第14話 海音は千聖に奢りたい
翌朝。
千聖と海音は近くのショッピングセンターに遊びに来ていた。
今日の千聖はくすみピンクのシフォンブラウスに白色のワイドパンツで、THE・清楚といった格好だ。もちろんトレードマークである黒色のチョーカーもつけている。
一方海音は丈の短い紺のサロペットパンツに、白色のTシャツを着ている。髪は高い位置で一つにまとめていて、活動的な印象を受ける。
「今日もおしゃれだね」
「今日はいつもよりちょっと張り切っちゃった」
「なんてったって今日は久しぶりの”デート”だからね!」
「はぁ...」
長年海音と一緒に過ごしてきたが、いまだにテンションが高い海音にはついていけない。
海音が楽しんでくれているのならいいのだが、千聖はどちらかといえばインドア派なので少し疲れてしまう。
とはいえ、海音と一緒にいると、色々な刺激があるので楽しい。
(今日は何を見せてくれるんだろう)
千聖たちは、とりあえず近くにあった書店に足を踏み入れた。
(『転生したら三歳だった件〜二度目の人生、絶対に幼馴染をオトします〜』......?)
店に入って一番最初に目に入ったのは、おすすめコーナーに置いてある店員イチ押しの本の題名だった。まあ、おすすめコーナーに置いてあるのだから店員のおすすめなのはわかりきったことだが。
「千聖ちゃん、それ気になるの?」
「あ、いや、そんなんじゃ」
海音はパシッと本を手に取り裏表紙のあらすじを読み始める。
「ふんふん、なるほどね。うわ、幼馴染ちゃんツンデレタイプじゃん。これ絶対両片思いだよね。続き、気になるなぁ〜...!」
海音はにまーっと千聖の方を見て言う。
「買わないの?」
「え、まぁ」
「そっか〜」
海音はニヤニヤしながら本を二冊、買い物かごに入れる。
「え、ちょ、私買うなんて一言も」
「ん?これは私から千聖ちゃんへのプレゼント」
そう言うと海音はさっとレジに並び、さっと財布を出し、ピッとカードをタッチしてさっと帰ってきた。
「次、どこ行く?」
海音は本を千聖に手渡すと、そう言って笑った。
「えと、お金」
「いいのいいの。お金だけはたくさんあるし、それはプレゼントって言ったでしょ?」
こうなると海音は引かないことを千聖は知っている。そしてお金がたくさんあると言うのも嘘じゃない。他人の懐を探るのも良くないが、一般的なサラリーマンよりも稼いでいるだろう。
「...ありがたく頂戴します」
結局、千聖は本をもらうことに決めた。
次に入ったのは文房具屋。千聖はスマホのメモを見て、買いたいものを入れていく。
「千聖ちゃん」
海音はなにか見つけたようで、くいくいっと手招きをしている。
「ここにシャープペンシルがあります」
「ありますね」
海音が持っていたのは木軸に銀色の金具が美しい、趣のあるシャーペンだった。
「なんとこれ、圭くんのお気に入りなんです!」
どこかのテレビショッピング番組かよ。
海音はニコニコしながらこちらをじーっと見つめる。
「はぁ…買うかって?」
「大正解!」
「買わないよ」
「私が買っ…もごもご」
千聖は咄嗟に海音の口を軽く塞ぐ。
「簡単に買う買う言わない」
「海音は私の財布じゃないんだから」
「えへへ…」
海音は苦笑いして続ける。
「私、久しぶりに千聖ちゃんと遊べて嬉しかったのかも」
「迷惑かけたなら、ごめんね」
海音は少し寂しそうに言う。
そんな海音に千聖は優しく声をかける。
「大丈夫」
「奢りとかはなしだけど、今日はいっぱい楽しもうよ」
「千聖ちゃん…!」
「そうだね!」
今にも大粒の雫が溢れそうだった瞳は、その面影を完全に隠し、光り輝いていた。
その次。千聖達が訪れたのは服屋だった。
海音曰く、新作の千聖に似合いそうな服があるらしい。その服のCMを海音が担当したんだとか。
「あった!これだよ、千聖ちゃん」
そう言って海音が持ってきた服は白色のノースリーブのワンピースだった。胸元の花があしらわれたレース生地や、腰回りのリボンベルトが上品である。裾はフリルがついていて可愛らしい印象もある。
「かわいいでしょ?」
かわいい。確かにかわいいし、自分に似合うとも思う。でも。
......1万2100円。少し値段が張る。しかし、海音に買わせるわけにはいかない。今ここで「お値段が〜」とか言ってしまえば、海音は「私がすすめちゃったから買ってあげるね」なーんて言いかねない。
「...買いで」
こうして千聖はサイズ確認をした後、腕に紙袋をぶら下げることになった。
サイズを見るときに、海音に見せてとお願いされたが、下着の関係で見せられなく、少し残念そうにしていたのは内緒。
「夏になったら一番に海音の前で着てあげるから」
千聖のその一声で、海音の顔はぱぁっと明るくなった。
その後も千聖たちはショッピングセンターで過ごした。
フードコートでご飯を食べたり、ゲームセンターで遊んだり、ナンパされたり(もちろん謹んでお断りした)。カフェに行っておやつタイムをしたり、ナンパ男たちが別の女の子をナンパしていたのに腹が立った海音が笑顔で諭したり、女の子たちに感謝されたり。
至って普通に過ごした。...普通、だっただろうか。しかし海音は、どこか満足げな顔で、満面の笑みを放っていた。
帰り道。
「楽しかったね、千聖ちゃん!」
「そうね」
夕焼けが街を赤く染めていく。
「この時間が、ずっと続けばいいのに」
海音は寂しそうに言った。
「千聖ちゃんなら、止めることはできるけどね」
本当に止めてみようか、と一瞬思った。しかし、海音は「止める」ことを望んでいない。「続いて」欲しいだけ。
そんなことを考えていた、その刹那。ふと、違和感が走る。気分が乗っていた海音が気づかなかったように。時間について考えていた千聖だけが気づいたように。閃光のように一瞬で、少しでも気を抜いていれば見逃してしまいそうな違和感。
時間が、一瞬、ーー止まった。
千聖の気のせいかもしれない。でも確かに止まった気がした。
「今......」
「ん?」
「いや、なんでもない」
観測者は、近い。もう、すぐそこにいることを千聖は肌でひしひしと感じていた。
こんにちは。椎野陽葵です。「未来が視える女神様ですが、正解は選びません」を手に取っていただき、ありがとうございました!




