第2章 : 速水ヒロによる幕間劇と物語…
◆◇◆
彼女は僕にとって、人生でかけがえのない存在だ。いつもそう自分に言い聞かせている。
でも、僕は許されないことをしてしまった。彼女をひどく傷つけてしまった。
今でも、あの言葉が彼女への気持ちを支えてくれるのかどうかわからない。
◆◇◆
僕は毎日同じ道を歩いている。今日は本来なら休みの日だったはずなのに、僕たちのような学生にとって、今日も明日も明後日も休みだ。
毎日が退屈なんだろうな。毎朝アニメやスーパーヒーロー映画を見るのを楽しみにしているけれど、それでもやっぱり飽きてしまう。毎月発売されるゲームはどれも同じようなものばかり。誰も見ない夏映画もどれも同じ。いつも買っている漫画も、もうあまりワクワクしなくなった。
正直、夏休みとはいえ、友達と学校にいる方がずっと楽しいと思う。
別に反論したいわけじゃない、ただそう感じているだけ。
今日もいつもと変わらなかった。祖母が朝食を作るために、早朝に食料品を買い出しに行くという、良き孫としての務めを果たした。
祖父母と同居している。両親は別の場所で働いていて、たまに訪ねてくるけれど、あまり会えない。
でも、それは大した問題ではないから、気にしない方がいい。
公園の入り口を通り過ぎた。最初は彼女を無視してそのまま歩き続けようと思ったけれど、朝の公園でジョギングしている人を見かけた。
彼女は僕と同い年くらいだった。鮮やかなオレンジ色の髪をサイドに結び、風になびかせている。白い半袖シャツの上に黒いスポーツブラ(汗でびっしょり濡れていて、それが透けて見えた)を着て、ランニングパンツ、ピンクと白のランニングシューズ、そして有線イヤホンをしていた。
それは、僕が片思いしている女の子――いろはちゃんだった。
祖母が起きる前に家に帰りたかったので、急いで公園へ向かいました。
でも、祖母は走っていたので、声をかけるのを忘れてしまいました。それに、祖母はヘッドホンをしていたので、声をかけても聞こえないだろうと思い、そのまま追いかけました。
数週間前…クラスメイトに強要され、いろはちゃんのロッカーに不適切な内容のラブレターを届けさせられました。
彼は私がいろはちゃんにクラスメイト以上の感情を抱いていることを知っていたので、私を代理として利用して、いろはちゃんにひどいイタズラを仕掛けようと計画したのです。
当時、秘密がバレてクラス全員に知られたら、ものすごく恥ずかしい思いをするだろうと思い、彼の指示に従いました。
ちょっとしたイタズラのつもりだった彼は、まさかこんな大問題になるとは思ってもいませんでした(もちろん、小学3年生には善悪の区別がつかないものです)。クラス委員長の西尾直悦くんは、クラス内でのいじめを非常に嫌っていたので、全員を調査し、私を含めた生徒全員を監視するために信頼できる人を集めました。いろはちゃんは手紙の内容を特に気にしていないようでしたが。
その日の夕方、私は犯人である静香さんと教室で会う約束をしました。ところが、現れたのは西尾くんでした。恐怖を感じた私は先に彼に襲いかかり、その夜は教室で喧嘩になってしまいました。
喧嘩が終わった後、いろはちゃんが、騒動の張本人である私たちに話しかけに来ました。
しかし、彼女は私たちに全く怒っていませんでした。「もう懲りたでしょ?二度としないでね」とだけ言って、部屋を出て行きました。
正直なところ、私はさらに罪悪感を感じました。彼女は「大したことはしていない」と言い続けていましたが、それでも謝りたかったのです。
ごめんなさい…。私にとって、謝罪は言葉だけではなく、相手に後悔の念を抱かせるような形で示さなければならないと思っています。
でも、どうすればそれができるのでしょうか?
西尾くんみたいにどんな状況にも対応できるわけじゃない。
北原さんみたいに人とうまくコミュニケーションが取れないし。
真司くんみたいに優しい性格でもない。
芦原さん(くいな)みたいにストレートじゃないし。
宮島さん(シャーロット)みたいに周りの人のことをよく理解してないし。
それに、長岡いろはみたいに明るい性格でもない。
もし彼女たちだったら、こんな状況にどう対処するんだろう?
いや…僕だ。この気まずい状況を何とかしなきゃいけないのは僕なんだ。
過去のことは根に持ってないって言ってるけど、もしかしたら恨みを抱いてるのかもしれない。
正直…分からない。これからどうすればいいのか分からない。彼女のことが大好きだったのに、僕が彼女を傷つけてしまった。
僕はただ、自分のことしか考えないダメ人間なんだ。
ずっと走り回っていたので疲れたので、前のベンチに座ろうとした。
すると彼女も立ち止まってそこに座った。
いろはちゃんはバッグからタオルを取り出して汗を拭いた。その汗が妙に魅力的だった。
顔を拭いた後、バッグの中を何か探そうとしたが、何も見つからなかった。
コンビニでもらった小銭を取り出し、ペットボトルの水を買った。
そして、それを彼女の首元に当てた。
「痛っ!冷たい~~!」
こんな風にからかうのはもうやめよう。周りの人に変態扱いされるかもしれない。
「お…おはよう…」
なんでこんなに声を長く伸ばすんだろう?
「あ!ヒロくんじゃない?君もランニングしてたの?」
「はは、うん。ちょっと走ってただけだよ。」
気まずい。本当に家に帰りたい。
「朝から走るのが好きな人がいるなんて知らなかったよ。もう一周走ってみない?」
また走るつもり?本当にタフだな。
「いえ、結構です…肺がもたないと思うんです。」
「そうなんですか?」
彼女の無邪気な顔には、本当に戸惑っている様子が浮かんでいた。
くそ、戸惑っている時でさえ、なんて可愛いんだ。
「じゃあ…毎日走ってるんですか?」
そう尋ねた…ふむ…彼女はそんなに話しかけにくい相手じゃない。ただ、私が考えすぎていただけだったのかもしれない。
「毎日じゃないんです。寝坊した日は来ません。でも、この夏休み中はほぼ毎日来ています。」
彼女は健康オタクだな、と心の中で思った。テコンドーの道着を着てヨガの動画を撮っている彼女を想像した。そんな姿が彼女には似合うだろう。
何を考えているんだ、俺は?
「あぁ…しまった…この水筒、空っぽだ。」
そういえば、彼女に水を買ってあげようと思っていた。
「はい、これ。」
「本当にいいんですか?」
彼女は尋ねた。
「どうせ買ってあげるつもりだったんだ。」
彼女は10秒ほど私を見つめた後、冷たい水のボトルを手に取り、半分ほど飲んだ。
飲み終えると、ボトルを脇に置いた。私も走っていたので喉が渇いてきた。そこで、冷たい水のボトルを手に取り、一気に飲み干した。
「わあ…冷たいのを買っておいてよかった。」
いろはちゃんを見ると、彼女は一瞬微笑んだ。彼女の言葉の意味が分からなかったので、私は戸惑った表情で返した。
「ずいぶん策略家ね。」
自分が何をしてしまったのか気づいた時には、もう手遅れだった。
馬鹿げているように聞こえるかもしれないが、私は水筒越しに間接キスをしてしまったのだ。
恥ずかしさで慌てて口元を覆うと、彼女はくすくす笑った。
「初めての間接キスだったよね?責任を取ってね。」
彼女は再び私に微笑みかけた。彼女は本当にからかうのが上手い。
白いシャツの汗でびっしょり濡れたスポーツブラがはっきりと見えていて、僕はさらに言葉を失った。
「ねえ、ヒロくん、何か変なこと期待してるの?」
彼女はさらに顔を近づけてきた!
「ううん。」
隠そうとしたのに、彼女はじっと僕を見つめていた。
僕は感情を隠すのが本当に下手だ。
「まあ、無意識のうちに勇敢だったってことにしておこうか。」
どういう意味?
僕は慌てて彼女から離れた。
「ところで、こんな格好で出かけるなんて、家族は気にしないの?」
いろはちゃんは友達も多くて明るいように見えるけれど、彼女の家族はとても厳しく、帰宅時間まで決めている。
「大丈夫。両親は最近家にいないから、好きなところに行けるんだ。」
彼女は、めったに見られない、少し真剣な表情で話した。そんな表情を見られるのはありがたいことだと言うのは、残酷に聞こえるかもしれない。
「あなたは好きな時に街を歩き回れるなんて、羨ましいわ。私とは違って…」
彼女にどんな慰めの言葉をかけたらいいのか分からず、私はただ黙って座っていた。
両親が私を訪ねてこなくても構わないのだが、いろはちゃんは両親がいなくても本当に自由だ。
それでも、彼女の気持ちはよく分かった。子供にとって、いつもこんなことを言われるのは負担が大きすぎる。
だから、そっと手を伸ばして、彼女の頭を撫でた。
無意識にそうしたけれど、たとえ意識していたとしても、きっと撫で続けていただろう。
彼女は私の行動に少し驚いたようだったが、すぐに3分以上も撫でさせてくれた。
3分ほど撫でた後、彼女は私の両手を頭から離した。
「ありがとう…」
「ん…」
そう言って、私たちは再び走り出した。
おばあちゃんが起きるまでにはまだ時間がある。
でも、これで十分だ。これから起こることのためには。
◆◇◆
私たちは広場の時計台まで走り続け、そこで箱を見つけた。
私はあまり気にせず、そのまま走り去ろうとしたが、いろはちゃんが立ち止まったので、私は立ち止まった。
「どうしたの?」
彼女は素早く私の唇に指を当て、同時に「シーッ」と静かにするように促した。
私はただじっと立ち尽くし、彼女の命令を待つしかなかった。
(早く隠れて!)
そう言うと、彼女は素早く私の手を引っ張り、椅子の後ろに隠れた。
これは一体何?かくれんぼ?それとも爆弾処理ごっこ?さっぱり分からない。
彼女に何があったのか聞きたかったが、密かに想いを寄せる彼女の柔らかい手が私の口を塞いでいたので、何も言えなかった。ただ座って、あの馬鹿げた段ボール箱が現れるのを見つめるしかなかった。
(来たよ!)
彼女は私の耳元で優しく囁き、その優しい声に私は胸が高鳴った。
「ニャー!」
その時、私は彼女の本当の目的を理解した。
【可愛い!】
5匹ほどの子猫がゆっくりと箱から出てきた。みんな可愛らしくニャーと鳴いた。
子猫たちが鳴き始めるとすぐに、おそらく母親と思われる大きな猫が駆け寄ってきて、子猫たちを箱の中に引き戻しました。
見た目からして、捨てられた猫に違いありません。
なんてひどいことでしょう。
私たちは二人ともただじっと子猫たちを見つめていました。
だから何?
正直言って、私は猫より犬が好きですが、猫が嫌いなわけでもありません。
「それで…どうするつもりなの?」
私は直接尋ねた。
「あの…ほら、かわいそうに…」
「飼うつもりなの?」
彼女は小さく頷いた。
「でも…」
彼女は少し悲しそうな声で私に囁いた。
「うちの家族はペットを飼うことを許してくれないの…でも、放してしまうのはかわいそうで…」
……
私の頭にすぐに一つの考えが浮かんだ。
「じゃあ、誰かに預かってもらうのはどうかな?」
「本当?!」
彼女は大声で叫び、子猫たちは驚いて四方八方に散っていった。
私たちは二人とも、どうすればいいのか分からず立ち尽くした。
しかし、母猫は子猫たちを追いかけるどころか、殺意のこもった目で私たちを睨みつけた。
私は「まずい、大変なことになった」という表情でいろはちゃんを見た。
母猫は私たちを睨みつけたまま、一目散にこちらへ走ってきました。そして、そのままじっと私たちを見つめ続けました。
「どうしたらいいの、ヒロくん?何か伝えたいことがあるみたいだよね?」
「きっと『噛むぞ!』って言ってるんだわ!」
「えっと…子猫が逃げちゃったなんて、ごめんなさい…一緒に探すの…わーっ!!」
いろはちゃんはそう言って母猫に手を伸ばしましたが、逆に噛まれてしまいました。
「痛っ!〜〜」
「明らかに怒ってるわね…先に傷の手当てをして。私は子猫を探しに行くから、後で来て。」
母猫は走り去りました。私も後を追いました。
◆◇◆
「見つかった?」
「ごめん、こっちに2匹見つけた。」
「こっちに1匹。」
「ニャー!」
僕たち2人と猫1匹で子猫を4匹見つけたけど、5匹目はまだ見つからない。順調に進んでいるように見えるけど、それはあまり良い方向じゃない。
「ニャー!!」「ニャー!!」
探していた子猫が、車が猛スピードで走る幹線道路に逃げ出してしまったのだ。
「!!!!!!!」
僕は全力で走り出した。他の3年生――いや、今は4年生――と競争したら、間違いなく最下位だっただろう。でも今は、クラスのみんなを追い抜けるような気がする。6年生なら僕の後塵を拝むだろうけど。
「ヒロくん!!!!!!!」
僕は全速力で加速し、ついに子猫を捕まえた。
「捕まえた!!!」
でもその時……
ピーピーピー!!!
車のクラクションが鳴り響いた…全身の骨折を覚悟した…最悪の場合、意識を失ってしまうかもしれない…
しかし、その時…
「ふんっ!!」
誰かが駆け寄ってきて私を掴んだ…その瞬間、私は子猫をぎゅっと抱きしめた…息ができるか心配になるほど強く…
キーッ!!ブレーキのキーッという音…車の持ち主が私の様子を見に飛び出してきた…
「大丈夫か!?」
「あぁ…怪我は…ない…」
車の持ち主は安堵のため息をついた…私は私を助けてくれた人の方を振り返った…
彼は黒髪の、いかにも危険な雰囲気の若い男だった。私は彼の顔を隠していたので、何を考えているのか分からなかった…彼は白いシャツを着て、首には龍のタトゥーがあった…
「兄さん…大丈夫か?」
「ん?…ああ…」
彼は立ち上がり、埃を払い、車の持ち主の方へ歩み寄った…
「怪我はないか?」
威圧的な外見とは裏腹に、彼の声はとても優しかった…。
「ヒロくん!!」
いろはちゃんが私たちの方へ走ってきて…顔は恐怖に歪んでいた…そして母猫は子猫を素早く抱きかかえて逃げていった…。
でも、もう猫たちを探しに行く時間はない…。
「大丈夫です…」
私たちは運転手と少し話をした後、その年配の男性がやってきて運転手と話をした…。
おかげで全てうまくいった…。
ようやく席に着き、缶ジュースを飲んだ…。
「すみません…猫のことは…」
「謝る必要はありません…あんな風に車の前に飛び出したのは私のせいです…」
年配の男性は私たちの缶ジュースを再び注ぎ、私たち二人に注意した…。
「君たち二人に非はない…だが、二度とあんな危険なことはするなよ…」
見た目は強そうだったが、彼は優しかった…。
「ところで、あなたはどなたですか?」
「ん?…僕は小仁人 郁郎です…先輩に会いにこの町に来たんですが…今は白浜海岸のレストランで働いているんです…」
「えっ?…待ち合わせの約束はしてなかったんですか?」
「いえ…ただ、先輩は…ちょっと自分の好きなように行動しすぎるタイプなので…」
あれは何だったんだ…?
いろはちゃんと顔を見合わせて…それから大笑いした…
それから彼女の兄と別れた…
二人で家路についた…
「間に合ってよかった…」
「猫たちがみんないなくなっちゃった…無事だといいんだけど…」
そう言いたかったけど…彼女が猫たちにちょっかいを出さなければこんなことにはならなかったのに。でも、言わない方がいいだろう…
「そういえば…ヒロくんっていつも朝食の材料を自分で買ってくるよね…?」
「みんな、ぐっすり眠ってね…」
彼女を家まで送っていった…
「さっきは話してくれて本当にありがとう…」
彼女はまた微笑んだ…正直、その笑顔を見ると、彼女の顔を見るのが辛かった…
「いいえ、感謝するのは私の方よ…あの手紙のことを許してくれて…」
「言ったでしょ、もう二度としないなら大丈夫。じゃあね…」
彼女は家に入っていった…でも…
「あ…そうだ…」
彼女は私に携帯電話を渡した…そこにはメールアドレスが…
「メールアドレス交換しようよ…」
「えっ!?」
「本当!?本当なの!?ラッキー!!」
「う、うん!!喜んで…」
「君は…」
メールアドレスを交換していると…メッセージが届いた…
シャルルちゃんからだった…
「えっ?…何かあったの?」
プライバシーのために顔を背けたけれど、彼女はメールを読ませてくれた…
「ねえ、いろはちゃん…来週、白浜海水浴に行く予定なんだけど…一緒に行かない?」
私たちは顔を見合わせた…
いろはちゃんは少し考えた…
「うーん…両親は仕事でしばらく帰ってこないんだけど…あなたは?」
「えっと…祖父母に聞いてみないと…」
彼女は微笑んで…手を振って別れを告げた…
「行けたら来てね!!」
ああ…くそ…この可愛い人、一体どんな変人なんだろう…
「…………うーん…」




