第十八話 それぞれの想い
数日後…村では、氷雨霧丸が死に、野橋雪ノ丈と夏絵が姿を消した。
雪ノ丈の親友、高早弘志は消えた雪ノ丈と夏目の事を想っていた。
「…雪ノ丈…夏絵さん…行ってしまったか…」
弘志は、野橋の家を見ながら、そう呟いていた。
「…少し、寂しくなるな…」
弘志は、自分の家へ帰ろうとしていた。
「…二人が幸せなら、それでいいか…」
弘志は、野橋の家をあとにしようとしていた。
「…雪ノ丈…夏絵さん…達者でな…」
そして、弘志は家に帰って行った…二度と会うことはないと、分かっていたのだから…
――氷雨霧丸が死んだ。
その報せは、数日後に江戸へ届いた。
文を受け取った切原善蔵は、黙って目を閉じた。
彼には、氷雨が誰と戦ったのか、わかっていた。
村を離れた野橋雪ノ丈。
そして、氷雨が生涯をかけて求めた“強者”。
答えは一つしかない。
だが、切原は誰にも言わなかった。
氷雨の死は、彼が自ら選び取った道である。
それを他人の口で汚すことは、武士の恥だと感じた。
もし後悔があるとすれば――
野橋雪ノ丈と手合わせできなかったこと。
ただ、それだけである。
切原は、静かに文を焼いた。
灰が風に舞い、障子の隙間から夜空へと消えていく。
彼は遠い空を見上げ、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「……もう…会うこともないのか…」
その声は、滝の音とともに遠くへと溶けていった。
「…達者でな…」
そう呟くので、精一杯だった。




