佐倉蒼佑その4
佐倉蒼佑その4
「あー、佐倉さん、おはようございますぅ」
「遅い!」
待ち合わせ場所である、真紀の寮の近くにある公園に蒼佑がやってきた時には、既に二人が待っていた。本日の山田さんは、蒼佑の帽子を被ってはいたが、真紀から服を借りたのか年相応の少女の恰好をしていた。
「時間通りじゃないか」
「女子を待たせるなんてありえないから」
真紀は朝から容赦がない。
「で、どうなんだ?」
「どうも、何もないわよ。昨日と同じ、山田太郎さんのまま」
蒼佑の声を潜めての問いに、真紀は溜息を混ぜつつ同じ調子で答える。
「はぁい、山田太郎、おかげさまで元気です」
蒼佑の窺う視線に、ばっちり会話が聞こえていたようで、山田さんがどこまでも純真な笑顔で、能天気に会話に加わってくる。
「やっぱり、保安局に連れていくしかないと思うんだけど」
真紀の囁きに、蒼佑はうーん、と唸った。
「あのー」
控えめの会話にも、山田さんが入り込んできたので、蒼佑も真紀もびっくりする。
「な、なに!?」
「私、なんかこの島でやらないといけないことがあった気がするのです」
「具体的に、何をやらないといけないんだ?」
えっとぉ、と蒼佑の問いに、山田さんは本人であるのに緊張感のない呟きをしてから考えるも、期待した答えは出てこなかった。
「さあ……?」
蒼佑はがっくしと肩を落とす。視界の隅で真紀も似たような反応をしていたが、素早く気持ちを立て直すや、物言う強い眼差しを向けてきたので、蒼佑も無視はできなかった。
「あのさ」
「何ですかぁ?」
山田さんは小首を傾げつつ、上目遣いで見てくる。
えっと、と言葉に詰まった蒼佑は一転して、空気を振り払った。
「何かのきっかけで思い出すことがあるかもしれないからな。何か力になられることがあれば言って」
「はあい、お願いします」
山田さんは無邪気な笑みを向けて返事をしてくる。
「困っている人は助けろって、小、中と言われてきただろ」
噛みつかんばかりの真紀の気配を察して、蒼佑はすかさず釈明する。もっとも、本心は別にあった。このまま彼女を保安局など連れて行ったら、きっと身柄を引き渡して終わりだろう。曲がりなりにも頼ってくれているのに、彼女ほどの美少女とこれっきりになるなんて。何より、彼女自体が非日常の存在なのだ、もったいないではないか。
「本当に、それが理由なの?」
「当たり前だろ」
本心を見透かすような真紀の問いに、蒼佑は答えるも、すぐに彼女の視線が山田さんの豊かな胸に注がれているのに気づく。
「そ、それは関係ない! 本当に関係ないから!」
蒼佑は慌てて全力で否定した。世の中には、どうしても素直に認めていけないものがある。
ところが、山田さんは話題の中心に気付いたようで、無垢な表情のままよりにもよって両手で自分の胸をわざわざ押し上げてくるではないか。
「山田さん、男の前でそんなことしちゃだめ!」
真紀の悲鳴に近い声が広くもない公園に響いた。




