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第6話 隣に立っていたい

 気づけば、千聖は校舎の中庭に立っていた。

 放課後の風が、スカートの裾を揺らす。フェンス越しに見える空は、どこまでも高く、静かだった。


(……ここ)

 圭と初めて、まともに能力の話をした場所。時間が止まり、千聖と彼だけが動いていた、あの日。

 千聖は、フェンスに手を置き、目を閉じる。


(もう、戻れない)

 用意された二択を拒否した時点で、千聖は「正解」から外れた。

 未来視を使えば、きっと、破滅の兆しがいくつも見えるだろう。


 でも。


(それでも……)


 コツ、と硬質な音が聞こえた。


「……やっぱり、ここにいた」


 ぱっと振り返ると、圭が立っていた。

 肩が上下している。きっと、千聖を探して校舎を回ったのだろう。


「どうして……」

「なんとなく」


 圭は、そう言って笑った。


「千聖が、こういう時に来そうな場所」

 胸が、きゅっと縮む。

(鋭い)


「……用がないなら、戻って」

 冷たく言ったつもりだった。


 でも。


「無理」


 即答だった。


「話さないと、いけない気がする」

「...いや、話さなきゃいけない」


 圭は、千聖の隣まで歩いてきて、フェンスにもたれた。

 しばらく、二人とも黙ったまま、空を見上げる。


「……なあ」

 先に口を開いたのは、圭だった。


「俺、最近分かったことがある」

「何?」

「千聖、俺を守ろうとしてるだろ」


 言葉に、詰まる。

(……やっぱり)


「それもさ」


 圭は、視線を空に向けたまま続ける。


「”自分を犠牲にしてでも”って顔で」


 胸の奥を、見透かされた気がした。


「違う」

 反射的に否定する。


「そういうことじゃ……」


「いや」


 圭は、千聖の方を向いた。


「そういうことだね」


 真剣な目だった。


「俺には、未来とか見えないし、世界がどうなるかも分からない」


 一拍、間を置く。


「でも、人の顔は見える」


 その言葉が、胸に刺さる。


「千聖」

 圭は、静かに言った。

「最近のお前、消えそうだ」

 千聖は、思わず視線を逸らした。


(……だめだ)


「俺のせいだろ」


「違う!」


 強い声が、思わず出た。


「あなたは、何も悪くない」

「じゃあさ」


 圭は、少し困ったように笑った。


「なんで、俺には何も話さないんだ?」


 答えられなかった。

 言えば、彼を巻き込む。言わなければ、彼を遠ざける。


(……どっちも、嫌)


「……私ね」

 千聖は、ゆっくりと口を開いた。

 思ったことを、ぽつり、ぽつり、と一言ずつ、丁寧につぶやく。


「二つの、未来を、突きつけ、られた」


 圭が、息を呑んだ気がした。


「一つは、私が...死ぬ未来」


 言葉にした瞬間、喉が痛む。声が震える。


「もう一つは、神であることを捨てる未来」


 圭は、何も言わずに聞いていた。


「どちらも……”正解”なんだって」


 風が、強く吹いた。銀の波が、ぶわっと流される。


「でも、私は選ばない」


「どの選択も、”私が私であることを拒否する” 選択だから。」

「選ぶんじゃない。新しい、全てを守る方法を探すの。」


 千聖の声は、もう震えていなかった。むしろ、希望に満ちているようにも見える。

 圭が、千聖の方を見る。


「……全て守る?」

「ええ」


 千聖は、はっきり言った。


「どっちも守るって、決めた」


 一瞬、沈黙。

 やがて、圭が笑った。


「……ほんと、千聖らしい」

「止めないの?」

「止める理由がない」


 即答だった。


「だってさ」

 圭は、フェンスから手を離し、千聖の前に立った。


「それ、俺の知らないところで 俺の人生を決める選択だろ」


 心臓が、大きく跳ねた。


「俺、嫌なんだ」

「……何が」

「守られるだけの存在」


 圭は、拳を握る。


「世界にとって誤差だとか、例外だとか、そういう理由で」

 一歩ずつ、少しずつだが確実に近づいてくる。


「誰かが犠牲になるのも、誰かが勝手に決めるのも」

 圭は、千聖を真っ直ぐに見た。


「全部、嫌だ」


 その目に、恐怖はなかった。

 覚悟だけがあった。


「……圭」

「俺も、選ぶ」


 その言葉は、静かだったが、確かだった。


「千聖が選ばないなら、俺も選ばない」

 胸が、震える。


「あなたは……怖くないの?」

 正直な問いだった。

 圭は、少し考えてから答えた。


「怖い」


 あっさりと。


「めちゃくちゃ怖い」


 それでも、と続ける。

 圭は、笑った。


「千聖一人に、背負わせる方が怖い」


 視界が、にじんだ。


(……ずるい)


「俺は、神でも英雄でもない」

「知ってる」

「俺は千聖の能力は効かないけど、ただの、普通の高校生だ」

「それも、知ってる」


「でも...」


 圭は、千聖の隣に並んだ。


「隣に立つくらいなら、できる」


 その瞬間。

 胸の奥で、何かがほどけた。

 未来視でも、時間操作でも、決して得られなかった感覚。


(……これが)

 圭は続ける。


「なぁ、千聖」

「何」

「お前、欲張りだな」


 千聖は、苦笑した。


「ええ」

常野(ときの)千聖は、傲慢なんだ」


 圭は、肩をすくめた。


「じゃあさ」

「?」

「俺も、傲慢でいい?」


 その言葉に、思わず笑ってしまった。


「……後悔するかもしれないわよ」

「それも含めて、俺の選択だ」


 夕焼けが、空を紅く染める。

 世界は、まだ何も終わっていない。

 未来は、視ない。


 でも。


(もう、一人じゃない)

 神が選ばせようとする未来でも。観測者(クロノス)が固定しようとする世界でも。

 千聖たちは、お互いの隣に立って、選び続ける。

 それが、千聖と圭という、女神と普通の少年が選んだ、たった一つの立ち位置だった。

こんにちは。椎野陽葵です。「未来が視える女神様ですが、正解は選びません」を手に取っていただき、ありがとうございました!

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