第8章 : 謎のコートを着た女性の事件 3
◆◇◆
翌日……僕たちは全員、お店の二階に集まった。先輩たちも一緒だった。
「いてっ!」
「ごめんね、西尾くん」
僕は昨夜の件の会議をしながら、手当てを受けていた……みんな黙りこくったまま、誰も何も言わなかった。
「昨夜のことだけど……一体何があったの?」
加藤先輩が尋ねたので、僕は写真を取り出して先輩たちに見せた。
「…………この写真……君たちが撮ったんだよね?」
「はい……私が撮りました」
先輩たちは互いに頷き合った……そして悠真さんが、僕たち全員を固まらせるような一言を言った。
「この事件は……俺たちが片付ける」
「え? どうしてですか!?」
他のみんながどう思っていたかは分からない……でも僕は、そう聞くことを選んだ。
どうしてだろう?
「この件は、小学生の君たちが関わっていいような事件じゃないんだ。あの女性は、見たところ精神疾患を抱えている可能性が高い。そんな相手に関わったら……怪我をするだけじゃ済まない」
「でも!」
「言っておくけどね、世の中には、決して近づいてはいけない謎ってものがあるんだよ……君はまだ三年生の子どもだ。もし君に何かあったら、俺たちみんな、君のご両親に顔向けできなくなる」
病院坂さんの言葉……。
もしかして……彼女が言っていたのは、このことだったのかもしれない。
「それなら……僕たちはどうすればいいんでしょうか?」
「俺たちに二、三日だけ時間をくれ。この事件は俺たちが片付ける……その間、君たちは絶対に一人で出歩かないこと。出かけるときは必ずグループで行動すること」
僕たちは顔を見合わせた……チームのみんなの顔色が悪くなり始めていた……リーダーとして、まずはチームのみんなのことを一番に考えなければならない。
「分かりました…………」
先輩たちは頷いて……それから、いつものように一階の食堂へ仕事の手伝いに降りていった。
◆◇◆
「西尾くん、四番テーブルの注文お願い」
「はい、加藤先輩」
そのあと、僕はいつも通りに仕事をした。本音を言えば、病院坂さんに電話して相談したかった……彼女なら、今ごろ僕の心を読んだかのように電話をかけてきそうなものだけど……かけてこないのは、まだ大きな事件が起きていないからだろう。
それとも、忙しいか、まだ寝ているのか。
僕は首を振って、四番テーブルのお姉さんの注文を取りに歩いていった。
「こんばんは……ご注文は……何に……します……か」
「…………どうかしたの?」
僕は一瞬、目を見開いたまま固まってしまった……体が硬直して……手にしたペンをぎゅっと握りしめた。
注文を取りに行った女性は……顔つきがどこか異様で、ぞっとするような雰囲気をまとっていた。
人間とは思えないほど見開かれた目……ぼさぼさに伸びた長い髪……耳まで裂けそうなほどの笑み。
そして何よりも……彼女はコートを着ていた……真夏に。
「い……いえ……ただ……夏なのにコートを着てるんだなと思いまして。はは」
「ああ……私はね……ちょっと、周りの人に見られたくないものを隠したいだけなの……ねえ坊や、見てみたい?」
その声色は艶っぽかったけれど……僕はそんなふうにはまったく感じなかった。
ハァ……ハァ……。
「い……いえ、遠慮しておきます……それで……お姉さんは何を注文なさいますか?」
「うーん……私が注文したいのは……そうねえ……あなたの目はどうかしら?」
まずい……まずい……これは面倒なことになる……。
この女……すぐに警察に何とかしてもらわないと……。
「はは……そういう冗談は、僕、怖くなっちゃいます」
冗談であってくれ……お願いだから。
「ふふ……ふふふふふふ。あなた可愛いわね……お名前は?」
冗談じゃなかった……。
「え……えっと……カエレ、です」
「あら? 何よ坊や……もう私を追い返すつもり?……可愛いわね」
「帰ってください……お願いします」
「家に押し入った人間にそんなこと言われるなんて……片目くらい、えぐり取ってあげたくなっちゃうわね……」
彼女は自分のお腹のあたりに手を当てた……。
絶対に、武器だ。
「何かお手伝いできることはありますか?」
灯夏さんだった。
「私が対応する。あなたは下がって」
「はい……」
僕は振り返らずに歩いていこうとしたけれど、彼女がずっと僕を見つめているのがはっきりと感じられた。
背筋が凍るような、あの視線で。
◆◇◆
夜になって、僕たちは普通に寝るために戻ってきた。チームのみんなは一緒に寝たがってくれたけど、僕は断った。だって、みんなが僕の近くにいたら……こんなふうに狙われているときに、もし何かあったら……。
だから僕は、これまで通り、食堂の二階で清美と浩太くんと一緒に寝ることにした。
「…………」
みんなぐっすり眠っているのに、僕だけは目を閉じても全然眠れなかった。
あの寒気がするような視線が、頭から離れなかった……先輩たちが守ってくれているとはいえ……それでも、やっぱり怖かった。
生まれて初めてだった……同じ「人間」を、こんなに怖いと思ったのは。
僕は、知らない人を見かけたら友好的な態度で話しかけるタイプの人間だ……中には迷惑そうな顔をしたり、失礼な返事をしてきたりする人もいたけれど。
でも、そんな自分の振る舞いを嫌だと感じたのは、これが本当に初めてだった。
僕は窓の外をこっそり覗いた……誰かまたここに来ていないかと……。
怖い……本当に怖い。
ガタガタ……。
何の音?
僕は急いで窓の外を確認した……でも何もなかった。
ガタガタ……。
でもその音は、まだ続いていた……僕は浩太くんと清美のほうを見て、どちらかが僕にいたずらをしているのであってくれと祈った。
でも、その願いは叶わなかった……二人とも完全に熟睡していた。
ガタガタ……。
「…………」
怖いけれど……確かめに行かなきゃいけない。
僕は部屋から出て……ゆっくりと音のするほうへ歩いていった……音の発生源を見失わないように、懐中電灯は持たずに確認しに行かなければならなかった。
廊下は暗かった……とても暗くて……僕は目を閉じて、手探りで進むしかなかった。
しばらくすると、目が暗闇に慣れてきて……周りがうっすらと見えるようになった。
僕はそっと忍び足で……音のほうへ向かった……。
ガタン、ガタン……。
その音はまだ響いていた……僕はゆっくりと……忍び寄っていった。
音は一階から聞こえてくる……僕は頭だけを出して覗き込んだ。
「!!!!!」
叫びそうになったけれど……なんとか口を押さえて堪えた。
ガタガタ……。
あの女の影が、ドアをこじ開けようとしているのが見えた……しかも、焦る様子もなく、ゆっくりと作業していた。
僕はそっと引き返そうとした……静かに、相手に気づかれないように――
「待っててくれたの?」
あの声……またあの女の声だ。
ガタガタガタ!!!
こじ開ける音が、さっきより速く、大きくなった……。
僕は全力で部屋に走って戻った……ドアに鍵をかけて……急いで重いものを引きずってきてドアを塞いだ。窓にも鍵をかけた。
「西尾くん……何してるの……それ……」
「…………眠れなかったのか」
「みんな、早く起きて! あの女がお店のドアをこじ開けて入ってこようとしてる!!」
その言葉を聞くなり、二人はすぐに飛び起きた。僕は急いで先輩たちに電話をかけて、すぐに来てもらうよう頼んだ。
「どこにいるのかしらぁ〜〜〜〜〜〜〜〜?」
入ってきた……入ってきた……。
僕は頷いた……。
そして僕たち三人は、急いで隠れた……。
その間にも、あの女は、少しずつ僕たちのほうへ近づいてきていた。




