朝霞と村松その2
朝霞と村松その2
「おお! 久しぶりにパトロン殿からだぞ!」
自席に戻って調査を再開しようとした朝霞は、携帯の確認をするや歓喜の声を上げた。
村松も勢いよく振り返ってくる。
「マジでか!?」
「マジだよ」
「何というタイミングの良さ! エリナたんのライブ前なのに懐が寂しくて困ってたんだ」
パトロン殿とは、彼らのサークルの財政支援者だった。かつて活動費のために製作したが、在庫の山にしかならなかったグッズを大人買いして窮乏を救ってくれた恩人である。直接の面識はないが、連絡でのやりとりから察するに、どうも高校生っぽいのだけれども、たとえそうでも、彼らにとって敬服すべき存在である。
「パトロン殿、なんだって? また財政支援でもしてくれるのか!?」
「オーダーだっ!」
朝霞は高らかに宣言するや、村松に携帯の画面を突きつけた。
「近過ぎ、近過ぎ、見えない、見えないから、顔にめり込ませる気か」
「ああ、すまん。だが、そうしたくなるくらいの朗報だ。鴨が葱と鍋とポン酢を背負ってやってきた!」
「喩えおかしくないか……おおぉ!」
ツッコミかけた村松もまたパトロン殿からのメッセージを読むや、歓声を上げる。
『空飛ぶ少女の噂をご存じですか? 情報を下さい。お礼は』
「すっごい偶然だな。俺たちが目下、追っているものを、まさかパトロン殿も興味を持ってるなんてさ。だけど、なんで、文章が途切れているんだ?」
「言いたいことは分かるから十分だろ。わざわざのオーダーだ。ここで期待に応えねば、俺たちの存在意義すら問われる」
高らかに言った朝霞であったが、腹の虫が盛大に鳴った。
「腹が減っては戦は出来ぬというからな。ちょっくら腹ごしらえでもするか。朝からネットに張り付いていてろくに食べてなかったしな」
「俺以上の金欠で、飯が買えなかっただけだろ」
「細かいこと言うなよ。そうだ、でかい仕事受けた前祝いといくか。定食屋の特別ステーキ丼、今日までだったよな?」
「奢らないぞ」
「ツケだよツケ、なんつたって、報酬が入ってくるんだからな」
「その手があるか。なら、俺はカツ丼の特盛でも食べようかあ」
「おうおう、食っとけ食っとけ。成功したら、盛大に酒盛りだ!」
「なあなあ、もしさ、報酬を多目にもらえるならさ、エリナたんの限定ソフト買っていいか? 特典売り切れないうちに予約しておきたいんだけど」
「ば、馬鹿野郎ぅ、研究会の活動費なんだぞ。研究会のために使うに決まっているだろうが!」
叱責する朝霞であるが、口元が相当に緩んでいて、下心の程を雄弁に語っていた。
「色々古いからな、まずは、これを機にパソコンも新調するか」
「借金の返済もしとかないとな」
「んなもん、払ってやるさ。これで集金蟲どもともおさらばだ」
あれこれと二人がすっかり狸の皮算用に盛り上がっていたら、扉が叩かれた。
「はいはい、何か不思議関連の調査依頼かぁ~い?」
朝霞が応じて出ていくと、扉の向こうには、数人の男が佇んでいた。そのうちの一人がやけににやにやと笑みを浮かべてくる。
「よぉ、えらく景気の良い話をしてるじゃないか。俺たちもちょっと混ぜてくれねえか」




