#23 神々の意志を継承している人間
祖父は蜂神メリュクシオンの背後に顔と頭が土星のような輪のついた天体をした人影のような存在を見つめていた。
そのたたずまいは空間に張り付いた影のように蜃気楼のようにわずかだが人型の輪郭を漂わせている。
そんな土星を頭にした人型の影の周囲にはいくつかの衛星が決まった軌道をぶつかることなく規則的に周回させていた。
人影を輪郭とした半透明なガス生命体を思わせるその体内の胸の中心には雲に隠れる太陽のようなぼやけた光が煌々と灯っている。
人格の神霊アルカイの蓋然体だった。
人格の神霊アルカイとは遠い遠い人類の祖先であり宇宙に生きる私たち人間の長兄のような「熱」を投射していた。
光に思われていた煌々とした灯り火は私たち人類が意志として生じた「原初の熱」の名残としてアルカイの蓋然体の核に今もなおその経験である宇宙史の始まりの向こうの始まりの原点を指し示していた。
ソフィアレスはそんなアルカイを見てこう語りかけるのだった。
ソフィ「プロソピオン、健勝か」
プロソ「ご無沙汰しております、アルカイのプロソピオンにございます」
ソフィ「いつも不思議だ、我が境界の光でなぜかキミの魂の権能である【あらゆる人格を守護する永遠の魂】だけは分解することが適わない」
プロソ「恐れ入りますが、いくら叡智の神霊であるソフィアレス様といえど、根源より賜っている権能への干渉はお控えくださいませ」
ソフィ「禁則は禁則でも不可能ではないのには理由があるとは思わんか」
プロソ「カオスの因子になるおつもりでありますか?」
ソフィ「カオスになるつもりも、因子になるつもりもない、カオスはすでに根源の意志としてキミが「熱」として人間段階を通過した当初から予め在り続けていたことを考えてみたことはないのか?」
プロソ「まさか”見誤る自由”の行使をご自身の叡智の蓋然体をして遂行するおつもりですか、おやめください」
ソフィ「何をもって誤りとするか、誰をもって正しいのかを決める、その意志の宇宙が終わり、始まるのだよ」
叡智の神霊ソフィアレスは自らの先輩である意志の神霊トローネのことを思い出していた。
意志の神霊トローネは神霊位階三位のファーストヒエラルキーに属する宇宙そのものを創造した神の一人のことだ。
宇宙そのものを創造するとは文字通りの意味だった。
トローネの意志そのものが「熱」となって出現し、流出し、それが最初の宇宙となる。
その最初の宇宙は土星紀と呼ばれた。
「熱」以外何も存在しない宇宙だった。
物質はもちろん、エーテルによる生命作用も、アストラル体による動的な要素もない。
ただ「熱」だけがある世界が最も高次元に位置する神霊の一つの意志に導かれようとしていた。
つまり、土星紀とは神霊の意志である「熱」が宇宙と化したことによって顕現したトローネの「体」そのもの。
この土星紀という宇宙の「体」は意志の神霊であるトローネが宇宙として自らを捧げたことによる。
その創造行為のことを「供儀」という。
第二ヒエラルキーであるキュリオテテス以下の中級神霊は宇宙の生命を担う光を自らの供儀として、土星紀以降の宇宙にエーテル体、アストラル体、そして地球紀に自我という霊的意志の根源の一部を宇宙で活動できるよう彼らもまた自らの「体」である権能を各宇宙紀に捧げることによって人間段階の水準を高めてきた。
それはカタツムリの殻とナメクジの関係に例えることができた。
一見するとカタツムリと殻はヤドカリのように別々だと思われがちだが、カタツムリの生命活動に必要な臓器や循環と成長に必要な素養等はすべて殻の中に詰まっていて、その殻は実はナメクジの部分から分泌して創造された宇宙に必要な必須要素として自らの外部に形成された被造物であるのだという。
この関係が中級ヒエラルキーの神霊による宇宙的な活動と地球という地上での活動とに結び付けられるのである。
地球で暮らす人間及び生態系が殻だとしたら、太陽系宇宙の惑星的な秩序がカタツムリのナメクジなのである。
地上と宇宙は一見すると天と地でかけ離れているようではあるが、実際は宇宙的秩序が規則正しく太陽系を回している関係があって、人間(自我)及び動物、植物、鉱物の地上的な存在はそれぞれの権能に応じた役割を果たしながら地球という宇宙の創造に霊的な関与を果たしていることとなっている。
第二ヒエラルキーの神霊は宇宙というナメクジとして地球及び他の天体存在と殻的に結びついている、という意味だ。
一方で、第一ヒエラルキーの高次元の神霊は神霊位階4位以下とは別の関係で宇宙に関わっている。
彼らは同じカタツムリでも自らの権能を宇宙とした創造物を殻として切り離してなお自らとすることができる。
これは単純に彼らがその宇宙にいなくても、彼らの権能がその宇宙に勝手に作用し続けることを意味し、第2ヒエラルキーがナメクジとして殻を自らの生命を外化したものとして宇宙に留まるのとは違い、彼らは自らの権能を殻に込めて捧げたものを完全に独立させたものとして宇宙と関わることのできるレベルの完成された創造主の階層に存在している神々だった。
しかし、彼らは熟慮・判断・考慮という行動原理を持たない。
なぜなら、彼らは宇宙の創造主であって、あらゆる宇宙における最も高次な階層から働きかける神霊であることに変わりはないが、彼ら自身も含めた宇宙創造に関わる神霊である神的存在の根源の叡智を司る神とはまた階層を隔てた別次元の神を彼らも見上げているからだった。
そんな第一ヒエラルキーの階層に生きる彼らの役割はその根源存在のロゴスに従うこと。
根源叡智が企画した目的と理念の最高の形をロゴスとして受け取ることができるのは彼ら第一ヒエラルキーだけである。
神聖に最も近い位階に君臨している高次元存在である第一ヒエラルキーたちが神のロゴスを代弁する。
神的理念、目的を受け取ることでそれを「愛」の精神として語り伝える。
その宇宙への「愛」を叡智によって理解し、宇宙的計画にする「調和」の精神として語り伝える。
そして、その「愛」と「調和」が浸透したロゴスの計画を存在として実行する「意志」の精神を宇宙として捧げた存在が神聖位階第三位の意志の神霊トローネなのだった。
よって、第一ヒエラルキーに属しているトローネの「体」とは彼自身の意志そのものではない。
その「意志」が新たな「愛」と「調和」のロゴスを携えて宇宙へと捧げられたものが「熱」として外化したもの。
「熱」とは意志の神霊トローネのロゴスによって切り離された殻だということである。
土星紀の宇宙とは意志の神霊であるトローネの意志そのものが「熱」として顕れた宇宙にして、彼はもうすでに「熱」である意志を残したままにその宇宙にはおらず、ただ「熱」という殻だけをのこしたその供儀が新しい宇宙への意志となって捧げられて生まれたのが土星軌道を規模とした膨大な「熱」宇宙なのである。
その熱に”存在を反射させていた”のが土星紀で人間段階を経験していたのが後に人格の神霊となるアルカイだった。
熱だけの宇宙で熱を存在として「自分」とできる。
その「自分」を存在の原基として人間段階を経験していたゆえに、アルカイは「原初の熱」にして根源の霊、またはその熱の内部及び本質として活動する高次の霊的存在たちの権能が働きかけていくことで変換されている宇宙の実質としての「移り行く熱」の動きに”時間”という概念をも反射させる。
そのことから土星紀に由来するアルカイの権能には時間に関わる二つ名も持ち合わせていた。
その時間とは人格的な差異を熱の中に感じ取っていたことで生じるようになった人間的な時間だった。
熱しか存在しない土星紀にはその熱の内部に根源のロゴスに紐づいた無数の神霊たちの権能が生きていた。
その中で最も顕著だったのが熱存在そのものが、まだ広がっていない状態から広がっている状態へと移り変わりながら、最後に”広がった”という前後関係を生じさせた熱宇宙そのものの拡散と拡張の中で巻き起こる意志の指向性がトローネにとっての時間が一つにある。
そして、その熱に人格を反射させていたのが叡智の神霊キュリオテテスだった。
太陽紀に生命の源であるエーテル体を存在させるための供儀を行うキュリオテテスは土星紀にも存在していたが、まだ自らの「体」であるエーテル体を宇宙に流し込むだけの権能を有しておらず、そのための準備を土星紀の熱世界の反射という行為を通じて人間段階を通過しているアルカイに人格という存在が確認できる作用の手助けをしていた。
運動の神霊デュナミスも形態の神霊エクスシアイも同様に土星紀の段階ではまだ、自らの権能を宇宙として供儀する力を有してはいない代わりに、その力に類する作用を土星紀の熱の内部で人間段階を進行させているアルカイの自分を感じる権能である自我の発達のための活動を彼らなりに行っていく。
そのそれぞれの作用がそれぞれの神霊たちの権能である同時に「時間感覚」だった。
土星紀の熱宇宙の中で人間段階をしているアルカイはこの神霊たちの様々な権能による相互作用と絶えずつながり、感じることのできるアストラル体と自我で土星の熱の反射から受け取る作用のことを「人格」として、アルカイはその「人格の拡張と拡散と深化と進化」を”人間的な時間”として土星の熱である神霊たちの意志を認識できるようになる。
その認識が地球紀では熱だけではなく、光や空気、水や色彩に音が多様な物質世界の自然環境の中に凝縮された神霊たちの意志の声として今の私たち個の人格によって自由に解釈されている。
そう自らが愛した自由な解釈をする自我で生命体である物質体に転生させた魂の人格を自らに似せて造り替えている。
その変容を時間としているのが地球の人類であり、その時間的人格の魂を自我を通じていかに愛と自由に基づいて進化させられるかの人間段階の分岐点にいるのが私たちだった。
そして、確認しておかなければばらばいことがある。
それは、熱しか存在しないはずの土星紀に自我とアストラル体をすでに有している人間段階のアルカイという点についてだ。
土星紀の環境がアルカイにアストラル体を与えたわけでは決してない。
土星紀とはあくまで熱のみの世界だった。
ただ、アルカイは土星紀以前の宇宙進化によってすでにアストラル体を獲得しており、土星紀では熱を反映媒体としてそのアストラル体と自我を用いた人間段階の進行過程を経験していた。
アルカイの自我は神霊たちが浸透する「熱」宇宙の中で一人の人格として他の神霊との差異を時間とする。
その人格的な時間過程の中で自我活動をするアルカイとは別の自我を有した存在がいた。
だがしかし、その自我は土星紀の熱に自我を反射できないゆえに宇宙の熱であることでしかできない自我だった。
自我は土星紀の宇宙の外側にいた。
アルカイはその宇宙の外側にいる自我に働きかける。
自我はアルカイと関わる。
熱という透明な煙のような状態存在(形態霊)、熱という境界を持たない遍在の中での変容存在(運動霊)、熱という生命を持たない存在への反射(叡智霊)、そして、その熱の中に新しい宇宙が存在し続けるべく意志を注ぎ込んだ存在たち(第一ヒエラルキー)のすべてもアルカイを通じてその自我が「熱」である宇宙に存在できるよう働きかけるようになる。
土星紀には自我もない、魂もない、生命すらない。
そこには熱だけが漂う存在だけが存在する孤独な宇宙が展開されていた。
ただし、その熱とは「愛と自由の意志」の刻印を施された自我が宿ることのできる器の原初の形態だった。
ソフィ「かつて土星の時代より始まった偉大なるトローネを意志とした宇宙はもはや完結したのだよ、認めよう」
プロソ「次はあなた様であります」
ソフィ「いや、古き神であるトローネの意志の権能を継承するのは我ではない、人間だ」
プロソ「人間に大宇宙紀の顕現させるのにはまだ無理であります。人間の愛と自由の人格を宇宙化するのにはまだ早すぎます」
ソフィ「キミの人格時間の完成と新しい大宇宙の顕現は必ずしも同じである必要はないのだよ」
プロソ「カオスの根源にして結晶である”改善できない月の抹消への意志”はもうすでに変えられません」
ソフィ「お主らの得意のマッチポンプだのぉ」
プロソ「それはあなた様も同じであります」
ソフィ「だから我がそやつらを管理すると言っておる」
プロソ「それではアスラ以上の未知の脅威が次の宇宙に組み込まれるだけではありませんか」
ソフィ「我の意志はすでに進化を完結させておるゆえ、堕天したところである程度の予測と対処は可能なはずなのです。ちと骨は折れるでしょうが…しかし、アスラの自我のカルマを切り離し、”改善できない月”という純化不可能な宇宙まで創り出すその根を明らかにしなければ、次の人間たちの新しい宇宙以降にも同じ垣根を作り続けることとなろう」
プロソ「なぜ叡智の神霊であるあなた様にもアスラ存在の根源に触れることができないのですか?なぜあれほどまでに不可侵性が強い悪神が人間の自我に強く働き続けることができたのか、その見通しに一つの大宇宙紀が必要であるという見積なのですか?」
ソフィ「一つ言えることはアスラが人間の地球的自我である意識魂の対極としてのカルマそのものであるということです」
プロソ「”改善できない月”が彼らの楽園であるとされている所以ですね」
ソフィ「そこで変えることのできない愛と自由の宇宙(改善できない月)を我に任せてもらえるよう、こやつ(メリュクシオン)の眷属たちのエーテル体を通じてモルフィオン(形態の神霊)と交渉したいのだよ、だからキミの【あらゆる人格を守護する永遠の魂】で一時的で良いから我を地球紀のこの時代のこの人間に降ろしてほしいのです」
プロソ「バカなことをおっしゃらないでください!!禁忌中の禁忌ですよ!!私の蓋然体どころか、これまでの人間の宇宙紀全体の顕現が書き換わってしまうじゃないですか!!ダメです!!それだけは絶対にダメです!!」
ソフィ「この人間の因子にはアスラの蓋然体を追うことのできるある権能が備わっているぞ、なぜ使わない?」




