佐倉蒼佑その3
佐倉蒼佑その3
「何だったの、一体っ!」
「俺に分かるわけないだろ!」
夜の街を息せき切って走りながら、蒼佑と真紀は言い合っていた。
本当に、何が何やらだ。いきなり店内にいる自分たち目がけて車が突っ込んできたかと思ったら、山田さんが立ちはだかり、次の瞬間、彼女の全身が眩く光ったのである。強烈な光に浮かんだ陰影の中で、車は見えない巨大な手に受け止められたみたいに、空中で停止すると、その場にどすんと着地した。おかげで、蒼佑たちは惨事を免れるも、直後に、店内は大混乱に陥り、我先に逃げ出す人々の雰囲気に呑まれて、光が消えるやばったりと気を失った山田さんを抱えて、退散した次第だった。
「この子、何なのっ!?」
「知りたいのはこっちだよっ!」
冷静さを失った真紀の詰問に、山田さんを運ぶ蒼佑も困惑するばかりだった。
人通りが少ないところまで逃げおおせてから、ようやく二人は立ち止まる。
「これから、どうするつもり?」
「どうするって、さあ……」
蒼佑としても、これまた答えに困る問いだった。
肩越しに伺えば、山田さんは緩み切った顔をして、独り夢の世界を満喫中である。
「むにゃむにゃ、はぁい、まだまだ、食べられますよぉ」
途中の退席を余儀なくされたが、あの時点ですらかなりの料理を平らげていた。なのに、まだこんな寝言が出てくるとは。
「……イラッとしてくる、私って性格悪いかな?」
真紀の呟きに、蒼佑も賛同したくなる気持ちはあったりする。
「どうするかかあ……」
「どうするの?」
「部屋に連れて帰る……わけにはいかないからなあ」
真紀の目付つきにこれ以上ないほどの剣呑さが加わったのに瞬時に察して、咄嗟に否定する。
「保安局へ連れてく?」
島での警察業務を担っている部署を真紀は口にしてくる。存在自体不可解過ぎる上に、ほぼ間違いなく、真っ当な手段で入島していないであろう山田さんを、引き渡すのは順当な判断ではある。
「だけどさ……」
「何よ?」
「俺たちって、山田さんに助けてもらったんだよな?」
「多分ね」
真紀もそこは認めざるを得ないようだった。
「ってことは、一応、恩人なわけだろ? それに、山田さん、何か目的があってこの島に来たって言うし……」
そう思って、山田さんの無邪気過ぎる寝顔を見れば、さっき覚えた苛立ちも半周回ったりもする。このまま保安局に引き渡すのは、部屋に迷い込んだ野良の子猫を問答無用で保健所に突き出すのに似た罪悪感を抱かせた。
「もう、しょうがないから、今晩は、うちの寮で預かることにする」
蒼佑と思いを同じするところがあったのだろう。真紀はこれ見よがしな溜息を吐きはしたものの、申し出てくれた。
「いいのか?」
「明日、山田さんから、事情を聞く。それで、どうするか考える。これでいい?」
「ほんと、助かる」
「あんたのためじゃないから。ともかく、決まったのなら寮へ行くわよ。こっちも門限あるんだから」
真紀に急かされて、山田さんを背負った蒼佑は女子寮に向かった。
寮に向かう蒼佑たちの動向を、物陰から観察していた視線があったが、無論、蒼佑たちは気付かない。
島はいつになく騒がしい夜を迎えていた。




