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天使の声が聴こえてくる ~魂を覗いてみたらあるはずのものがない世界が見えました~  作者: ばんだな
天使の声が聴こえてくる

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#15 マトリョーシカ人形と中心が遍在する宇宙と人間の暮らし

いや、見切れているのではない、金色の若者はすぐ隣にいたのだ。


金色の若者はとても近くにいるのに、そのあまりの儚さから存在感に圧迫的な要素が一切なく、透けるような…でもダイヤモンドのような硬質な感じにもとれるファセット的な反射が金色の肌質にはあったことから確かな存在をその輪郭から覗うことができた。

有色人種の基準で言うなれば金人とでも呼ばれるのではないだろうか。

金人のフェイスラインはシュっと締まり、その七色の宝石のような瞳は野生動物に似た純粋な潤いを蓄え、その頭髪には金色の炎が盛っていて、いかにも神懸かった風貌であると勝手に感じていたその姿の全体構造は人間を思わせながらも人間ではない何かであることは一目瞭然だった。


少なくとも祖父は見たことも聞いたこともない超越的な存在であることに疑いはなかった。


でも、直感的に彼が人間の類であることは確信に近い感じで何となく察していた。

少なくとも頭部の顔が人間の若者を思わせているのだ。

ただ、その頭部を支えている骨格が明らかに骨ではなく、今いるススキを思わせる金色の流れのようなものが彼の中心を貫いていて、この世界の空の白が彼の手足となっているかの如く金色の糸を循環させて、古代のギリシャ人が身に着けてそうな布のような白い雲のような半透明なものを巻き付けていたことから、その様相はまるで若い仙人としても差し支えない雰囲気を彼は醸し出していた。

また、仙人だとしたら裸足なのかなと思って彼の足元に目を向けると、彼の足は半透明な青白い川というか根というか神経を思わせる何かが青の明滅を伴わせながら行き来していて、その流れがまるで地脈のようにはるか遠くにまで広く張り巡らされいているであろうネットワークであることが何故か明け透けにわかるのだった。


つまり、一目で金人の若者はこの世界と密接につながっているのが理解できた。


そして、その理解は金色の彼と目が合うことで新たなフェーズへと向かった。

まるでこちらに向きなおすような仕草でじっと祖父の方を見つめてくるものだから、祖父の方から「あなたは誰で、ここはどこなのですか?」的な声を出そうとしても出せないことに気がついて???となり、とても窮屈で歯がゆい感情にもがいていると金色の彼の方から指のような白いオーラを祖父の方に向けてきて、まるで祖父の顔に文字でも綴るように触れてきたときに何かの知識と記憶のようなものが一気に流れ込んできた。


その間、呆然とする暇もないくらいに一瞬だった。


瞬く間に流れ込んできた情報の断片の中には全体が含まれていて、その全体もまた一つの断片であるといった最小の中に最大が存在していると言った矛盾した一つの中に整然とした全体があるみたいな、マトリョーシカ人形のような入れ食い形式が宇宙のあらゆる組織構造に反映されている概念と理由を説明する必要もないレベルの叡智のインデックスとでも呼ぶべき思考体系そのものがまるで歩くという動作をするが如く自然に入ってきたのだという。

その間の祖父はその情報元である金人の若者とほぼ同期、同一、合一していたのだと語っている。


そのことで祖父ははっきりと自分がタペストリーなのだと自覚できたらしい。


祖父は祖父であって祖父ではないタペストリーとしてその世界に存在していたのだという。

その認識は目の前の金人によるものであると同時にその周囲の環境全体を把握した上で、自分の意識のありかが”ここだ”という自ら直立して地面に立っているなんとなく当たり前にできている感じを通じて、膨大な情報展開が提供されている最中でも自分を見失うことなく祖父は祖父でいられていた。

事後の考察が正確かどうかはさておき、この仙人のような若者とつながることで祖父は精神の鏡とも言うべき宇宙の生命を営んでいると思われる究極の真理の一部となって、その全貌をまるで共有しているかのような全能感の中で自分がタペストリーという一つの道具として存在している自覚のもとなお、祖父はこの世界を満たしているであろう力の断片として自らのこととその力の詳細についての考察の成果を祖父はふんだんに持ち帰ることができたのだった。

その考察の糸はこの金人の脊髄を貫くように注がれている金糸は若者の体を構築しているだけではなく、その足元を介してなのか、全ての金色の色彩を垂れ流しているススキのような植物のそれと同じ性質のものであることをタペストリー化している祖父にも辿ることができていた。

そのことを指して祖父はあらゆる生命とつながっている全能感として語ってくれている。


早い話が彼を貫く金の糸は全世界の生命状態を把握するのに適したネットワークだった。


この世界の空気のように漂い、川のように流れ、根のように張っている金白色の糸はあらゆる現象にリンクしている。

その糸が何らかの存在を触媒としたときにその波長が変化し、枝分かれし、時には再統合的に収束したりすることで幹の素材を変えたかのような別の構造を持った何かへと生成されていくことで、この世界の多様な植生と思われるデザインと風景を完成させていた。

もちろんその風景の空もまた金糸と同質の作用で色彩を白から桃、桃から橙、橙から黄色へと滲ませていた。

その色彩の概念を変性させる力の作用が絶えず空気のような触媒を通じて繰り返されることで、ネットワークの共有を失うことなく天と地を隔てながらにして在るようで無い明確な境界を形成することができている。


その境界を観測し、ルールに準拠し、概念の是非に関与している存在及び触媒がこの金色の若者だった。


まるで神のごとく所業と同期していることに興奮を隠せない情緒の中の冷静な思考の糸の先には、毅然と歴然と自然に別の概念を担う触媒的な存在がこの世界の遥か空の向こうとこの世界の遥か地下の彼方に存在していて、この若者はその中間的な領域を彼らとのネットワークを交わしながらあらゆるデザインに携わる業務をまるで仙人が如くストレスなく息を吸うように悠々とこなしていた。

その呼吸のリズムの一環に祖父の宿るタペストリーへの関与があった。

このタペストリーもまた美しい金糸によって緻密に丁寧に隙間なく編み込まれていた。

編み込んでいるのは若者で、彼の纏う羽衣のような衣服から伸びている雲のような腕と白く神秘的な輝きを発する手によって糸は紡がれ、縦糸が天地の意思だとしたら、横糸こそが天地の境界を秩序する彼の真骨頂である宇宙のデザイナーたる形成の意思が込められたその縦横の結び目に人間の意志はあった。

祖父はその最小の所在の一人で在りながら最大だと信じていた宇宙の外にいる仙人のような金人がその宇宙をタペストリーに創造しているのを観測し、さらには宇宙のタペストリーを編む彼の佇む金色の田園風景があって、その遥か彼方には金色の若者とはまた別のスケールの誰かがそれぞれの階層領域の調和に関与しながら同期しているという生命的ネットワークの事実が祖父の語るマトリョーシカ人形だった。


つまり、祖父が何を見たのかというと世界はスケール、サイズ、詳細は変わっても同じ人形だということだ。


そのことを祖父は最も大きな部類の人形である生命の世界から最も小さな人形の一つである人間にまで下りていくことで、その人間の中にもまた最も大きな世界構造が人体の内部に反映されていることの意味を照らし合わせた時、人間も宇宙もその外もあらゆる存在が次元を違えながらも一本の糸でつながっている一つの生命であることの究極にしてシンプルな解へと導かれる。

脳のシナプスと網目の宇宙、それに都市構造やクモや蜂の巣に生物の細胞構造、それに血管と河川と樹木の枝や根の分岐あるいは成長の仕方は稲妻にも及び、離れてみる海岸線や山脈にモクモクと空に浮かぶ入道雲の境界線は一周回って人間の脳のしわとそっくりなのは同じ人形からのネットワークが生命の意志として全宇宙的に投影されているからだ。


そして、それらの構造の中心には必ず渦があるのだ。


人間ならつむじ、宇宙なら銀河、太陽系なら太陽、地面には地核、樹木は種子からの幹、山なら火口とあらゆる造形物は同じように見えて、少しだけ違う中心に似た層の相似構造を繰り返してきた時間経過の差異である熱状態を移り行くことで回転という現象を秩序とした渦を生命の揺り籠の根幹構造として循環させている。

その中で山脈や川や稲妻には一見すると循環どころか渦や中心も見出すのは困難かもしれないが、熱や大気及び海や大地の地中をも含んだあらゆるものの循環から派生したものであると考えることができれば、地球の重力や電磁波の天から地、極から極への同心円的な渦の影響下から無縁ではないことが理解可能なはずである。


ただ、都市構造や銀河が至る所に存在する宇宙空間もどこが中心なのかという疑問と課題がある。


無限に広がり続ける宇宙には限界が無いとされているその根源とも言える中心は在るのか無いのか…

都市にも県庁等の象徴は存在するもその連なりの先にはまた別の県庁および首都と呼ばれる国家的な中枢が各国にあり、では「地球の中心都市はどこなんだ」という議題を人類同士で話し合いでもしたらどうなるかは火を見なければならない事態の収拾は免れないだろう。

どの国のどんな一人の人間も自分が中心と信じて疑わないことからその中心を全身全霊を掛けて誇ろうとする。

たとえどんなに悲惨な目に遭おうとも自尊心ほど尊いものが無いという物語が人間には大切なのだという感情が今はどこか遠いかなたの思い出のように俯瞰しながら、愚かにも愛さずにはいられないという愛さざるを得ないみたいな神々の慮りみたいな思考に寄りながら得た解は、都市構造である人間のコミュニティには中心があるようで無い、だった。

人間の一人ひとりに自我が存在して、特定の誰かだけが人類の中心であるという存在がいないように、都市もまたその絶対的と言えるような中心構造を持っていないのである。

それは宇宙構造も同じである。

地球から見た太陽は太陽系における中心ではあるが、地球にとっての中心は紛れもなくその座標を獲得している個としての惑星という観測点であり、宇宙にはその観測点を担う天体の数だけ中心が遍在することによって「中心が存在しない」という空間として設計されている。


その設計者の叡智の階層とスケールの性質が反映されているのが天体と人間という人形なのである。

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