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学園島狂詩曲  作者: 水鏡
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槻澤狩真その2

 槻澤狩真その2


 友人との通話を切り上げた狩真は、DD学院の敷地に足を踏み入れていた。しばらく来るなと言われた矢先に、ただちに来いとは、学校責任者は相当な気分屋だ、と皮肉っぽく思う。

「やっと来たのね、この私を待たせるなんて、随分といいご身分ね」

 そんな狩真を、嫌味たっぷりで出迎えたのは、アリスティア・セルマ・ライヒラインであった。狩真と同じDD学院の二年生、秀麗な容姿、艶やかな銀髪、欧州に本社を置く大企業の経営者の娘にして、王侯の血まで引いているというこれでもかというお嬢様だった。優等生にして、重装機の優れた操縦者であり、白銀の剣姫の異名をお持ちである。狩真との関係において重要なのは、昨日、誤解が誤解を生んで、決闘を挑んできた相手であり、しかも、その後の寮での騒動によって停学の原因となった少女であった。

「わざわざ休みに、学校に行く習慣もつもりもなかったんでね」

「あなたに飛ばされた飛行ユニット、今朝方、見つかったわ」

 アリスティアは、狩真の返事を無視して不機嫌に切り出してくる。

 剣姫の機体は、お嬢様故か高性能な飛行ユニットを特別に装備していた。昨日の決闘でも、お嬢様はそれを存分に活用して圧倒的に優位な戦いを仕掛けてきたのだが、狩真は一瞬の隙をついて、自身の脳波で、お姫様ご自慢の飛行ユニットを暴走させ、機体が制御を失ったところに一撃を与えて勝利を手にしていた。重装機は、搭乗用人型ロボットというだけでなく、機体操作に脳波を活用している点にも特徴があった。と言っても、まだまだ発展途上の分野で、操縦に反映させられている領域も決して大きくはない。ただ、狩真は一時的であれ、脳波の感応度を高められる特性を有している。

 おかげで、転校初日に、周囲をあっと言わせて、輝かしい勝利を狩真は手にしたのであったが、代償は安くなかった。暴走させた飛行ユニットは、学院競技場の天井ドームに穴を空けて、上空へと飛んで行ってしまった。弁償こそ回避できたものの、天井の補修作業に従事させられ、これに時間を費やしたがために、結果的にアリスティアの入浴現場に遭遇して、停学する羽目に繋がってしまったのである。

「良かったじゃないか」

「全然、良くないわよ! 農場試験場の農地で発見されたのだけれど、ほとんどバラバラで、ひどい有り様になってたんだから」

「何かとぶつかりでもしたのか?」

 飛行ユニットがどこまで上昇していったか知らないが、農地であれば落下時の衝撃はそれなりに吸収されていてもおかしくはない。

「そうとしか考えられない状態だけど、建物にも飛行中のものにも接触したとは確認されていないわ」

「わざわざ、呼び出されたのって、その文句を言いたかったのか? まさか、弁償しろって?」

「冗談でもそんなこと言うつもりはないわ。あなたにそんなことできるなんて端から思ってないから」

「じゃあ、何の用だって言うんだ?」

 途端に、アリスティアは苦虫を噛み潰したような顔になった。器量も出会い方も、まるでラノベのヒロインみたいなのに、ツンの成分が強いのが難点である。

「明日、荒野エリナのライブがあるのはご存知?」

「知っている」

「そのライブで、私たちDD学院の重装機選抜チームも、一部協力することになっているの」

「模擬戦でもやるのか?」

「キャストよ」

「キャスト?」

「ライブを盛り上げるためのね」

 重装機はまだ誕生して間もない最新技術であり、産業である。世間の需要を喚起するために、何かに付けて披露しているのだが、ライブ協力もその一環なのだろう。

「それが俺にどう関係があるんだ?」

「出演予定の操縦者が、怪我をしてしまったの。昨夜、バイト先のファミレスで事故に遭遇したらしくて」

「ありゃりゃ、運が悪い。ひどいのか?」

「腕をひどく捻挫したらしいわ。明日のライブに出演するには難しいみたい」

「だから、俺に代役をやれって?」

「嫌ならいいの。むしろ、断ってくれたなら、私としてはありがたいくらい。一人欠けたところは、私がどうにかすればいいのだから」

「名誉挽回の機会ってわけか、だけど、なんで俺なんだ? 転校してきたばっかりなのに」

「……昨日の決闘でのあなたの操縦技能を観戦していた学校側がやたらと高評価したの。試験時以上に技能を有しているってね」

 日が明けても、敗北が受け入れ難いらしいアリスティアは更に苦々しく答える。

「なんであれ、面白そうだな」

「どう思うが勝手だけど、やると言うなら、この私の迷惑にならないようにしてね」

「はいはい、分かったよ」

 ぼやき混じりの返事をしながら、狩真は、歩き出すお姫様の後をついていった。

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