#10 え、なにこれ、マジで…と思っている内に男性のコンビニ店員が駆けつけてきた
え、なにこれ、マジで…と思っている内に男性のコンビニ店員が駆けつけてきた。
なんとかごまかそうと「これ、どういうことですか?」のわかんないふりとかいう強気に出るも、店員に「とりあえず荷物検査させてもらって良いかな」という声に大人しく従った結果、「この脇に隠して物は何かな?」となってすぐに、オレは観念して土下座していた。
事務室に連れていかれたオレはこれからの未来が暗澹と閉ざされていくのを感じていた。
犯罪に手を染めていたことが明るみに出るのだ。
家族をはじめ、幼馴染や友人だけではない、所属している野球部の看板にも泥がつき、オレのせいで次の夏の甲子園予選への出場停止にまで思慮が巡るともう自分の頭の中がパニックになって、大きな声で「スミマセンでしたーーーーーーーーーーーーーー」と号泣しながらなんとか店員に許してもらうための活動に努めた。
「うるっさ!そういうのやめろ、もしかして外に聞こえるようにわざとやってる?」と店員は言った。
そんなことは露にも思ってなかったけどもしかして店に面倒だと思わせれば何とかなる?とか考えていると店員は「まぁ、どんなに叫んだところで営業妨害のビデオ履歴が増えるだけだから、無駄なことするのやめようか」と淡々と対応してくる。
男はロン毛で細長い渋い堀目でちょび髭を散りばめたコンビニ店員の退廃を絵に描いたような疲弊感をまるで隠そうともしない酒とたばこの良く似合いそうな三〇前後と思われる容姿をしていた。
そういった認識を頭の中で瞬時に行ったつもりでいたのだけど、なぜか急に沈黙を続けるコンビニ店員との間の空気がヤバいくらい気まずくて、オレはただひたすらに頭を下げて地面で視界を塞ぐようにして一刻も早くこの地獄のような時間を終わらせるために必要な対応を如何にするかを考えていた。
すると「お前さ、本当に悪いことしたと思ってる?」と静かに店員は言った。
「ほんの出来心でしてはならないことをしてしまったと思っていまずーー」とオレは必死に弁明をした。
「じゃあさ、なんで何回も万引きして平気だったの?ほんの出来心じゃないよね、どうして嘘つくの?」と店員からの尋問にオレは”なんかいろいろバレてるー”と思い改めて観念したオレは本当のことを言うことにした。
「あ”ーう”ー、なんとか許してもらえないかとお”も”っでま”したーズミマセンー」
「だよな、万引きは立派な窃盗罪で犯罪なんだよ、それをどうにかして許してもらおうとしてるのが丸わかりで許すコンビニ店員がいると思うか?」
「ごめんなざいー、本当にズミマセンでしたー」と言いながらこの店員はマジでヤバいを心の中のオレは連呼していた。
「まぁ、とりあえず警察からの親と学校への連絡はしないとだから反省してね」と店員のチェックメイト宣言にオレはこれ以上ないくらいに取り乱した。
「お願いです、どうにかそれだけは勘弁してくださいーそれだけはーーーーーーーーーー」とオレは泣き縋った。
「だからなんで?目の前で人殺しといて許してくださいが通じる社会があって良いと思うか?」
「お”ぼ”いまぜん、こんなことになるだなんてお”ぼっでながっだんでずーーーー」とオレはこれでもかとマジ泣きして店員に許しを媚びた。
「いや、キモいから、エロ本盗んどいて許してくれはキモいからマジで、つーかまだ若いから良いと思った方がいいんだよ、これに懲りてもう二度としないためにも一回社会に殴られる経験をしといた方がお前のためにもなるんだって」
「そ”うだどお”ぼいま”ずー、でもごんがいだげはーごんがいだげはおねがいじまずーゆるじてぐだざいー」
「お前、本当にバカでダメだな、許されないことをして許されようと思うとかどんな育ち方してきてんだよ、カンニングして今回だけは許してがあると思うか?銀行強盗しといて金を返したから許してもらえると思うか?自分で扉を壊しておいてカギをかけていた頃に戻れるとでもまだ思ってんだろ?無理だから…」
「まっだぐぞのどおりだとお”ぼいまず」
「逆にそんなに深く考えるな、別にこれで死刑になるわけでも服役するわけでもないんだから、むしろ人生の良い教訓の糧を得たと感謝さえするべきかもな、つーことでお前高校生だろ?生徒手帳出して」と言う男にオレは「今はありません」と答えた。
「だよな、じゃあまずは警察だな」と言いながら店員は電話の受話器に手をかけ、番号を押し始める。
そのときオレは無意識に「お店の物を盗もうとして本当に申し訳ありませんでした」と静かに口にしていた。
すると、動きを止めたコンビニの店員は電話の受話器を戻してオレにこう言ったのだ。
「いいか、お前から盗んだ理由を聞かなかったのはお前の言い訳に意味を持たせないためだ」
そして、コンビニ店員は続けてこう言ってきた。
「その言い訳はお前の問題であって、オレたちの問題ではない以上関与すべきではないからオレたちはお前の行った事実のみに言及しているんだ。だからオレは警察に連絡するんであって、オレは今お前を許すとか許さないの立場にはないし、増してやお前を悪だと断罪しているわけでもないってことだ」とこちらとただでさえ混乱して何を言っているのかの理解が怪しいのに、さらにこのコンビニ店員の言わんとしていることが良く分からなくなり始めていた。
「そして、その警察ですらお前の行いの善悪を判断することはしない。ただ、法律に則ってお前の行いを処理する、その処理されたものを司法が裁く必要な案件であるか否か、それだけのことだ。言ってることの意味がわかるか?」
オレにはこの店員の言ってることの意味が全然分からなくて冷や汗が止まらなかった。
「ちなみに法とは人類の過ちから生じた願いの総計で、法律ですらオレたち人間の善悪を裁くことの本当の意味には届いていない、だから常に六法全書は更新され続けているし、オレたちはその法という膨大な願いも空しくお前みたいなやつの相手をしなければならないというパターンに絶え間なく巻き込まれる、さてなぜでしょう?」
「へ?」
「へ?じゃなくて、答えるんだよ」
「あ、わわわ、わかりません」
「少しは考えろ、オレたちが悪いとわかってて法を犯すのはなぜなのか、一分以内に答えたら警察への通報を無しにしてやる」
「え?」
「え?じゃねぇよ、ほらあと五〇秒だ」
「え”え”…急にそんなこと言われても…」
頑張って答えが正解だったら警察への通報しないでくれる?
マジでか!?
どう答えればいいのかの正解をこれまでの人生の中で一番考えたかもしれなかった。
だからオレはどうしてオレみたいな人間になってしまったのかを考えた。
たぶんそれはオレの下半身のせいだと思った。
特にオレたちの将軍はどうしようもないことに夢中にさせる。
今のオレには絶対に間違いないという確信があった。
あるいは女子の下半身にいる男子にはない大将軍みたいなのと、隠されているの隠しきれていない上半身の将軍クラスの二つの副将というあまりに不公平なまでの戦力差の美しさに加えて、可愛いとかいう無敵さをも兼ねた彼女たちの顔面のつくりのせいでオレたち男子は無限に欲望してしまうことから、たぶんそれが大きくなったものが犯罪や戦争になっているという謎の辻褄がオレの中で完成したのだった。
「あの、たぶん、男子の下半身のせいです」とオレは答えた。
するとコンビニ店員は「あ?てめぇ、ふざけてんな」と眉間を寄せてくるのだった。
「ひ…あ、いえ、そんなことなくて…真面目に真剣に本気でできるだけ正直にそう考えました、少なくともオレがエロ本を盗んだ根本にはオレの下半身というか欲みたいなものがそうさせたのであって、決してふざけていたわけではなくて…」
「わーってる、わかってんよ、男子の下半身とかいうワードがよく出てきたな、感心するわ」
「そ、そうですか?」とオレは基本バカで通ってきたから珍しく褒められてめっちゃ嬉しかった。
「オレたち男子は根本的にバカで乱暴で汚くて、ガチでアタオカなことを失敗から学ぶことでしか人になれねー、そう出来てるようにしか思えねぇもんな、オレもそうだったしよ…」
「そう…なんですか?」
「そうなんだよ、いずれにせよ、別に正解なんてねぇんだ、ただふと思い浮かんだお前の言葉を言わせるのが目的だったんだ、おかげでお前は誠実だってわかったし、オレたちの下半身がいろいろ悪ささせてる事実も確認できた、コンビニのエロ本陳列にも意味があったってことだな、少なくともお前にとってはだが…」と男の口元は饒舌になりながら少し笑みを滲ませているようだった。
「・・・」とオレが何も言えないでいるとコンビニの男は「ただし…」と目を光らせながら語り始める。
「万引きするバカどもの面倒をオレみてぇに見てたら世の中ひっくり返るからやっぱコンビニにエロ本はどう考えても青少年を誘惑するだけの悪以外の何物でもねぇな、マジで一〇代男子の下半身なんて碌なもんじゃねぇからな」
「はぁ…」とオレは何が言いたいんだこの人は…と改めて冷静にそう思っていた。
「だってそうだろ?この世界の法がオレたちの暴れん棒によるトラブルと女子のエロさっていう誘惑への過ちの願いで出来ているのだとしたら、それはまさに神のルールだ」
「神のルール、ですか?」
「大袈裟に聞こえるか?」
「どうして、法律が神のルールなのか聞いてもいいですか?」
「どうしてか?なぜなら人間の肉体を創造したであろう神がそうしろとばかりの機能を人間に搭載してるからだよ」
「人間の身体を使って悪さをしろって意味ですか?」
「というより、人間が神に与えられた力を曲解して悪さをしてきたことへの戒めとしての総体が法で、法の存在はオレたち人間に犯罪や戦争の火種と可能性を予め人間の肉体に埋め込んでいたことの証拠なんだなぁ」
「それって、つまり悪意や侵略が神様のせいってことですか?」
「それは知らねー、でもオレたち人間の肉体は善だけを考えて作られてねぇし、かと言って悪の限りでもねぇ、ただオレは少なくとも人間の欲望と肉棒の後追いのようにして作られた法の言い成りにはなりたくないと考えてる、だから今回だけはお前を通報しない、オレはオレの言いたいことだけを伝えて、お前は今日のことを糧にお前の人生を進んでけ、もういいぞ、お前もうお家に帰れるぞ」
「え、でも…」
「でもじゃねぇよ、それともこの下らねぇルールに基づいて警察に突き出してやろうか?」
「あ、いや、えーと、ありがとうございます、この御恩はいつか…」
「いいんだよ、お前どっかの野球部だろ?こんなエロ本でも盗みは盗みだから前科的なものになって、お前のこれからが少し面倒なことになるのがわかってて警察沙汰にしてもこっちが面倒なだけなんだよ、それに法はもう役目を果たしてるとオレは見てる、お前は今日この場で、自分のしたことの非をオレに捕まることによって初めて本当の意味で”自分が人に迷惑をかける悪いことをしていた”ということの経験ができた、それはお前の顔見りゃわかる、オレはそれで十分だ」
法には役目と目的がある、なんとなくわかってはいたことだけど言葉として深くオレの中に刺さった気がした。
「あの、あと、なんか貴重な話も聞かせてくれてありがとうございました」
「いいから、全部オレの独り言だ、もしためになったと思ってんなら、くだらねぇ法や欲に触れるな、自分のルールで生きられるよう力を尽くせ、もう行け、あとコレは餞別でやるよ」
「え?ホントですか?」
「オレのおごりだ」
オレは今でもそのエロ本を記念品として大切に保管している。




