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第2話 拒否される神の力

 犬馬場(いぬばば)けいと”友達”となった翌日。

 千聖(ちせ)は、教室で確信していた。


(やっぱり、この人……)


 圭に向かって、ほんのわずかに時間干渉を行う。通常なら、彼は一瞬硬直するはずだった。


「……今、なんかした?」

「何も」


 圭が首をかしげる。

 完全拒否。

 千聖の胸が、ざわめいた。神の力を拒む存在。


 ...彼はいったい、何者なのか。


 そして千聖は、まだ知らない。未来視でも決して見えない、”犬馬場圭”を。

 千聖は、その日一日、ずっと落ち着かなかった。

 授業中、ノートに書く文字は整っている。

 だがその内側では、思考が休みなく回転していた。


(拒否された……完全に)


 今朝、教室で行った極微弱な時間干渉。それは本来、相手に「違和感」すら残さないレベルのものだった。神の一族が子どもの頃に練習で使う程度の、ごく浅い干渉。

 それを圭は、自然に受け流した。

 拒否されたというより、最初から触れられなかった、というのが正しい。が、千聖はそんなこと知らないし、わからない。


(そんな存在……聞いたことがない)


 千聖は、未来視を使うことなく圭の横顔を盗み見た。窓際の席で、シャーペンを回しながら黒板を眺めている。眠そうでもなく、特別集中している様子でもない。

 どこにでもいる、普通の男子高校生。


(なのに……)


常野(ときの)


 不意に名前を呼ばれ、千聖は背筋を正した。


「はい」

「この問題の答えは?」

「⑧の吉野ヶ里遺跡です」


 板書しながらも、彼女の意識は別のところにあった。


(彼の未来……まだ、ちゃんと視ていない)


 ...視るのが、怖かった。

 未来視とは、可能性を視ると同時に、真実を知る行為だ。

 そこに例外が存在するかもしれない。そう思うだけで、胸の奥がざわつく。

 チャイムが鳴り、昼休みになる。


「なあ、女神さ…」


 圭が、珍しく自分から声をかけてきた。

 が、千聖は、にっこりと圧をかける。


「ん?」

「女神さ…」

「なんて?」


 ようやく気がついたようで、圭は渋々口をひらく。


「...千聖」

「何かしら」

「昨日の続き。話せる?」


 一瞬、周囲の視線が集まる。見なくても、クラスメイトたちが目を丸くしているのが分かった。


「女神様を呼び捨てしてる……」

「しかも犬馬場?」


 ひそひそ声が飛び交う。

 ...ちなみにこの時、千聖が圭に呼び捨てで()()()()ことに気づいたのは誰一人としていなかった。


「……屋上で」


 千聖は短く答え、立ち上がった。


 屋上は、昼休みでも人が少ない。扉を閉めると、風の音だけが二人を包んだ。


「それで」


 千聖は圭をまっすぐに見つめる。


「昨日と今日。あなたは、私の能力を感じた?」

「正直言うと……分からん」


 圭は後頭部をかいた。


「なんか一瞬、視界がズレた気がしたけど。貧血なのかなと」


(...やっぱり)


 千聖は、小さく息を吐いた。


「じゃあ……次は、はっきり分かる形で試すわ」

「え、いや、ちょ...」

 圭が言い終わる前に。


 世界が、止まった。

 風が凍り、雲が止まり、校舎の影が固定される。

 視界が、少し色褪せる。千聖は、圭の前に立っていた。


「……」


 圭は、動いていた。

 驚愕の表情で、ゆっくりと周囲を見回している。


「……え、なにこれ」

「時間を止めた」


 千聖は、はっきりと言った。


「本来、神の一族(わたしたち)以外は動けない」

「……じゃあ」


 圭は、自分の手を見つめた。


「俺、なんなんだ?」


 千聖は答えなかった。いや、答えられなかった。代わりに、彼の未来を視ようとする。

 視界が、反転した。

 通常なら、無数の可能性が枝分かれし、最も確率の高い未来が浮かび上がる。

 だが――


(……視えない)


 何も、ない。

 白でも、黒でもない。 未来が存在しないかのような、空白。

 千聖は、思わず一歩下がり、膝を折った。


「……どうした?」


 圭が不安そうに尋ねる。


「あなたの未来が……視えない」

「は?」


「存在しない、みたいに」


 時間停止(ストップ)が解ける。

 風が吹き、雲が流れ、色が戻る。 圭は、しばらく黙っていた。


「……なあ」

「何」

「それ、やばいこと?」


 千聖は、正直に答えた。


「わからない。…でも、少なくとも前例はない」


 圭は、苦笑した。


「そりゃどうも」



 その日の放課後。

 千聖は、決断していた。


(このままでは、いけない)


 神の一族として、ある人物に会いに行く。


 常野 恒一(ときのこういち)


 千聖の祖父。

 常野家の屋敷は、時間結界の中にあった。なんとも厳かな門をくぐると、音が遠のく。


「千聖」


 こちらに背を向けて座敷に座る男は、静かな声で彼女を迎えた。


「珍しいな。自分から来るとは」

「……聞きたいことがあります」

「ほう」


 千聖は、まっすぐに言った。


「神の力を拒否し、未来が視えない人間について」


 室内の空気が、わずかに変わった。


「……誰だ」

「同じ学校の、同級生です」


 沈黙。

 やがて、恒一は深く息を吐いた。


「その話を聞く日が来るとはな」

「……知っているのですか?」

「断片的にな」


 口元にこれでもかと蓄えられた白い髭を触りながら、恒一は障子の向こうを見つめた。


神の一族(わたしたち)の未来視は、確率を読む力だ。だが稀に、確率そのものに干渉する存在が生まれる」

「それが……圭?」

「可能性は高い」

 千聖の胸が、締めつけられる。

「危険、ですか」

「存在自体が、だ」


 恒一は、はっきりと言った。


神の一族(わたしたち)にとって、未来を読むことのできない存在は...脅威だ」

「そして、未来を ”固定しようとする” 存在がいる」

「彼らは、観測者(クロノス)を名乗る。」


 千聖は、拳を握った。


「……それでも」

「分かっている」


 恒一は、優しい目で千聖を見た。


「お前は、あの少年を守りたいのだろう?」


 千聖は、小さくうなずいた。


「私は……彼が、ただの脅威だとは思えません」


 恒一は小さく頷いた後、こう呟いた。


「守れるとは思えないがな」


 と。



 帰り道。

 夕焼けの中、千聖は圭の姿を見つけた。


「……千聖?」

「少し、話せる?」


 二人は並んで歩く。


「私、あなたのことを調べたわ。」

「え、こわ」

「でも、分かったのは……何もない、ということ」

「それ、余計こわいな」


 沈黙が落ちる。

 やがて、千聖は言った。


「あなたは、未来を壊せる」


 圭は足を止めた。


「壊すとか言うなよ」

「でも……それは同時に」


 千聖は、彼を見た。


「未来を、救えるということでもある」


 圭は、しばらく考えてから、照れたように笑った。


「……よく分からんけどさ」

「うん」

「とりあえず、友達なんだろ? 俺たち」


 その言葉に、千聖の胸が、少しだけ温かくなった。

こんにちは。椎野陽葵です。「未来が視える女神様ですが、正解は選びません」を手に取っていただき、ありがとうございました!

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