第3章 : 芦原 九依奈による幕間劇と物語…
◆◇◆
私は……いつも周りの人にイライラしてしまうタイプだ……。
なぜかいつもムシャクシャしている……昔はもっとおとなしかったはずなのに……。
友達ができ始めてから……私は自分らしさをどんどん出すようになっていった……。
お母さんも「あんた、誰かに憑りつかれてるんじゃない?」なんて聞いてくるくらいだ……。
でもまあ……私は私……誰も私の代わりにはなれない……。
私、芦原九依奈は、今日もいつものようにグループの友達と遊びに来ている……。
特に大したことはしていない……友達にモールへ誘われて、新しい水着を買いに来ただけ。買い終わったあとは、冷房の効いた場所に座って、とりとめのない話をしている……。
「ねえ九依奈ちゃん、白浜ビーチに遊びに行かない? お父さんがちょうどそこに仕事で行くらしくて、お母さんが友達も誘ってみたらって言うんだよね」
白浜ビーチ?……なんでそんな和歌山くんだりまで行かなきゃいけないの?
誘ってきたのは、他でもない、シャルちゃんだった……。
普段の私は、誰とも関わらないひっそりしたタイプだったのに……西尾のグループに入るようになってから、いつの間にかシャルちゃんの「ホットな女の子たち」グループにいることになっていた……。
「そうそう……うちも親からは駄目って言われそうだけど、両親が地方に何日も出張してるから、行きたいなって思って……」
彩葉ちゃんも同じグループにいる……私たちのグループは、男子たちが「彼女になってほしい」と狙っているような子ばかりだった……。
シャルちゃんも、彩葉ちゃんも、衣乃ちゃんも、理紗ちゃんも。私たち五人は、いつも一緒に行動している……。
私はもともとあまり人と話さないタイプで……しかもぶっきらぼうな態度のせいで、最近は男の子から告白の手紙をもらうことも増えてきていた……。
「まあ……考えてみたら、この夏どこにも遊びに行ってないもんね……お母さんに聞いてみようかな」
「よっしゃー!!!」
シャルちゃんが勢いよく抱きついてきた……この子、本当に可愛いなあ……。
手紙といえば……期末試験前には、あの呪いの手紙の一件もあったっけ……。最初は彩葉ちゃんが怖がったり落ち込んだりするんじゃないかと思ってたけど……思ったより元気そうだった……。しかも洋くんと仲直りしたって聞いたし……。
本当に良かった……。
「それで今日は水着を選びに来たってわけね……」
「うん!! ちょっと新しいの欲しくなっちゃって……」
彩葉ちゃんと理紗ちゃんが意味ありげな顔で目配せしあって、からかい始めた……。
「それって、真司くんに見せたいから買いたいんじゃないの?」
「Huh!? n……n……nothing!!!」
慌てると英語が出ちゃうんだよね……可愛いなあ……。
それに「別に」っていうのは、大体その逆の意味を持ってるものだよね……。
「もう〜、ごまかしちゃって……実はあんた、彼のこと好きなんでしょ〜……」
「違うもん!」
慌てふためく様子がおかしくて、みんなで大笑いしてしまった……。
そうか……真司くんのことが好きなんだ……。
「それで、どんなところが好きなの?」
散々問い詰められて、シャルちゃんはついに、真司くんのことが好きだと素直に認めた……。
「うん……そうなの。真司くんのこと好き。理由は……性格がいいし……紳士的だし……夢の中の王子様みたいな感じなの……」
「へえ……」
女子たちはそれを聞いて、うんうんと頷いた……よく考えたら、確かにその通りだと思う……。
「まあ……うちのクラスの男子って……」
言い終わらないうちに、みんな一斉に嫌そうな顔をした……誰のことを思い浮かべているのか、私にもすぐに分かった……。
◆◇◆
「ハックション!!!」
「どうしたの、西尾くん……風邪?」
「いや、別に……」
◆◇◆
「でも!! みんなが全員ダメってわけじゃないよ……」
彩葉ちゃんが反論した……。
みんな一斉ににやりと笑って彩葉ちゃんの方を向いた……。
「あら〜、犯人に恋しちゃった被害者がいたなんて、初耳ね……」
「ストックホルム症候群ってやつ?」
「もう、やめてよ!!」
彩葉ちゃんは飲み物を少し口にしながら、恋する乙女のような目つきを見せた……。
「でも……洋くんって、優しい子なんだよ……確かに前は悪いことしちゃったけど、ちゃんと反省してるし……」
「うんうん……」
「だからあんた、彼のこと好きなんじゃない」
彼女はその一言でビクッとしたけれど、こくりと頷いた……。
「じゃあ……せっかく恋バナしてるし……衣乃ちゃんは?」
いよいよ女の子らしい恋愛トークになってきた……。
「私も好きな人いるよ〜」
彼女は明るくそう宣言した……もしうちのクラスの男子たちがそれを聞いたら、きっと心が折れるだろう……あのバカなんて絶対に叫び声を上げるに違いない……。
「誰なの!?」
みんな興味津々に聞いた……私もこういうことにはあまり興味がないタイプだけど、さすがにちょっと気になってきた……。
「先輩の……瑛治さん……サッカー部の……」
「なんかワクワクしないなあ……」
「がっかり……誰かと思ったら、あのイケメン先輩かあ……」
美人はイケメンが好き……みんな分かってる……。
「もう、やめてよ!! イケメンが好きで何が悪いのよ!?」
彼女は腕を組んで顔をそむけた……理紗ちゃんが言い返した……。
「イケメンが好きなのは別に悪くないよ……悪いのは、あんたが先に取っちゃったことだよ」
「何よその理屈!?……早い者勝ちでしょ! っていうか、あんたも先輩のこと好きなの?」
「違うよ……私は陽輝のこと好きなの……でもあいつ鈍感すぎて全然進展しないんだよね……」
「それならそう言ってよ!!」
私たちはまた大笑いした……。
そして理紗ちゃんが私の方を向いた……。
「九依奈ちゃんは?」
答えにくい質問……でも、そんなに難しくもない……。
好きな人、か……。正直、そんな言葉は頭の中に一度も浮かんだことがない……。ただその日その日を過ごしていくだけ……。
私は、あらゆることにイライラしてしまう性格だから……本当に誰か「一人」を好きになるなんて、難しいんだと思う……。
そうだよね……私自身、恋愛なんて……ううん……頭の中に恋愛のことなんて、これっぽっちも入れたいと思ったことがない……。
だから、私は自分でもよく分かっている答えを、そのまま口にした……。
◆◇◆
午後になって、友達と別れて帰る準備をした……シャルちゃんが自宅の車で送っていこうかと言ってくれたけど、私の家はそんなに遠くないから断った。
「涼しくて気持ちいいなあ……」
夏なのに、今日は特に涼しくて過ごしやすい……日差しも強くなくて、風が吹いて、雲が太陽を隠してくれているから、そんなに暑くない……。
福岡って、本当に素敵な町だな……そんなことを思った……。
普段は周りの人にイライラしてばかりいるのに……この場所にいるときだけは、一度もイライラしたことがない……。
私は両腕を広げて、段差のあるレンガの上を歩いて、小学生らしく、バランスを取りながら歩いていた……。
「風が気持ちいい……たまにはこういうのもいいな……」
周りを見渡しながら歩いた……午後の街が、いつも通りゆったりと動いているのが見える……。
こんな天気のいい日は、誰かと並んで歩くのもいいかもな……なんて、ふと思ったりした……。
カシャッ……。
シャッター音が鳴った……。
「うわっ!!」
その音に少し驚いて、バランスを崩してしまった……でも誰かが手をつかんで支えてくれた……。
「ごめん……びっくりさせちゃった?」
写真好きの、あの金髪の男の子だった……。
「真司くん?」
そう、彼こそが、シャルちゃんがみんなに「好き」だと告白した相手だった……。
彼は優しい性格の子で、写真を撮るのが大好きだった……。お父さんがカメラマンをしているから、写真好きになったんだと聞いたことがある……。
「こんにちは、九依奈さん……」
パシャ……ポラロイドカメラから写真が出てきた……。
「ごめん……盗撮っぽいって分かってるんだけど……角度がすごく良かったから、つい……」
彼はその写真を私に見せてくれた……両腕を広げて楽しそうにレンガの上を歩いている私の写真だった……。
私は少し笑って、その写真を買い物袋の中にしまった……。
「モールに行ってきたの?」
「うん……女子たちと一緒に……あなたは?」
「僕は……町の景色を撮りに来たんだ……渋くてかっこいい趣味でしょ?」
彼はカメラをこちらに向けて微笑んだ……私はそれを軽く払いのけた……。
「他人を勝手に撮っちゃだめだよ……訴えられるよ」
「はは……確かにそうだね……景色を撮るのは好きなんだけど……人を撮るのも新鮮で楽しいんだよ……」
はあ……まったく……。
「それで……九依奈さんは何を買いに行ったの?」
紙の買い物袋を持っているのに気づいたのだろう……そう聞いてきた。
「水着だよ……」
「あっ! ごめん!!」
いい子だなあ、この子……あのバカとは大違い……。
「なんで謝るのよ?……」
私は空を見上げた……今日の空は少しだけ澄んでいた……まあ、夏だしね……。
それから彼の顔を見た……彼は横の山を撮ろうとしている……。
風が少し、こちらに吹いてきた……。
[私、真司くんのことが好きなの]
シャルちゃんのために、ちょっとだけ手伝ってあげようかな……。どうせ私には好きな人なんていないんだし……友達のために、少しくらい力を貸してもいいよね……。
「ねえ、真司くん……」
「なに?」
彼はこちらを見ないまま返事をした……。
「私たち、白浜ビーチに遊びに行くんだけど……興味ある?」
軽い気持ちで聞いてみた。
「海に遊びに行くの?……楽しそうだね。でもちょっと遠くない?」
「そうだよね……うちの親も、たぶん止めるだろうな……」
分からないけど……なんとなく、彼に来てほしい気がした……。
少なくとも……この二人には、少しでも一緒にいてほしかった……。
「でも僕たちのチーム全員で行くなら……」
「じゃあ、お母さんに聞いてみたら」
友達の話になると、彼はいつもすぐに乗り気になる……本当にいい性格の子だ……。
「真司くん……好きな人とかいる?」
思い切って直接聞いてみた……。
「え!? なんで急にそんなこと聞くの?」
「ただ知りたかっただけ……」
彼はカメラをぎゅっと握りしめて、首を横に振った……。
「そうなんだ……」
いないんだ……それなら好都合だ……。
「知ってる?……うちのクラスに、あなたのこと好きな子がいるんだよ……」
「本当に!?……誰なの……」
私は人差し指を口元に立てた……。
「秘密……」
「え?……なんでだよ……まあでも……もしその子が僕に告白してくれたら、僕は喜んで付き合うと思うよ」
うーん……いい人だなあ……これだけ言われれば、あの子があんなに彼のことを好きになるのも無理ないよね……。
「なんで? もしかしたら、その子のこと好きじゃないかもしれないのに」
「別に複雑な理由があるわけじゃないんだ……ただ、誰かが僕を好きになってくれるってことは、その人はきっと僕を、ずっと大事に想ってくれるんじゃないかって思うんだよ……」
「振られるのが怖いってこと?」
「そうだね……」
彼は頭をかりかりと掻いた……この人の言ってることも、それなりに一理あるなと思った……。
自分から誰かに近づいていったら、その人は簡単に自分から離れていってしまうかもしれない……でももし、その人が自分のことを好きでいてくれるなら、その愛情はずっと自分に向けられ続けるはず……。
「あなた、運がいいね……」
私は彼の肩を軽く叩いた……。
しばらく歩くと、家に着いた……。
「じゃあね……また会おう……」
私は真司くんに手を振って別れを告げた……彼も手を振り返してくれた……。
「九依奈さん……」
私は振り返った……。
「今日の私服、すごく可愛いね……」
いい性格の人らしく、女の子の服を褒めるのなんて、彼にとってはごく普通のことなんだろう……。でも……でも……。
「口が上手いなあ、あんた……もう帰りな……」
どうしてか、笑顔になっていた……。
カシャッ……。
またカメラの音が鳴った……今度もまた、彼はこっそり私を撮ったのだった……。
「いい笑顔だったよ……」
真司はその写真を私に差し出した……。
「あんたが持っといてよ……あげる……」
「そうなの?……じゃあ、僕はこれで帰るね……」
「うん……またね……」
私は家に入り、急いで自分の部屋に戻って、水着を試着してみた……。
さっき着ていた私服のことを、ぼんやり思い返しながら……。
[私、真司くんのことが好きなの……]
突然、シャルちゃんの言葉が頭の中に響いた……。
「……はあ……」
なんなんだろう、私……。
私は携帯を開いた……2012年って便利だなあ……分からないことがあれば、インターネットで調べられるんだから……。
《異性の友達といると胸がドキドキする》検索……
「何なのこれ……違うって……」
恋に落ちる……恋……親友に恋してしまう……
《親友に恋してしまう》
[私、真司くんのことが好きなの]
「もう、やめてよ……」
私たちはただの友達……ただの友達、それだけのはず……。
以前にVTuberシリーズを読んだことがあるなら、これがその始まりだとわかるでしょう?




