと口を開いたスロープの中に、ホルダーはまるで誂えたように綺麗に納まった。屋内から見ると、スロープの出口からホルダーの巨大な脚がにょっきりと突き出している。


 ただ、その状態ではゴーレムの中に入っているエメロッテが出てこれないのでは、と思っていたら、ホルダーの背面装甲板が、通常とは逆の方向に開放され、タラップが下がった。そこからエメロッテが這い降りてきた。


「ふぅ。とりあえずこれでホルダーを雨晒しにせずにすんだわね」


 肩や腰を解しながらそう言ったエメロッテは、自分が立っている場所の様子を興味深そうに見渡している。


「ちょっと埃っぽい場所ね」

「むさ苦しい場所で申し訳ありません。ドリジャール様、車庫は今後どうしますか」

「建て直すさ。今度は吹き飛ばないように頑丈に作らないとな」


 う、とエメロッテは呻いた。


「ごめんなさい。でも、あの時はあれが最善だと思ったのよ。そうでなければおじさまはあの魔術師のゾンビに殺されていたはずだもの」


 クロコスミアの顔に険しいものが走った。俺は鷹揚に手を振った。


「そうさ。俺だけでは奴を抑えることはできなかっただろう。だから今度はホルダーを呼ぶ時はあらかじめ言ってくれよ? ・・・・・・しかし、何を準備していたのかと思ったら、ホルダーを呼ぶ装置を持っていたんだな」


「ええ。これね」エメロッテはホルダーの内部から引っ張り出してきたそれを見せてくれた。一見すればなんてこのないトランクボックスだが、それを開けると、中には硝子製の大小の器具、真鍮製のシリンダーが複雑に組み合わされ、一端から外部に向かって細い針のような物が飛び出ている。


「無線装置ってやつだな。軍にも一台、馬車より大きな代物が置いてあるよ」

「これはそれほど複雑なものじゃないわ。こっちのアンテナからホルダーに向かって指令が飛ぶ。ホルダーがそれを受け取ったら、発信源に向かってホルダーが飛び立つわ」

「ふうん。それで君とホルダーの間を遮るものは、ホルダーの鋼鉄の身体で引き裂かれる定めにあるわけだな」

「自動操作だもの、あまり気の利いたことはできないのだわ」


 仕方ない、といった体でエメロッテは答えた。なるほど、それでは仕方ない。


「・・・・・・さて、それでは今後の方針を考える時間だ。連中・・・・・・『墓場の友』とやらは、どうやら次々と俺たちに手先を送り出しているらしい。こちらは居所が割れている。なにせ、セルジュゲイル館の存在はプリシィア市中に知られている」


 だから、と俺は続ける。


「ここで引きこもって、オルフェが帰ってくるのを待っているなんて選択は出来ない。あいつがいつ帰ってくるかわからないからな。それまで生きていられる保証もない」

「じゃあ、また出向きますのね」

「けれど、俺たちは連中の拠点を知らない。出来れば仕掛けてきた奴を捕まえて口を割らせたかったんだがな」


 このまま無策で外を出れば、また今日のように追いかけられ、密かに差し向けたゾンビで襲われることだろう。今日はうまいこと切り抜けたわけだが、同じようにうまくいくとはかぎらない。


「発言してもよろしいですか」


 不意に、側で控えていたクロコスミアが手を挙げた。


「いいぞ」

「ドリジャール様とエメロッテ様を狙っている輩が『墓場の友』と名乗っているのなら、墓場を根城にしているのでは?」

「そんな安直なのかしら。それに、墓地といってもプリシィアには墓所がどれだけあるのかわからないわ」

「・・・・・・いや、まて」


 俺はそれを聞きながら、ふと壁を見た。この倉庫の壁にはプリシィア全市域を描いた地図があった。俺はその壁に貼られた地図をはぎ取り、手近にあった机の上に置いた。


「死体魔術師にとって死体は必須の資源だ。だから連中は死体に触れる機会のある表の職業を持っている・・・・・・というのが、今朝までの俺たちの推測だ」

「ええ。そう思って今日はいろんな所に出向きましたわ。葬儀会社、棺屋、いろんな科目のお医者の所に」

「俺たちがまだ行っていない所がある」


 俺は地図の一点を指した。そこには『プリシィア王立墓地』と記されている。


「ここだ。オルフェウスの奴は例の『正妃の陰謀』を暴いて、危機的状況が国に降りかかるのを防いだ見返りに、故ミラベル王女の遺体所有を認められ、王立墓地の墓守という地位を与えられたわけだ」

「まぁ、そうでしたの?」


 目を丸くしたエメロッテに、俺はにやっと笑った。


「その話は追々な。・・・・・・そういうわけで、俺の偉大なる弟御は住み慣れたこの館から墓地にある墓守小屋に移った。まぁ、小屋と行ってもこの屋敷の離れとそう大差ないものだ。そこで奴は墓守らしく、墓を守っている。だが・・・・・・」


 そこで俺は墓地の敷地を指でなぞって囲み、次にその内側の一点を指した。


「王立墓地は広い。墓守が日常的に見ていられる場所には限りがある。それに王立墓地に隣接してる墓地群のほとんどは私有地だ。大小の墓地管理会社が所有しているから、そこに墓を置いていない人間は立ち入るのが難しい」


 王立墓地を取り囲むように広がる敷地に、様々な名前の組織名を冠した墓地が立ち並んでいる。そこにはオルフェウスのように各々が雇い入れた墓守が立ち入る者を、厳しく管理しているのだ。


「『墓場の友』が私有墓地を根城にしている、という可能性は大いにあり得るだろうな。問題は、どの墓地か、だが・・・・・・」


 そのとき、クロコスミアが温かい湯気の香る軽食を乗せたカートを押して部屋から出来た。いつの間にか倉庫を出て、用意してきたらしい。


「まだこちらでお話が続きそうでしたので、こちらにお持ちしました。それとも、他の部屋へお運びしますか」

「いや、ここでいい。・・・・・・ふふ、エメロッテ、いっそこの倉庫をホルダーの格納庫にしてしまおうか。その方がお前も安心だろう。まぁ、また屋根が吹き飛ぶようなことがないように手を加えての話だが」

「まぁ! それは、うれしい申し出ですわ」


 俺とエメロッテはカートに乗ったコーヒーとサンドイッチを取った。サンドイッチは軽くトーストしたものにマスタードとチーズ、薄切りにしたピクルスが挟んであった。


「ここをお使いになるなら、別の所に倉庫を用意してもらわなければいけませんよ。あまりお屋敷に手を入れますと、大旦那様がいい顔をなさりませんが」

「かまうものか。田舎で隠居してる親父様の顔色をうかがっていられるほど、こっちに余裕はない。細かい差配はクロコスミア、おまえに任せるが、いいな?」


 頬の頂をわずかに振るわせ、静かに息を吐いて、クロコスミア女給長は頷いた。



 その日は結局、夜遅くまで俺たちは会議を続けた。俺と、エメロッテ、時々クロコスミアが立ち入る、小さくて不思議な話し合いだった。

 クロコスミアが談話室から紳士録を引っ張り出してくれたおかげで、次の行動の目星になりそうな相手を絞り込むことが出来た頃には、時計の針は日付が変わったことを示していた。

 俺が地図と紳士録から見漏らしがないだろうかと()めつ(すが)めつしていると、視界の端でエメロッテが船を漕いでいた。


「夜更かししすぎたな。ほれ、お嬢さん。ベッドへお帰り」


 肩を揺すってやると、エメロッテは寝ぼけ顔で俺を見た。焦点が合った瞬間、小さな悲鳴を上げていた。


「ああ、私、もしかして眠ってたの?」

「いい具合にな」

「いびきなんてかいてなかったかしら」

「静かなものだったさ。起こすのが少し惜しかったくらいには」


 実際、エメロッテの寝顔は、月並みな言い方だが天使のようだった。そのまま抱き上げてやろうかとふとよぎったが、子供のみぎりならばともかく、今は・・・・・・気が咎めた。


「今日はいろいろあったからな、よくお眠り」

「・・・・・・ええ、そうします。おやすみなさい、おじさま」

「ああ。おやすみ」


 エメロッテを伴って、クロコスミアも倉庫を出ていった。部屋まで案内するのだろう。

 俺も、もう一度地図を眺めてから、自分の部屋へと下がった。長い一日が漸く終わるな、と思った。


 大間違いだった。




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