有須田真世その1
有須田真世その1
いたいたいたいた。本当にいた!
大きなバックを抱えて、物陰から公園を窺った有須田真世は、心の中で叫んだ。
ファミレスにいた例の三人組だ。間違いない。
「本当にいた! 本当にここにいた! 初めてきたところなのに、あの公園は見覚えがちゃんとある。そこにあいつらがいる。夢で見た通りだ、やばいわ、まずいわ、えらいことだわ」
真世は深刻な表情になって、声こそ抑えているものの呟きを漏らす。時折、通行人が、いかにも薄気味悪そうに見てくるが、彼女は気にする素振りもない。
有須田真世は、宝樹学園の二年生である。高校では、とにかく地味で目立たない生徒で、学年カーストは最下層のFランクである。と言っても、これは宝樹学園に制度としてあるわけではなく、一部の生徒が悪ふざけで作ったものを、ひょんなことから真世が目にしたのだ。
確かに自分は、クラスで男子に人気のお嬢様みたいに海外留学経験もなければ英仏語ペラペラでもない、ギャル子さんみたいに歌って踊れるわけでもない、密かに同類と思っていた地味香ちゃんみたいにネットで大人気、仕事も受けている絵師でもない。何もない根暗鈍亀と思われても仕方がない。だが、それでも、自分にだって秘密にしているだけで他人にはない特技だってあるのだ。
真世は、通りの角に転がる空き缶を見詰める。
そして、念じると、缶は風もないのに転がりだし、自販機の傍に達するや、すっと立ち上がり、掃除機に吸い込まれるかのように隣の缶入れに飛び込んでいった。
真世は一人拳を握り締める。調子は問題ない。
有須田真世は超能力者であった。
物心ついた時には、異能は既にあった。ただ生来の引っ込み思案の性格と、超能力と言っても、机の端にあるペンを転がして落とすぐらいのささやかもあって、ずっと秘していた。
ところが、どうしたものか、学園島に来てから能力が強くなっていったのである。最近では、予知夢まで見るようになっていた。
そして、ここ数日、学園島が滅びる夢を繰り返し見るようになっていた。
最初はただの悪夢と思っていた。全身に光を帯びた金髪の少女が空中に浮いていて、学園島に破壊をもたらす、などあまりに非現実的な夢であったからだ。これは青き天使の最終章オフィーエル第一話の始まりそのものである。好きなアニメに単に影響されたのだろう、新しいクラスに馴染めていないストレスが無意識に反映されているのだろうと思っていた。昨日までは。
下校途中、ある男子学生寮から三人の人物が出てきたところに出くわしたことで、真世の認識は変わった。その光景を、昨夜、まさに夢で見ていたのだ。
まさか、と思いながらも真世は彼らの後をつけずにはいられなかった。
近くのファミレスに入った三人を、通りを挟んだ向かいから観察した真世は驚愕で身体が震えた。店内に入るまで、その中の一人は帽子を目深く被って顔と髪を隠していたのだが、露わになった金髪と横顔は、真世の夢に出ていたあの金髪の少女、そっくりだった。
これがただの偶然ではないとしたら、最近、自分が繰り返し見ている夢は正夢なのか。浮かんだ疑問が、戦慄となった瞬間、真世の無意識によって発動された力によって、近くに停められていた乗用車が無人のままファミレスに向けて走り出した。
直後に起こったファミレスでの不可解な出来事の全てを、真世は目撃することになった。
それから、同行の少女の住まいであろう女子寮に連れていかれるのを見届けてから真世もまた強い疲労を感じていたので引き揚げたわけだが、その晩も、やはり三人が出てくる夢を見た。どこかの公園にいた。
それで、夢で見た通りの道を辿ってみれば、実際に公園があって、三人がいたのだ。
もはや、自分が今日まで見てきた悪夢の意味を疑う余地はなかった。
となると、次の問題は、あの破滅の夢はいつのことを予知していたかだ。夢の中では、惨劇が起こった時、荒野エリナのライブが真っ最中であった。ライブは明日の午後だから、猶予は、あと丸一日と数時間しかないことになる。
この力は、きっとこの危機を救うために目覚めたのだ。なら、自分がやるしかない。
何度目かの自問の果てに、同じ答えに辿り着いた真世は、息を殺して三人の様子を窺いながら、決意とともにバッグを握り締めた。




