反魂蝶 2話
蝶は研究室の片隅で虫かごの中に入っていた。
「あの日、よく帰ってこられたわね……」
◇
蝶を捕獲して帰路につく。
「やったわね!あんまり期待してなかったけれど……
キミたちの非存在引き寄せ体質も証明されたわけだけど」
その言葉は重かった。
これからも怪現象と付き合っていかなくてはならないのかと
それぞれ胸中で思っていた。
キキキキ!
「急に止まって……どうしたんですか?」
「ごめんね。なんだか、眠気が……」
「大丈夫ですか!」
「ミコト教授!」
「先生!」
「う、うう……ぐうぅぅぅ……」
◇
「ここは……?」
「ミコトくん!何を寝ぼけているのかな?」
「せ、先生!」
「今日授業で使う資料をまとめておいてくれたかな?」
「はい!ばっちりここにあります!」
「ほうほう。うむ。今日もよくできている。ありがとう」
「はい!いってらっしゃいませ!」
なんだここは……なぜだか懐かしい気分だ。
夢?夢を見ているのか?
そうだ……蝶の鱗粉に触れたのだった。
「今日はキミも教室で授業を受けたまえ」
「先生……!私は……あなたに聞きたいことが!」
「授業中に質問したまえ」
ああ、私は……貴方があんなに簡単に命を落とすなんて思っていなかったんです。
もっとあなたから学びたいことが沢山あったのに。
夢から覚めていく。独特の浮遊感に包まれて行く中でミコトは思った。
もっと話がしたい。と。
しかし、現実はそれを許さなかった。
◇
「先生!先生!!」
「ハッ!はあ……はあ……はあ……大丈夫よ。まだ生きている」
汗をかいた額をぬぐう。
蝶の鱗粉の効果……現実にあったのだ。見たのは夢だったけれど。
「図らずも非存在の効果を実証してしまったわね」
◇
整然と並ぶ資料の山。机の上にはPCと立てに積まれた書籍。
窓辺には虫かごがあった。
この研究室で先生と過ごしていたのは短い日々だったけれど。
かけがえのない思い出だと今は思える。
かたわらでコーヒーを飲みながら思い返している。
夢の中の先生、元気そうだったな。
ふと思い出す。あの夢で授業の資料としてまとめていたのは……
たしか、先生が最後に挑んだ非存在だ。
その名前を……サルの手。どちらかと言えばポピュラーな怪現象だった。
しかし、その実態は……危険極まりない強度の強い非存在もしくはそれを生み出しうる遺物だった。
警告かしら?あまり知りすぎないように、と。
「それにしてもこのコーヒー、少し苦いわね」
自分でいれたコーヒーに文句をつけてた。
「牛乳を買って来るべきかしら?いえ、その前に冷蔵庫を?」
「ほかの研究室で化学の実験に使っている冷蔵庫を借りてもいいかしら?」
ミコトはコーヒー牛乳が好きだった。
ミコトの師匠である前の教授の好物も甘いコーヒーだったな……
そう振り返ってその日は資料を閉じたのであった。




