血の子
木材の床は虫に食われ、窓枠から侵入するツルは畑の植物だったのか、今もたわわに緑の実をつけていた。
「…………畑は燃えても、植物は案外無事なもんだな」
「罪の意識を思い出したかね? それとも覚えていたものを今一度直視して、逃げたくなったかね? だがユミフネが悔やんでも無力だとも。せいぜい、ワタシ達にできることは生き抜くことと、少しでも良く生きることだ。それは償いでもなんでもない」
「……わかってる。ありがとう。……もう大丈夫だ。ここまで来たしな。使えるものを探そう。俺たちのために」
「それでこそ君だ」
残っている家屋を一軒一軒確かめていったが、どれも布製品は使い物にならない。屋根も壁もある建物のほうが多いには多いのだが、劣化はどこまで進行しているかわからなかった。
「新しい服もなければベッドもダメだねぇ。残念。君もワタシの新しい服を見て、一緒にベッドで休みたかったのではないかね?」
シロロンは少し頬を赤らめて、ケラケラと無邪気にからかってくる。ユミフネは誤魔化すみたいに鼻で笑った。
「そうだな。子供のころは犬と一緒に寝てた。あれはよかった」
「グルル……!!」
シロロンはうなり声をあげながら部屋を確かめていく。日の入りにくく大型の捕食者が入れないからか、多くの家屋がスライム類の巣になっていた。
「これは……まぁ自然の摂理ではあるね。ところでスライムは食べられるかね?」
「高級食材らしいな。食べてみるか? まぁ高い理由は加工の過程で大量の塩を使うし時間がかかるからだが」
「……一匹ぐらい天日干しでなんとかならんか確かめてみよう」
冗談か本気かわからない発言を節目に、スライムを踏まないように探索していく。彼らも魔力を行使できる生物であるため、一応はモンスターに該当するのだが、闖入者のことなど構う様子もないのが幸いだった。
「見ろ。大当たりだ。金属はある程度無事みたいだ。錆びちゃいるが、研げば十分直せるものがたくさんあったぞ」
「見たまえ! 見たまえ!! 見たまえ!!」
鉈に斧を見つけてユミフネは笑みを抑えきれずに歓喜した。土間を調べていたシロロンも転びそうな勢いで駆け寄って収穫を見せつけてくる。
手に持っていたのは鍋だったが、それよりも良いものを見つけたのか、ボフンと尻尾を振りながら手を引っ張ってくる。
土間の台所は整った竈といくつもの壺が残っていた。壺の中身は……酒と蜂蜜。そして塩漬けされた野菜類。奇跡的に鹵獲も、自然のなかに消えることもなく残り続けていたらしい。
「これは…………!」
「すごいだろう!? 今日ぐらいはとても贅沢できるのではないかねぇ!?」
消耗品とはいえそれなりに量もある。……こんな生活のなかではあまりに革命的な品々だ。
「最高だ……!!」
感極まるみたいに、衝動的にシロロンのことを抱きしめた。
何度も背中を叩いて、嬉しさと今までの苦痛と、安堵と……なにからなにまでぐちゃぐちゃになって涙が出そうになってくる。
「んぉ……。急に、……だきしめるのだね…………」
甘いような優しいような声を漏らして、シロロンが少し腕を回してくる。それで途端に我に返って、ユミフネはとっさに一歩身を引いた。
「……急に抱きしめるなよ。びっくりするだろ」
「お前しばかれたいのかね?」
気を取り直して使えるものが他にないかを確認していく。他に使えるものは土間の竈や魔石ランタン、一部の腐敗の少ない扉などの木材類ぐらいか。
「そろそろ寝れる場所を探すか。屋根と壁があってもサソリだのスライムだのいたら寝るのに困るし」
ユミフネは手斧やらを荷物に加え、廃村のなかでも一番大きな建物へ向かった。物資を漁るといいながらも、ずっと無視していた場所でもあった。
村の集会所だ。かつてどんな役割を果たしていたかはしらないが。
捕まえた村人は全員ここに集めたのを覚えている。
石積みの土台に太いスチールウッドの柱、幾重にも重ねたヤシの葉と柱の屋根は健在だった。壁は半ば焼け落ち、蔓や苔に覆われていた。
扉は壊れ倒れたままだった。中へ踏み入れていくと夥しい血の痕が床一面に広がっていた。
……昔の痕跡? いや、噎せ返るような鉄臭さが残っている。そして魔力の残り香も新しい。
周囲に死体はなかったが不自然に服だけが散らばっていて、その中心には――角の生えた赤ん坊が一人、泣き声もあげずに蹲っていた。




