#19 叡智の神霊キュリオテテスのソフィアレス
設計者の行使していた分析は「叡智が多様であるための境界の光」というとある神の権能だった。
どうやら彼はキュリオテテスと呼ばれる高次元の神が持つ権能を駆使して蜂神の行使している心象世界の支配効果に対抗する手段を見つけ出そうとしているようだった。
すでに蜂神の発動している「すべては女王という太陽のために」という力の分析は完了しているものの、その脅威的な効果はみるみると展開されていき、目に映る風景のあらゆるものが蜂の巣の原型である六角形の幾何学霊的因子となっていく進行が始まっていた。
今いる世界のあちこちの存在が六角形の材料へと変えられていき、その世界の生命存在として認識されたものは自動的にその六角形の構築物の素材、あるいはその完成のための労働者、またはエネルギーへと替えられ、巣に必要な養分を運ぶ働き蜂のような姿を変えられていたのが各種の精霊たちだった。
⒈形態精霊のフォルメン:無数の幾何学的形態へ変形し続ける精霊(鉱物、植物、動物、人間の原型)
⒉流動精霊のヴィターレ:巨大な生命循環を一つの生命として成立させる精霊(種の系統や群霊の原型)
⒊霊魂精霊のアニマリス:魂が持つ運動そのものを扱う精霊(あらゆる感情の原型)
⒋虚像精霊のポイエテス:無かったものを存在させる人間創作的意志の精霊(意味のある秩序である創作の原型)
⒌変換精霊のノエティス:自我の方向性を保持する経験を目的に変換する精霊(カルマの原型)
⒍調和精霊コスモテス:宇宙全体の中で何が成されるべきかの因子を調整する精霊(宇宙秩序と因果の原型)
⒎種子精霊スペラーマ:まだ具体的になっていない可能性を扱う精霊(あらゆる原型になり得る種子)
彼ら精霊たちはこの霊的世界の色彩そのものだった。
その色彩はグラデーションとなって霊界の生命として精霊たちが局在化と融合の間を交差させていた。
互いに交じり合いながらも独立した権能を有する精霊たちは複数の宇宙的創造の作用に多様な影響を及ぼしている。
そして、わかりにくいが交じり合っているその領域間には明確な境界が存在している。
そのはっきりとした原色に近い色彩そのものが精霊たちの像であるとしたら、霊界の階層空間の各境界のグラデーションとして最も多様にして美しい色彩の境界域にこそ、あらゆる原型を司る精霊たち種子たる根源の世界があるようだった。
そのように霊界の生態系である彼ら精霊たちはその次元を貫通している色彩を通じてすべての宇宙をネットワークしていた。
その原型の一端の働きとして生命化した色彩はアストラル世界の感情的なサインとして顕現していたのがアストラル体だった。
そして、その感情が濃縮し化石的な作用の末端として硬質化した世界である物質領域にまでその色彩の働きを響かせているのがアストラル世界であり、その上位の巨大な色彩システムの働きの原型的な働きを担っているのが霊界の精霊たちだった。
霊界の生命器官ともいえる彼らによってすべての次元の生命を一元化する秩序がこの領域からは発信されていた。
また彼らはそれぞれの役割に応じた種族の名前に属している個的な存在というわけではない。
彼らはその原型の特質に寄った色彩を「体」としながら互いに相となって影響し合っていた。
たとえば地上から見上げる空には大気が存在する中で雲や熱を元素として漂わせ、その濃度差の反射によって様々な現象を天候としてその姿と色を生命の恩寵として、地上のすべての存在の栄養へと連鎖的に反映されている。
時には太陽と地球という巨大な天体との関係上、昼には青く明るく、夜には黒く真っ暗な空となるし、それらの境界であるトワイライトな夜明けや夕暮れの空をも含めた美しいグラデーションのためのその背後で形態、流動、霊魂の三つの原型を担っている精霊たちが所属している領域によって異なる存在形態と生命体系を取っている現れなのである。
地上の山や都市空間でも同様だ。
山の自然風景と生態系を担っている精霊たちの働きは同じ地続きの人間の都市の中ではその活動の性質を同じくしながら、空とも山とも違った範囲とスケールに管理、調整されたものとして精霊に働きかけている精霊たちが人間の世界に介入することで、文化文明としての新しい物質的な生命の相として存在を変えて現象化しているのも、精霊たちの及んでいる現象の賜物であることが足元に平面的に展開されているアストラル世界の色彩から伝わっていた。
そんな神々より授かり受けている権能の断片から派生している原型たちの色彩空間が今蜂の巣へと姿を変えられようとしていた。
蜂神「ははは、どうだ、堕天使の王さえも恐れ、欲するこの権能で、支配してやるぞ!ソフィアレス!!」
金人「賢明だね、その気になれば天体ごと支配できる力を私にのみ限定することで威力の底上げとそのあまりに支配的すぎる干渉力を即座にコントロールできる機転はさすがだよ、メリュクシオン」
蜂神「空間そのものの蓋然性を覆すのには骨が折れるからな、だがたとえ神格蓋然性のひと柱であるお前であったとしてもだ、ソフィアレスという一人の存在の境界を溶かして、オレの針で貫くことくらいはそう難しくはない!」
金人「なるほど、支配する指向性だけではなく、支配条件をも削ぎ落してきたか、やるな!ここまで動けなくなるとは…」
蜂神「完全な眷属化が不可能なことは端からわかっている、だから全開の”すべては女王という太陽のために”をフェイクに、その動きそのものを機能させない為の針の毒を空間に付与することでお前限定にすでに一刺し決めていた、ということだ」
金人「これが有名な”太陽への奉針”か」
蜂神「そういうことだ、そして本命はもちろんこっちだぞ、覚悟はできたか?」
蜂の神メリュクシオンの持つ惑星級の支配権能を一本の針に凝縮した槍のような一振りが顕現する。
蜂神「くらいな、こいつが階層領域をも穿つ神の眷属のいかずちだ、女王の審判!!」
金人「凄いな、だがしかし、この支配の指向性そのものがキミの絶対的権能の威力にして唯一の欠点なのだよ」
蜂神「おい、避けろ!バカ!!」
金人「必要ない」
そうして容赦なく光の筋が金人ソフィアレスを貫いた瞬間にそのとてつもなく威力の槍は霧散したのだった。
蜂神「なん、だと?」
金人「完全に動けなくしておいて”避けろ”はひどくないか?」
蜂神「いや、あれは何とかしろの意味で言った”避けろ”だから」
金人「あれ、まともに喰らってたら私はどうなってたのかな」
蜂神「オレの女王の審判は対象を消滅させる威力というより”二度目は助からない”的な必中必死の効果条件のある必殺の毒でもあるから死んでたんじゃないか?」
金人「したらキミの針には神殺しの可能性を秘めているということになりますね、ヤバいですね」
蜂神「それも条件次第だがな、今回は空間のあちこちに許可というかGOサインが出てて、あれだけ世界の蓋然性に抵触してたにも拘らず何のリスクもなくノータイムで打てたのはそういうことなんだよな」
金人「そういうことなんです」
設計者ソフィアレスが発動していた「叡智が多様であるための境界の光」はそもそもこの世界の空間を設定している力そのものだった。
【叡智が多様であるための境界の光】
効果:叡智によって存在しているエネルギーの個別化及び分解することでの調和を設定=心象範囲の分析にかかった生命と意志を通わせ、それぞれが持つ固有の境界の光を調整し、分解と融合の作用の蓋然性を制御できる
※調和=異なる可能性が互いを消去することなく共存できる秩序という蓋然性(原理、原則、法則)
攻撃:調和の精霊コスモテスを原型召喚し、空間の生命エネルギーを自在に調整できる境界の光での結界作用
範囲:心象の及ぶ範囲全域(数mから霊的階層レベル)
継続時間:永続(霊的世界に属する階層領域において絶えず調整)
本質:異なるものが異なるまま一つの存在を宇宙として形成できる生命の意志(個別的生命)
▶分析によって境界を把握した生命・意志・エネルギーを個別化する支配によって一元化を解体する
設計者ソフィアレスが有する神格キュリオテテスは神聖位階第四位の超高次元存在だった。
キュリオテテスは叡智の神霊とも呼ばれていることから霊界の叡智を発信している創造主としての神々のひと柱として君臨し、その存在を霊界の太陽として叡智を原型とした秩序の調和そのものの蓋然性が彼の「体」だった。
霊界の太陽といっても彼がまるで太陽ように眩しすぎる存在として煌々とし続けているわけではない。
宇宙の中心として存在する太陽がすべての可能性を生み出せる叡智の源泉だとしたら、霊界の太陽としてのキュリオテテスという存在は太陽が生み出す可能性が互いに破壊し合うことなく、太陽的な叡智を多様な宇宙として成立させるための原理、原則そのものを宇宙秩序へと翻訳する存在でもあり、”どのように叡智を世界に成立させるのか”を設定する叡智のプログラマーなのである。
つまり、叡智とは知識でも情報でもなく設定。
その設定を霊界の太陽として個体化している存在の「体」がソフィアレスだった。
その「体」は遠くから見ると金色の燃えるようなオーラを纏うダイヤモンドのような輪郭を反射させる人型の形態をしていることからまるで進化を極限まで高めた人間のような感じなのだが、その「体」の詳細を近くで感じてみると無数の光の流れと様々な幾何学が螺旋と網状構造を結束させる生成と消滅を代謝にしているかのような組織を身体としているのが透けて見える。
だから、皮膚もなければ筋肉も骨もない。
だからこそ、その「体」には内と外という境界のようなものが人間のそれとは異なる特殊な関係を周囲の空間と結ぶことで、彼の身体は彼が秩序付けている霊的世界と連続している関係をもって、あらゆる存在の生命力と生命霊といった霊的生命の内容と設定を成立させること可能にする「体」のことを「叡智の蓋然体」としていた。
確かに俯瞰で見ると「叡智の蓋然体」としてのソフィアレスは人間のような形態をしている。
その個体そのものも太陽系という宇宙体系を通じた人間段階に進化を促す一つの器官に過ぎない。
虹色の瞳があり、白い靄のような手があり、平面宇宙とつながる青い神経が伝っているような足からの情報を知覚している心臓やその知覚を絶えず生命エネルギーへと循環させている肺や血液が光となって、金色の髪と全身のオーラがその放出までを「叡智の蓋然体」の輪郭としたその身体内部で”生きているものが存在可能になる構造”のための幾何学を人間の宇宙の未来として蓄えていた。
未来といっても設計者ソフィアレスにとっての未来ではない。
悠久の宇宙の次元をいくつも通過してきた神格であるキュリオテテスにとっての未来はまだ到達していない時間ではなく、無数の可能性が現在の中に重なっている状態だった。
だからキュリオテテスにとっての未来とは”現在から先にある空白”ではない。
彼らにとっての世界感覚は予め決まったものが、現在の人間の宇宙を軸に発生している可能性の構造が重複し、”まだ決まっていないものへと絶えず変容”を始めた宇宙構造の変化にあった。
その可能性の変遷を感じることこそが彼ら叡智霊たちにとっての未来だった。
そんな未知なる変容を身体内部で構築させることで宇宙の現実へと沈殿していく運動現象が神聖位階第四階層での時間なのである。
だからキュリオテテスには「未来予知」がない
彼らは未来を知っているのではないのだ。
あくまで現在の人間段階存在にとっての未来がどのように成立し得るのかを知っている。
少なくとも地球紀の人間段階を通過した宇宙の先で到達するであろう人間の究極の進化形態のその詳細の未来はすでに知っているが、そこに辿り着くために繰り返される「自由意志」を有した人間段階を起点とした「愛」によって創造されるであろう無数の宇宙の重複した世界観を時間的感覚にした自らの未来のことを彼はまだ見ることができないでいる。
彼が見ているのは未来そのものではなく未来の生成条件である叡智の変容と調和の変遷だった。
そんな崇高にして途方もない宇宙の根源を担う神格たちの織りなす未来に関与している叡智の一端が地球紀の人間存在なのである。




