第2章 : 野外学習
◆◇◆
毎年恒例の林間学校の前日、僕と清美は、他の生徒たちと一緒に打ち合わせをしていた。
「よう、みんな。まずは、もう一度僕たち二人を選んでくれてありがとう。それじゃあ、続けていこうか」
僕は黒板にチョークで書きながら、ちょっと可笑しな小さいキャラクターの絵も描き添えた。
「今年は生徒が二人増えて、今は三十七人になった。だからグループに分けなきゃいけないんだけど、当然割り切れないから、一つのグループだけ四人になる……四人のグループになりたい人はいる?」
聞いても誰も手を挙げなかったので、自分から名乗り出た。
「じゃあ、四人のグループは僕がやるよ。さて、残念だけど、男女別に三人ずつのグループに分かれてもらう。僕のグループは四人だ。グループができたら、男子は名前を書いて僕に出して。女子は北原さんに名前を書いて出してね」
言い終えると、みんなが一斉に、今年の林間学校の話でざわざわと盛り上がった。
僕たちの学校は小さな学校だけど、勉強と同じくらいレクリエーション活動に力を入れている。だから、子どもをここに通わせたいという保護者は少なくない。
僕の母さんもその一人……そして僕も、ここに通えて幸運だと思っている。
「じゃあ……僕たち四人は一緒だね」
もちろん僕は仲間たちと同じグループになった。僕のグループには、真司くんと洋くん、それからもう一人、泉くんという男の子がいる。
「あの……委員長さんと同じグループになれて、嬉しいです」
どうして泉くんは、そんな丁寧な言葉遣いをするんだろう?
「そんなふうに呼ばなくていいよ。名前で呼んでくれればいいから」
「あ……あ、うん……わ、分かった。西尾くん」
僕は彼に微笑みかけて、二人で名前を書き留めた。
「いいなあ! ねえねえ、今年は山に遊びに行くんだよね?」
「キャンプに行くのよ、彩葉ちゃん」
「ちぇっ! 九依奈ちゃんってユーモアがないんだから……いつもまじめなんだもん」
女子たちは、僕たち男子よりもずっと楽しそうにおしゃべりしていた。
僕は彼女たちのほうへ歩いていった。
「誰がどこのグループ?」
彩葉ちゃんは、九依奈ちゃんの首に勢いよく抱きついて、元気いっぱいに言った。
「もちろん、九依奈ちゃんとシャルちゃんと一緒だよ」
「私は理紗ちゃんと衣乃ちゃんと一緒よ」
清美が続けた……うん……特に意外でもなかった。
そのあと、みんなが名前を書いた紙を僕と清美に提出してくれたので、僕はすぐに次の段取りに入った。
「それじゃあ、今年は山でキャンプをする。当然、料理もある……今年は一年生の後輩たちと一緒にやる。まあ、みんなも知っての通り、彼らはまだ子どもだけどね」
みんながくすくすと笑った。
普通の学校なら、高学年か、六年生だけが行くところだけど、僕の学校は毎年、全学年で行く。何を考えているのかは分からない……でも、親たちから、うちの子も連れて行ってほしいという要望があったからじゃないかと思う。
まあ、それはいい。
「だから、料理の材料なんかは、夕方にみんなで買いに行こう……そして、去年までみたいにグループ分けはせずに、大きな鍋でみんなの分を一緒に作る」
「そうだよな……みんなで作れるのに、わざわざ分ける必要ないもんな、な?」
男子の一人がそう言うと、みんなが賛成した。
実を言うと、先輩たちがグループで料理をさせた理由は分かる。友達が苦労している間に、誰かがこっそり逃げてサボるのを防げるからだ。
でも、まあいい……僕たちは後輩の面倒を見る役目を任されたのは初めてだし、特に一年生は扱いが難しい。だから、こうするのが一番いいと思う。
「それで、キャンプ一日目の夕食について、みんなの意見を聞きたいんです」
清美はそう続けて、黒板のほうへ歩いていった。
「何か案があったら、どんどん出してね」
みんなが手を挙げて、いろいろな意見を出した……まともなもの、ちょっと手に余りそうなもの、冗談半分のもの……みんなで楽しく盛り上がった。
「それじゃあ……とびきり辛口のカレーにしましょうか……定番ですし」
彼女はメニューを黒板に書いた。
「他に何かほしい人はいる?」
「おお……デザートはどう?」
彩葉ちゃんが提案した。
「うーん……私たちに作れるものにしたほうがいいと思うな」
彼女はうつむいた……でも、一つ思いついたようだった。
「じゃあ、牛乳とかなら大丈夫でしょ?」
僕と清美は顔を見合わせた。
「それで、どうやって持って行くの?」
彼女はまたがっくりと肩を落とした……友達はみんな笑った。
「それじゃあ、そういうことにしましょう……とびきり辛口のカレー……材料は、各グループに一つずつ買ってきてもらって、少しずつお金を出し合いましょう」
みんな、すごくわくわくしているようだった。
◆◇◆
夕方、買い物を終えて家に帰った。
「ただいま……」
今日は母さんがいつもより早く帰ってきていた……僕は首をかしげた。
「あら……帰ってきたの、タックくん? 今日は仕事を急いで片付けたから、早く帰れたのよ」
今日の夕食を作っているのも、やっぱり母さんだった。いつもは、ほとんど僕が作っているんだけど。
「何を作ってるの?」
「今日はとんかつと焼き魚とお味噌汁……簡単なものよ」
「おいしそうだね……」
僕は部屋に入って、カバンを片付けた……。
この前、清美と進学の話をしたことを、まだ母さんに話していなかった……。
今日は母さんも早く帰ってきたし……この機会にしよう。
「母さん……ちょっと話があるんだ」
母さんは少し手を止めて……ガスコンロの火を弱めてから言った。
「いいわよ」
「進学の……ことなんだけど」
「うん……でも、今話すのは早すぎない? まだ四年生でしょ」
「そうなんだけど……僕、決めたんだ……東京の学校に行こうって……だから、先に母さんに伝えておこうと思って」
母さんは僕のほうへ視線を向けて……それから頷いた。
「キヨちゃんも、東京の学校に行くの?」
「うん……」
「どこの学校に行くかは、もう決めたの?」
「…………」
僕は首を横に振った……そこまではまだ考えていなかった。それに、清美もまだ学校を決めていないようだった。
「僕……うちが他の家みたいにお金がたくさんあるわけじゃないってことは、分かってる……でも……東京で勉強したいんだ」
どうしてこんなに緊張するのか分からなかった。あのおかしな女の人に会ったときとは違う……でも、同じように体が震えていた。
「母さんが僕を学校に行かせられないんじゃないかって、心配してるの?」
母さんにまっすぐ聞かれて……僕は何と言えばいいか分からず、ただ頷いて答えた。
「まったく、この子は……母さんのことを心配してくれてありがとう……でもね、あなたがそうしたいって言うのに、母さんが反対できるわけないでしょう?」
「でも!」
「ああ、そうそう……それにね、あなたみたいに成績のいい子なら、有名な学校の奨学金だってきっともらえるわよ……母さんのことを心配してくれるなら、母さんに新しい恋人ができるかどうかのほうを心配したらどうかしら?」
母さんはそう言いながら、食卓をきれいに整えていった。
僕がいつも楽しみにしている、軽くて素朴な夕食が、目の前に並んだ。
「…………その……奨学金のことは、思いつかなかった……僕、考えすぎてたんだね」
「ふふ……あなたは考えすぎるところが、お父さんにそっくりね……」
僕の父さん……小さい頃に亡くなった。
「…………そうだね……ご飯にしよう」
「そうね……冷めちゃうものね」
私たちは手を握り合い、幸せそうに食事をした。
そして、待ちに待った日がやってきた……山での、一泊二日の林間学校の日が。




