第十一話 再会 ― 氷雨霧丸 ―
丘の上の墓地からの帰り道。
木立の間を抜ける風が、夏の名残をわずかに運んでいた。
野橋雪ノ丈は、手に持った線香の香を嗅ぎながら、ゆるやかな坂を下っていた。
ふと、前方に人影があった。
白い着物に浅葱色の羽織。
痩せた肩を少し丸め、手には折れた扇を持っている。
その男は、にこやかに顔を上げた。
「……あれ、雪ノ丈君かい」
雪ノ丈は驚き、思わず足を止めた。
「氷雨さんじゃないですか」
男――氷雨霧丸は、柔らかく笑った。
昔から変わらぬ穏やかな笑み。
だが、その眼差しの奥には、何か深いものが沈んでいた。
「ここにいるということは……草太郎君の墓参りかい?」
「ええ、さっき行った帰りです」
氷雨は小さく頷いた。
「そうですか。それは草太郎君も喜んでいるでしょう」
風が吹き、二人の間に落ち葉が舞った。
雪ノ丈は微笑を返そうとしたが、どこか胸の奥に重たいものを感じていた。
氷雨の声は、穏やかでありながら、不思議な冷たさを帯びている。
長い旅と戦いの中で鍛えた雪ノ丈の勘が、わずかに警鐘を鳴らしていた。
だが、言葉は飲み込んだ。
氷雨はただ、昔の知人のように話しかけてくるだけだった。
「君もずいぶん立派になったね。……まるで、君のお父上を見ているようだ」
雪ノ丈は小さく目を伏せた。
父の話をされるのは、久しぶりだった。
だが、その言葉が、なぜか胸に刺さるように響いた。
氷雨は空を見上げ、陽光に目を細めた。
「時の流れは早いですね。……あの頃の私たちは、まだ何かを守れると思っていた」
「……あの頃、ですか?」
氷雨は微笑んだまま、雪ノ丈の方を見た。
「いや、少し昔話を思い出しただけです」
そう言って、軽く扇を閉じた。
「また、どこかで会いましょう。君には、まだ聞かせたい話がある」
その言葉を残し、氷雨は道を下りていった。
その背中を、雪ノ丈はしばらく黙って見送っていた。
木々の間にその姿が消えたとき、風が一陣吹いた。
どこからか、冷たい霧の匂いが漂ってきた。
雪ノ丈は無意識に空を見上げた。
雲の切れ間から差す光が、一瞬だけ白く、眩しかった。




