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最終話 滝の音、遠く

 数日後。


 二人は街道沿いの小さな茶屋で休んでいた。


 湯気の立つ茶を飲みながら、外のざわめきを聞く。


 数人の浪士が、世間話をしていた。


「なあ、聞いたか? あの氷雨霧丸が死んだらしい」


「へえ……下手人は?」


「いや、分かってねえそうだ」


「分かってないのか」


「だがよ、氷雨霧丸を斬った奴……俺は会ってみたいもんだ」


「俺はごめんだね。そんな奴、きっと化け物じみている」


「確かに……そうかもな」


 浪士たちは笑いながら茶をすすり、去っていった。


 雪ノ丈は静かに息を吐いた。


「化け物、か……酷いこと言ってたな」


 夏絵は微笑み、そっと雪ノ丈の袖を握った。


「気にしないで、兄さま。兄さまの良さは、私が知ってるもの」


 雪ノ丈は少し笑い、肩の力を抜いた。


「……まあ、それだけでいいか」


 外は夕暮れ。


 西の空に陽が沈み、遠くの山が赤く染まっている。


 雪ノ丈は立ち上がり、夏絵の手を取った。


「さて……お嬢さん。次はどこに行きましょうか」


 夏絵は少し恥ずかしそうに笑った。


「あなたとなら……どこまでも」


 風が二人の髪を揺らし、


 茶屋の暖簾が静かに揺れた。


 彼らの影は、ゆっくりと夕陽の中へと伸びていく。


 氷雨霧丸の死を知る者は、もうこの国にほとんどいない。


 だが、彼の願い――“強者との真剣勝負”――は、確かに果たされた。


 そして、残された者たちは、滅びゆく時代の中で、確かに生きようとしていた。


 雪ノ丈と夏絵は、真実の愛を見つけた。

 これから先、何があろうとも、二人なら乗り越えられると信じて。


 滝の音が遠くで響く。


 それは、終わりではなく――新しい旅路の始まりを告げていた。

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