第7章 : いろはの呪いの手紙事件 I
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誰かに自分の気持ちを伝えるということは、国内トップの大学に合格しようとするよりも、はるかに難しいことだ。
これは、今SNSで話題になっているキャプションだ。数週間前に劇場で公開された、恋愛映画から取られた言葉だという。彼女がいる女性に恋をしてしまった青年の物語だそうだ。
この映画は、何週間か前に、北原さんと二人きりで初めて一緒に観に行った映画でもあった。
僕にとって、自分の気持ちを相手に伝えるというのは、本当にごく普通のことだ。どう言えばいいだろう。僕みたいに、言葉も行動も、あまり深く考えずにすぐ動いてしまうタイプの人間には、あの映画の主人公が告白するのに、一体どれだけの勇気が必要だったのか、正直あまりピンとこなかった。
とはいえ、僕も、気持ちを打ち明ければ百パーセント成功する、なんて胸を張って言えるわけではない。
なぜなら、これまで北原さんから、はっきりとした答えをもらったことは一度もないからだ。
三年生になってから、正直に白状すると、僕はこのクラスの女の子ほぼ全員に、ほとんど毎日のように「好きだ」と言っている。もちろん、皆さんが想像するようなストーカー的なものではない。
もしかしたら北原さんは、僕が彼女に対して本気じゃない、遊び半分の気持ちだと思っているのかもしれない。実際、そう思われても仕方がないような振る舞いをしていた自覚はある。十歳そこそこの男の子が、まるで老成した子どものように振る舞うのも、それはそれで格好悪いものだ。
どうも僕には、欠点しかないのかもしれない。
もしクラスの女の子の中で誰が一番可愛いかランキングをつけるなら、間違いなく一位はシャーロットちゃんの圧勝だろう。でも北原さんは、いつも下位のほうに落ち着いてしまう。
彼女が可愛くないとか、顔立ちが良くないというわけでは決してない。ただ、彼女のイメージは「性格はいいけど、ちょっと野暮ったい子」みたいな感じなのだ。クラスの中、特に女の子の可愛さに敏感な男子たちは、口を揃えて「北原さんはタイプじゃない」と言う。
大抵、そういう連中はシャーロットちゃんに言い寄るか、あるいは二番人気の衣乃さんのほうへ行く。
でも、彼女の魅力に気づいているのは、たぶん僕だけなんだろう。優しくて、思いやりがあって、人を助けるのが好きで、正義感が強くて、しかもメガネをかけている(これは個人的な好みだけど)。よく言うように、百人に嫌われても、十人に好かれればそれでいい、ということなのかもしれない。
今日は月曜日、週の始まりだ。今週は授業が休みの週で、来週から期末試験が始まる。だから先生は生徒に自習で復習をさせつつ、自分は試験問題を作ったり、残った仕事を片付けたりしているというわけだ。
だから僕も遠慮なく、追加で買ってきた小説を読む時間にあてたり、友達と暗号解読ゲームで遊んだりすることにした。
勉強のほうは、土日にでもまとめてやればいい。どうせどこにも出かけないんだから。
そして今、僕は校門の前に立っている。今は朝の時間帯なので、風紀委員がカバンの中身をチェックしてくる面倒もない。
この時間は、僕にとってまさに黄金の時間だ。早朝は、自分の時間を大切にしたい子どもたちが集まる時間帯だ。朝の景色をゆっくり眺めたい子、ストレスを発散したい子、自分の好きなことを練習したい子、自分の気持ちのままに過ごしたい子。
みんな、それぞれのタイプで、それぞれのやり方で、自分だけの黄金の時間を求めている。それはクラスの中心にいるような人でも例外ではない。
ドアを開けて教室に入ると、あの子がいた。いつものように、自分の席にぽつんと寂しそうに座っている女の子だ。
右サイドで結んだ、明るいオレンジ色のポニーテール。長袖の制服に、紺色のサロペット風の短いスカートを合わせたその姿は、いつもの彼女とは違って、周囲に明るさと元気を振りまいているように見えた。
まるで、美しく咲き乱れる花畑の中にいるような気分だった。
この方のお名前は――
彩葉ちゃんだった。
◆◇◆
「あっ……おはようございます、委員長」
「あ……うん、おはよう、彩葉ちゃん」
彼女はいつも通り僕に挨拶をしてくれて、僕もそれに応えた。
彩葉ちゃんは、みんなの相談に乗ってくれるもう一人の存在で、他の子を助けるのが得意な子でもある。言うなればクラスの中心的な存在だ。僕自身は学級委員長ではあるけれど、僕の性格上、助ける相手を選んでしまうタイプなのに対して、彩葉ちゃんはみんな分け隔てなく助けてくれる。
以前、クラス費が無くなってしまって、犯人を探さなければならなくなったことがあった。あのときも彼女は、誰も傷つけることなく、事件をきれいに収めてくれた。実は犯人はすぐ近くにいたにもかかわらず、だ。
「今日は委員長、早いですね。何かあったんですか?」
彼女は僕のことを「委員長」と呼びたがる。
「ちょっとね。今日は暗号解読ゲームで遊ぼうと思ってて、いつもより荷物が多いんだ」
「わあ、初級のモールス信号もある、他の頭の体操ゲームまで! これ、委員長が自分で作ったんですか?!」
「ああ、そうだよ。バーコード解読の星三つレベルなら、みんなできそうだと思って」
「楽しそうですね! 私も一緒にやっていいですか?!」
「いいよ。でもみんなが揃ってから一緒にやろうね」
「え〜〜〜 待たなきゃだめなんですか。まあいいです、我慢も人生の一部ですもんね」
「急に悟り開いたね」
今日は思い切り楽しむつもりだった。復習なんてしなくていい。どうせろくなものじゃない。
「あ、そうだ……ちょっとあいつを誘ってきてくれない? シャーロットちゃんのこと」
数週間前、彼女は急に、また友達に戻りたいと言ってきた。だが見たところ、本人はかなり気まずさを感じているようだった。それでも僕はまだ、彼女が謝ってきた理由がよく分かっていない。もしかして、僕がわざと彼女を遠ざけようとしたせいで、そのプレッシャーに耐えられなくなって離れていった、ということなんだろうか。
確かに僕は、彼女を遠ざけるつもりだった。でも、もしかしたら彼女は、それを自分のせいだと思って、ずっと罪悪感を抱えていたのかもしれない。もしそうなら、それは完全な誤解だ。
僕は二人でゆっくり話せる時間を作って、誤解を解きたいと思っていた。そして今週のうちに、あの子ともう一度、話ができればいいと思っている。
「いいですよ。同じグループですもんね。委員長って、シャルちゃんと自然に話せる、初めての男子な気がしますね」
「あのときは、あいつのことを口説こうとしてたんだよ。でも結局、一番痛いセリフを言われたよ。『私たち、友達でいましょう』ってね」
「うわ……代わりに痛いです。でも、シャルちゃんって、あんまり恋愛に興味がないタイプだと思いますよ」
「北原さんみたいな感じ?」
恋愛に興味がない、あるいは恋を知らない人と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、あの丸眼鏡をかけたボブヘアの女の子だった。
「うーん……北原さんは、恋愛に興味がないってタイプじゃないと思いますよ。どう言えばいいかな、恋愛よりも勉強を優先させてるタイプ、って感じじゃないですか?」
「それってどういうこと?」
「えっと……簡単に言うと、委員長にとって、小説と教科書、どっちが大事ですか?」
「そりゃ小説だよ」
「それですよ。几帳面な北原さんは、きっと今、恋愛をするのはまだ早いって思ってるんじゃないかな。今は将来に集中するべきだって。そして準備ができたときに初めて、少しずつ好きな人を大事にし始める、みたいな感じだと思います」
もしそれが本当だとしたら、なかなか心配なことだ。僕みたいな性格の人間が、他の女の子に一切目もくれない、なんて保証はできない。
いつ来るか分からない相手を、いつまでも待ち続ける――それは僕にはできそうにない。漫画の主人公みたいに、他にも僕に好意を寄せてくれる人がたくさんいる中で、じっと相手だけを待つなんて、僕にできるはずがない。
「私、北原さんとそんなに仲がいいわけじゃないけど、それでもやっぱり彼女のことは心配してるんです。彼女がどんな恋愛の定義を持ってるかは分からないけど、もし後になって、自分が一番好きだった人が、誰かに取られちゃったって知ったら、きっとすごく辛いと思いますよ」
彼女はそう言いながら、僕のほうを向いた。僕自身も、この先、北原さん以外の誰かを好きになることがあるのかどうか、正直分からない。もしかしたら、森の中に住む吸血鬼にでも恋をしてしまうかもしれない。
「そうだとしても、とりあえず今は、彼女のことを目一杯大事にすることにするよ」
「かっこいいこと言いますね、委員長」
「あっ!! 衣乃ちゃん、おはよう」
「おはよう」
そして衣乃ちゃんが教室に入ってきた。同じグループの彩葉ちゃんが、すぐに声をかけに行った。
このグループの子たちは、僕の見る限り、クラスの中でも人気が高い美人グループだ。メンバーはだいたい五人。そのうち三人は学校でも有名人だ。今来た衣乃ちゃんは――記憶違いでなければ――先輩や、他の学校の生徒からも、毎日のようにラブレターをもらっているらしい。
羨ましい話だ。僕だってこの学校のちょっとしたお手本みたいな存在なのに、こんなモテモテな瞬間は一度もない。考えると悲しくなる。
「あっ……おはようございます、学級委員長さん」
「うん……おはよう」
彼女ののんびりした様子に、僕はなぜかちょっと心が浮き立ってしまう。しかも、いつも眠そうな目に、間延びした話し方が妙に可愛らしい。正直言って、この子は本当に可愛い。彼女に言い寄ろうとする人たちの気持ちも、分かる気がしてくる。
「今日は委員長さん、荷物多いですね……くいなさんたちと遊ぶんですか?」
「君は持ってこなかったの? 結構色々あるんだけどな」
「ああ……私、そこまで勉強できるタイプじゃないので。むしろ、教科書を暗記するほうが好きなんです」
そうなんだ。ちょっと残念な気もする。
「え〜〜、木曜日にでもゆっくり暗記すればいいのに」
「だめ。もし試験に落ちたらどうするんですか」
そう言って彼女は、可愛らしく苛立った様子で、彩葉ちゃんの頬をつねった。
「暗記するのは君次第だけど、教室で読んだら、彼女のことをかなり邪魔しちゃうと思うよ」
「じゃあ……図書室が答えですね?」
「そういえば……衣乃ちゃん、今日もまた手紙もらったの?」
「あ……うん……いつも通りだけど」
そう言いながら彼女は、学生カバンをひっくり返した。中身はラブレターだらけだった。今日一日分の合計だけでも、およそ十通はありそうだった。
正直、ちょっとぞっとした。
「今日もいっぱいですね……委員長はどう思います?」
「別に、何とも。どうせいたずら半分でやってるんだと思うよ。衣乃ちゃんもあんまり気にしなくていいんじゃないかな」
「にしても、あの人たちも本当に頑張りますよね。相手が困ってるって分かってるのに、それでも手紙を送ってくるなんて」
「まあ……あの子たちは、別に本気で口説こうとしてるわけじゃないと思うよ。きっと、ふざけて面白半分でやってるか、友達に賭けをさせられてるとか、そんな感じだろうね」
「……そうなんだ」
「最低ですよね。女の子の気持ちをそんな風に弄ぶなんて」
「でも……中には、本当に私のことを好きな人もいるんですよ。ほら、これとか」
「どれどれ……『衣乃さん、僕は最初からあなたのことが好きでした。あなたは僕の一目惚れの相手です。しかもとても綺麗です。だから今日の夕方、校舎の裏で会ってもらえませんか』……どう見ても、トイレの裏に呼び出されて叩かれるパターンにしか見えないなあ」
「えっ!!!! ちょっと待ってください、そんなのじゃないですよ!!!」
「あの、委員長。校舎の裏、であってますよ。トイレの裏じゃなくて」
「単なる例えだよ……というか、みんな忘れてない? 誰かさんが手紙で僕をおびき出して、トイレの裏でボコボコにしたことがあったよね」
僕は、以前僕をおびき出して殴ってきた、あのオレンジ色のポニーテールの女の子のほうをちらりと見た。同じグループの子、特に衣乃ちゃんに言い寄っていたせいだった。
「まあまあ、委員長、あれはもう終わったことですよ、ね」
「そもそも委員長さんが自分で招いたことですし。仕方ないですよ」
ああ……思い出すたびに腹が立つ。
「おはようございます。皆さん早いですね」
そして、彼女がやってきた。クラスでは「野暮ったいけど優しい子」と呼ばれているあの女の子。でも僕にとっては、天使そのものだ。
「おはようございます、北原さん。今日は手ぶらですか?」
今日は珍しい。いつもの彼女なら、教科書をぎっしり詰め込んだ大きなカバンを、まるで学校で売り歩くみたいに持ってくるのに、今日は本当に手ぶらだった。
「あら……だって西尾くんが、ゲームで遊びたいって言ってたじゃないですか。私も、夜の勉強でたまったストレスを発散したかったので、カバンは家で寝かせてきちゃいました」
さすがにそれは言いすぎでは……まあいいか。僕自身も、教科書は教室の後ろのロッカーに寝かせっぱなしだし。
「九依奈ちゃんは? まさかケーキ屋さんに寄り道して、時間を忘れてるんじゃないだろうね」
「それは私にも分かりません……もう少し待ちましょう」
あの気分屋の子は、本当にあちこち出かけては迷子になるタイプだ。
◆◇◆
「ハックション!!!!」
「どうしたの、九依奈ちゃん。風邪?」
「ううん……なんだか、あの『あーくん』とかいう人の顔を、思いっきり殴りたい気分になっただけ」
◆◇◆
「なあ……この部屋、なんか妙に寒くない? 誰か窓開けっぱなしにしてないよね」
「開けてませんよ……委員長さんの気のせいじゃないですか」
「ねえ君、遠回しに言ってるつもりだろうけど、なんか僕の悪口言われてる気がするんだけど。気のせいかな」
「違いますよ。ただ『あーくん』みたいな人は信用できない、って言っただけです」
「君、九依奈ちゃんに変身しようとしてる?」
よし、さっきの言葉は撤回する。このぼんやり系の子、ちっとも可愛くない。この子を彼女にする人がいたら、先に笑っておいてあげたい気分だ。
「まあまあ、衣乃さん、そんなに西尾くんのこと責めなくてもいいじゃないですか」
ああ〜〜〜、まさに救世主だ。この子こそ、僕の心の中の騎士だ。
「うーん……北原さんって、委員長さんのこと特別にかばってますよね。もしかして、お二人ってお付き合いしてるんですか?」
おい! いきなり核心をついてくるじゃないか!
「あ……えっと……」
まあいい、どうせ本人は「私たちはただの友達です」っていつも通り答えるはずだ。
「どうなんですか、北原さん」
「……………」
?何かあったのか。
「え……あの……ちょ、ちょっと! 北原さんが石みたいに固まってる!!!」
「何ですかそれ……本当に可愛いですね」
「わあ〜〜顔真っ赤ですよ、可愛い〜。委員長が毎日口説いてくる理由も、なんとなく分かる気がします」
「もう、そんな風にからかっちゃだめですよ」
「は〜い」
いやあ……このリアクション、間違いなく……彼女、照れてる。うおおお、最高すぎる。可愛すぎて限界だ。いっそのこと、このまま結婚しちゃったらどうだろう。
まあいい、この状態だとしばらく何も聞こえないだろう。あの変な質問のせいで、軽いショック状態に陥っているみたいだから。
「北原さんって、本当に可愛いですね、委員長さん」
「うんうん、それより北原さんを支えてあげてよ、倒れたら大変だから」
はあ……朝からこれなんだから、授業が始まったらどれだけ疲れるんだろう。
「そういえば……委員長、告白の手紙をもらったこと、あるんですか?」
急に手紙の話に戻ってきた。
「よく聞くね。あると思う?」
「……あの変質者みたいな性格じゃ、誰にも好かれないのも当然ですね」
「口が悪いなあ……まあ、実際あるんだけどね」
「「えっ!!!!!!」」
「なんでそんなに驚くんだよ!!」
僕みたいに性格のいい人間には、こういうことがあってもおかしくないだろう。それなのに、なんでそんなに驚くんだ。
「うっ……ひっく……衣乃ちゃん、私たち、彼のこと誤解してたのかも」
「そうだね……信じられない、こんな性格の人にも好きになる人がいるなんて」
「おい……そこまで陰口叩かなくてもいいじゃないか」
「それで、その相手って誰なんですか?」
「同じクラスの子ですか、委員長?」
ちなみに、僕の学校は私立の共学小学校で、普通の学校のようにクラス分けがあるわけではない。学年ごとにクラスは一つしかない。
「いや、違うよ」
「へえ……ってことは、先輩ってことですか。委員長さん、なかなかモテますね」
「後輩だよ。二年生の子」
「最低」
「クズですね」
おい!! なんでそんなことで責められなきゃいけないんだ!! 何も悪いことしてないのに。
「ロリコン」
「もうやめなよ、そのうち本当に殴られるよ」
「でもなんで委員長さんが、後輩からの告白をもらえるんですか。見た目、どちらかというと女好きっぽいのに」
「もう僕を責めるのやめてよ。口が達者すぎるだろ。よく分からないけど、一年生とか二年生からは、よく『好き』って言われるんだよ」
「まあいいや……とりあえず、委員長さん、この迷惑な手紙たちを片付けるの、手伝ってもらえませんか」
はい、いきなり話を切り替えた。さんざん僕をからかっておいて、すぐに別の話題に移るなんて、子どもって本当に自由だ。
「いいよ……まず、これを一つの山にまとめようか……」
「どうしたんですか? 委員長」
そのとき、僕はある一通の手紙に触れた。
一見、他の手紙と変わらないように見えたが、何かが違っていた。
「これ見て」
「え……」
「これ……僕の名前じゃない」
封筒の宛名には、送り主の名前としてこう書かれていた――『彩葉ちゃんへのラブレター』
「配達間違いですかね?」
「ありえません……私の靴箱と彩葉ちゃんの靴箱が、何メートルも離れてることくらい、みんな知ってますし、しかも名前もはっきり書いてありますから」
「でも、本当に僕宛てに送るつもりなら、僕の靴箱に直接入れればよかったんじゃないの」
「照れくさかったのかもしれませんね」
こういう連中は、別に馬鹿じゃない。二人の美人が朝にやってくるタイミングを知っているから、放課後の間に手紙を靴箱に入れておくんだろう。
もしかしたら本人は、照れすぎているか、あるいは好きな相手に直接手紙を渡す度胸がなかったのかもしれない……。
「みなさん……これ……ラブレターじゃないと思います」
「何それ、脅迫状か何か?」
まあいいか、さっきの悪口の仕返しをちょっとしてやろう。
だが、彼女に届いた手紙の中の次の一文を見て、僕は自分が言ったことをすぐに後悔した。
彼女は僕の言葉に何も答えず、その紙の面をこちらに見えるように、めくって差し出した。
そこに書かれていたのは、これが小学生の書いた文字だとは、到底信じられないような内容だった。
短い、赤い文字。だが、その意味は、吐き気を催すほど恐ろしいものだった。
『彩葉ちゃんへ……
死ね、ブスのくせに』
その真っ赤な文字を前に、僕は言葉を失った。
吐きたいのに、吐けない。
こんな言葉、こんな文字を、この明るい性格の女の子に見せていいはずがなかった。
今日の朝は、こうして、ワトソンである僕がまた仕事をしなければならない一日になった。




