第7章 : 謎のコートを着た女性の事件 2
◆◇◆
夜になって……僕たちは宿を出て、約束通り廃屋へ向かった……もちろん安全のため、悠真さんたちも誘った……。
彼らは外で待っていて、僕たちは中に入ることになった……。
そして出発する前に……。
「ああ、そうだそうだ……これ、ちょっと自慢させてよ」
出発前に、浩太くんが僕たちを店の裏へ連れて行った……そこには、何かの布がかぶせられたものがあった……。
バサッ! 開けてみると……
「バイクじゃないか!!」
「そうだよ……これは、僕たち小学生でも運転できるくらい小さいバイクなんだ……今からエンジンかけてみせるよ」
ブルン! エンジン音が少し響いた……正直、生まれて初めて見るものだった……。
普段は自転車にしか乗ったことがなかった……うーん……運転するのも、それほど難しくないはずだ。
「全部で五台あるよ……一人乗りでちょうどいいのが二台」
僕は白いバイクを選んだ……白が好きだから……綺麗な色だよね?
「よし! 行こう!!!」
「おー!!」
◆◇◆
「よう、子どもたち」
「こんにちは」
着いてみると、悠真さんたちはすでに先に来ていた……幸い、お兄さんたち全員が集まっていた。悠真さん、灯夏さん、郁郎さん、加藤さんまで。
「肝試しに行くのか?……それにしても、なんで俺たちまで誘ったんだ?」
「も……もし緊急事態が起きたときに、すぐに助けてもらえるかなと思って……」
「………」
お兄さんお姉さんたちは、驚いたように顔を見合わせた……彼らだけじゃなく、僕の友達も同じ顔をしていた。
「なんで肝試しに行くのに助っ人が必要なんだよ? それとも、誰かが心臓発作でも起こすかもって心配してるのか? だったら救急車でも呼んどけばいいだろ」
加藤さんの言う通りではあるけれど……でもその言い方、ちょっと意地悪じゃないですか?
「もう、先輩やめてください……子どもたちだけで、夜にこんなところに来させるなんて、保護者なしじゃまずいでしょう」
そうそう……ありがとうございます、郁郎さん。
「理にかなってるな」
あの写真に写っていた女性が、本物なんじゃないかって心配している、なんて言えるはずがなかった。
「よし……行こうか……」
僕は懐中電灯を持って先頭を歩いた……。僕たちが入っていく廃屋は、80年代の建物らしい……正確な呼び方は分からないけど、中に入ってみると、いつ崩れてもおかしくないくらいボロボロだった。
「怖いよぉ……」
「もう、理紗っち……私たち十人もいるんだから……幽霊なんて出てこないよ……」
衣乃ちゃんがなだめようとしたけれど、あまり効果はなかった……。
「それだったら、ホラー映画のラストで十人も死人が出るわけないでしょうよ……」
この家はかなり広かった……大家族の家だったのかもしれない……。
人数は多かったけど……それでも僕は、ここがあの写真の女性の住処かもしれないと、少し不安だった……。
僕たちは三人ずつのグループに分かれて歩くことにした……理紗ちゃんがいるグループだけは四人になった。
僕のグループは、僕、清美、それから浩太くん。
二番目のグループは、洋くん、彩葉ちゃん、衣乃ちゃん。
三番目のグループは、シャルちゃん、真司くん、九依奈ちゃん、そして理紗ちゃん。
「じゃあ……僕は二階を調べに行くよ……どのチームが来る?」
希望者を聞いてみたけど……当然、返ってきたのは沈黙だった……。
「それならいいや……」
僕たち三人は二階へ上がった……まだ物が散乱していた……。
「寝室ばっかりだね……」
「ちょうど三部屋あるね……一部屋ずつ調べてみようか?」
「そうだね……それでいいよ」
グループで固まるべきなのは分かってる……でもまた分かれることになった。
まあいいや……二階は狭いから……友達とはぐれることはないはずだ。
僕は一番奥の部屋を調べる役を買って出た。
ギギッ……入ってみると……簡素に飾られた小さな部屋だった。
扉が半分シロアリに食われたタンス、壊れたベッド、散らかった物と本。
「……古い本がたくさんあるね……前の持ち主に許可もらって、持ち帰ってもいいかな?」
だめだめ……この性格、本当に直らないんだな……。
僕はタンスを開けてみた……もうほとんどゴミ同然の生活用品がたくさん入っていた……。
「写真?」
どうやらこの家の以前の持ち主の家族写真らしかった……変だな、こんなに大きな家なのに寝室が三つしかないなんて……もしかしてこれは、バブル期の金持ちの家なのかな?
「何もなさそうだ――」
ゴトッ……。
「?」
気のせいかもしれないけど……頭上で何かが動いた音がした気がした。
ゴトゴトゴト……。
「………」
違う……これは違う……。
僕はゆっくりとドアのほうへ歩いた……天井を見上げながら……。
その音は、だんだん僕のほうへ近づいてくるようだった……。
ガタガタ……音はタンスのところで止まった。
「!」
僕はできるだけ静かにしようとして……明かりを消した。
なぜかって? タンスの中から、片足がゆっくりと天井から垂れ下がってきたからだ……。
「…………」
ゆっくりと、ゆっくりと下りてくる……。
キィ……古いタンスが小さく軋む音を立てた。
そして上から、何かの姿が現れた……。
女の人?……そうだ……間違いない……。
「うー……うー……」
その恐ろしい姿から、低い唸り声が漏れていた……。
その姿がゆっくりとタンスから下りてきた……待って……。
もしこいつが部屋の外に出てしまったら?……清美と浩太くんが危険な目に遭うかもしれない……。
でも大声で叫んだら……その危険にさらされるのは、たぶん僕だ……。
僕は部屋の隅で身を縮めて座り込み、あの女性に見つからないよう祈った……。
冷たい風がすっと部屋の中に吹き込んできて、思わず鳥肌が立った……。
「うー……うー……」
その女性は、腰を曲げたままドアのほうへ歩いていった……。
そして、最悪の事態が起きた。
「西尾くん! 静かすぎるよ、どうしたの!?」
清美がドアを勢いよく開けた……あと少しで、女性の顔にぶつかりそうなほどだった……。
「あー……あー……あー……」
その女性の唸り声がどんどん大きくなっていった……清美は思わず、懐中電灯でその女性の顔を照らしてしまった……。
「きゃあああ!!!」
「走れ……走って!!」
僕も懐中電灯をその女性に向けた……すると、彼女はこちらを振り向いた。
「このクソガキども!! あたしの家で何してんだい!!」
その女性は僕に向かって走ってきた……部屋の隅にいた僕は、絶対に捕まるところだった。
いや、違う。
僕は薄い木の板の壁を二回蹴って割り、そのまま壁を突き破って隣の部屋へ走り抜けた。
清美と浩太は一階へ駆け下りていた……僕も急いで階段のほうへ走った……。
でも、途中で転んでしまった。
「いてっ!!」
「西尾くん!」
シャルちゃん!? なんで上がってきたんだ、早く逃げてよ。
僕は急いで彼女の体をつかんで一緒に階段を下りようとしたけど、運悪く……彼女も一緒に階段から落ちてしまった……。
でも――
「僕が来たよ!」
真司くんが急いで駆け寄ってきて、お姫様抱っこで彼女を抱え上げると、そのまま外へ走り出した。
「何が起きたんだ!?」
悠真さんが急いで家の中に駆け込んできた。
「悠真! 上だ!!」
灯夏さんの一言で、悠真さんはすぐに二階へ駆け上がっていった。
僕たちは全員、無事に外へ出ることができた。
「早く帰れ! あとは俺たちが何とかする……」
僕たちは頷いて、すぐにバイクに乗って帰ることにした……。
一応、無事に終わったものの……これで終わるはずがないことは、誰の目にも明らかだった。
◆◇◆
「出てこい!」
急いで二階へ上がった悠真は、あの謎の女性の姿を探した……でも、彼女はもうどこにもいなかった。
「?……どこに行ったんだ」
「悠真!?」
灯夏が二階に上がってきた。多夕も一緒だった。
「見失っちまった……でもあの感覚、間違いない……」
「!」
二人とも、悠真がこんなに真剣な声で話すことがどれほど珍しいか、よく分かっていた。
「つまり……西尾くんたちが出会ったのは……人間じゃなかったってことですか」
「ああ、そうだ……多夕たん、このままあの子どもたちをあの女と関わらせ続けたら……間違いなく、まずいことになる」




