#9 なぜだ!なぜ貴様それを知っている!ていうかエスパー行為やめろって!!
「なぜだ!なぜ貴様それを知っている!ていうかエスパー行為やめろって!!」
「誤解だ、見ろ、ウチはメガネをしていない、だからログではなく、これはタレコミだ」
「タレコミだと!?てことは…まさか…」
「まぁ、そういうことなんですよ…」
「オマエ、まさか、オレの幼馴染の関係者なのか?」
「そだよ」
「だって、そんなこと一度も…」
「そりゃそうだ、ウチらだってたまにしか会わないんだからキミの彼女だった幼馴染とウチが中高からの知り合いだなんてする話になったことないんだから、ていうかあんな話聞いたら痛すぎて触れられないし…」
「ウソだろ…あいつオレのことゲロってんの?」
「彼女をモデルにしたであろう題材の物語を妄想だけに留められなかったことがバレて、お互い折角仲良くつき合うことができたのに壮絶にちりじりになっていくとかいうくだりのことなら」
「はぁぁぁぁぁaaaーーーーーーーーーーーーー」
「そりゃ女子高校生なんだからこんな黒ネタ、誰かに話すに決まってんじゃん、まぁ割と壮絶な部類だから泣けるというか、呆れるというか、切なすぎて涙出るくらいウチらで笑ったったし、もう過去のことなんだからさっさと忘れて強く生きろよ」と彼女はとても悪い顔をしながら再びメガネを掛けて「ドレドレ」と言いながらエスパーの行使を隠そうともせずオレの心のログを読み取ろうとしている。
オレはその挙動を一応確認はしていた。
確認はしていたがオレは深いため息と共にそれどころではないことが進行していた。
あの情報の完結しないスローモーションを処理する思考がオレの想起する黒歴史を読み込んでいたのだ。
本当に死にたいと思ったあの頃の気持ちがまざまざと蘇ってくる。
もうすでに死んだも同然でどうして生きなきゃいけないの?みたいな…そんな気持ちが
その頃のオレは自分の描いた絵の何が悪かったのかをよくよく反芻していた。
最初は鉄道だった。
鉄道の何が気に入ったのかの始まりは今となっては謎だが、線路の向こうからやってくる、線路の上を走る、線路の彼方に去っていくといった列車の遠近的な動向にいつも旅情を掻き立てられる感じがとても好きだった。
オレの父が大企業勤めの転勤族だったこともあって、自分の始まりの土地である生まれ故郷からは幼稚園時には離れるも、自分が思っている以上に母方の故郷との関係を大切にする傾向がその後の情動と性格に多大に影響を及ぼしていた。
その挙動を巡る感情と精神の動きは夏休みや冬休みのモチベを辿れば子供ながらに一目瞭然だった。
生まれ故郷に戻って幼馴染に再会する。
それが一〇代のオレのすべてだった。
そのすべての気持ちを乗せてくれていたのが鉄道だったことからだと思う。
オレにとっての線路は幼馴染への道そのものだった。
線路の向こうには彼女の暮らす街があることへの想像がオレの大部分を占めていた。
幼稚園児から小学生にかけてのオレに遠く離れた幼馴染と話したり遊んだりの関係を経ながら彼女のことを知るという経験ができない代わりに、オレは彼女のいる故郷への道と方角を徹底的に調べることを鉄道の時刻表で行い、これが”楽しい”なんだ、の感覚を夢中で追いかけるようになる。
オレは思いを馳せた幼馴染とつながる鉄道と線路の絵を描き続けた。
そして、時刻表からわかる鉄道ルートと駅名の漢字をノートに記述し続けている内に、漢字と地理と鉄道を皮切りにあらゆる交通事情に詳しくなったオレはやがて幼馴染に会うために一人で西へと旅をし、その西を目指すことそのものに自らの人生の物語を見出し始める。
だからオレにとって幼馴染のいる西は常に正義だった。
西にはいつも強くあってほしかったし、どんなものでも美しくあってほしかった。
そうやって小学生をしていく中で彼女は高校野球の甲子園で一番目立ってるエースピッチャーという存在が好きだということが判明して、オレは西の高校に越境入学を目指すもバカすぎて彼女とは違う学校となってしまったが、そんなオレの淀みなき熱意が彼女に伝わったのか、オレたちはつき合うことができた。
ただし、オレは寮暮らしで完全に野球部に管理された生活のストレスと彼女に会えなさすぎる欲求不満から親指の爪がガリガリになるくらいの狂おしいイライラのはけ口として描き始めたのが女子高生だった。
クラスの中を見渡す限りに存在してる女子高生をモデルにした絵を描くのは鉄道と同じくらい夢中になれた。
ただでさえ学校での授業中は寝るか外を見てあくびをするしかなかった教室で女の子を描くとかいう最高にキモいけど恰好の暇つぶしを手に入れたオレは一層バカにはなっていった。
小学生だった頃のオレが鉄道の種類と構造を描くのにどんどんのめり込んでいく感じにとても似ていた。
鉄道も最初は表面の線だけを引いて、色を塗ることを楽しみにしていたものが、やがて線路に乗る車輪の部分やそれに力を伝える動力のためのパイプや電力を受け取るためのパンタグラフ等が鉄道という金属の塊に絶妙に詰まっている、その組み合わせの詳細にこだわるようになった。
それと同じように教室にいる女子高生たちを見る目と画力がそれなりに向上してくると彼女たちの躯体や制服ばかりだけでなく、流行りのルーズソックスやバッグの種類、それにそこかしこにくっ付いているアクセサリーやぬいぐるみのような可愛さへのセンスのようなもののこだわりがそれぞれにあることに面白さを見出していく。
おかげで最初は抵抗のあった女子高生観察にもあっさりと慣れたオレは女の子を可愛く描く技術だけはどんどん上達していき、やがて教室で発行され続けたオレの絵は寮の同期を皮切りに先輩や一部の女子にまで広まることとなる。
そういった評判が評判を呼んでのあまりの人気から調子に乗ったオレは女子高生の隠された恥ずかしい本丸にもチャレンジしようとしたことが終わりの始まりだった。
オレは幼馴染の彼女そっちのけで女の子の裸体研究を開始する。
そのためには資料が必要だった。
生の女子高生の服を脱がせるのは野球の上達よりも遥かに難しいからどうしても幼馴染の彼女にお願いしたかったのだが、滅多に会えない上に金もなく杜撰でノンデリな説得しかできそうになく、それをしたら最悪の未来への予感しかしないことからこうして苦労しているのであって…
でも、オレは自分のあるがままの女子高生を上手に描けるはず、という溢れ出るまだ見ぬ可能性への予感を無視できないまま女体研究という名目のもとに、オレは大変よろしくない禁断の手段を思いつくのだった。
脱がすことも買うこともできないならば盗めば良いのではないか?
そんな悪魔の囁きに耳を傾けた当時のオレはそれがエロ本の調達のための最適解としか思えなかった。
オレたちは野球に専念するために進学し、寮生活をさせてもらっていることからお金はおろか、携帯すら没収されての生活を日常としていたことから、エロどころか漫画やテレビ等の欲望のはけ口のすべてを奪われていた。
だから、オレはエロ本の調達のためには夜間にコンビニからくすねてこなければならなかった。
仕方なくな。
正直、初めての盗みには膨大な迷いがあった。
だがしかし、オレはオレの大義名分によって自らを奮い立たせる努力をして気合を入れていた。
今のオレの立場はある意味食べ物や服が買えなくて困って盗むのと同じようなものだ。
これは単なるスケベ心ではない。
エロ本がないとオレのアートが完成することが適わず、エロの無い生活のせいで新たなオレが生まれる可能性の芽を摘むことは、将来のオレがオレでなくなってしまうかもしれないとかいう自分でもよくわからない危機感も加味されて、残された選択肢はもう盗むしかない、そういう領域にまでオレの大義名分は達していた。
お金がない以前にエロ本を人の面前で買うこと自体に抵抗もあったから盗みは具合よく丁度よかった。
登下校中は制服でバレるから深夜にフリースのままコンビニに赴き、もし監視カメラに映っても帽子を深くかぶることで身バレを防ぎ、一番近所のコンビニのエロ本コーナーを確認したら、どれでもいいから適当に良さげなエロ本に手をかけ立ち去る。
完璧だったと思う。
キョロキョロせず、ウロウロもせず、悪びれもせず、割と自然に店をグルリと回った上で、素早くトレーナーの中の脇に忍ばさせるとただちに何事もなかったかのようにコンビニの自動ドアを潜って出ていった。
誰も追ってこない。
その後に何の連絡もない。
オレは自分が完全犯罪を成し遂げたことに安堵して女体アートのための研究を夜毎深めた。
残念ながらオレたちにとっての将軍にあたる究極の部分はどうしてもモザイクのせいでわからなかったが、バリエーションに富んだサイズと形の副将を露わにしたサンプルを目に焼き付けることをして、オレは盗んだエロ本を参考書のような気持ちで寝る前に眺めては枕の下に隠して眠るという習慣を楽しんだ。
そして、エロ本から得たイメージと理解を通して見る教室の女子高生は別物となった。
これまで以上によりエロい目線で女子高生たちを見るようになったオレは、その骨格の上に育まれた肌質や肉感と顔立ちから彼女たちの副将軍の形態と腹部のくびれとの関係みたいなのをより具体的に想像できるようになったことから、漫画やアニメような画質からより写実的な描き方がしやすなったことで資料としてのエロ本の成果を実感せずにはいられなかった。
それに同じエロ本の同じ女性だと同じ裸体には変わりがないはずなのに、なぜか物足りなくなって別のエロ本への渇望が自然に湧いてくる感じがもしかしたらオレたち男の種を蒔くための本能であり、世に言う浮気の根源にあたるものみたいなのをサインにオレは再び近所のコンビニに赴いて盗みを成功させる。
次も成功、その次も成功、そしてその次も成功して、まるで息を吸うようにエロ本を盗みまくったオレはやがて、オレのアートはこのエロ本盗みというテクニックから始まっているという妙な自負を誇り始めた頃のことだった…
いつもの調子でナチュラルにエロ本を懐に収納してコンビニの自動ドアを出ようとしたら、ガタガタと自動ドアが変な風にガタついて自動で開くのをやめたのを目の前にして、オレはそれを”あれ?故障でもしたのかな?”と思ったのが最初だった。
すると脇のセンサーらしきものがブザーを鳴らしながら自動ドアが自動で開けるのをやめたのだと悟った。




