あつあつチーズたっぷりピザ
翌日、ユウは朝からかまどの前で腕を組んでいた。
「……いけるな」
「くぅん?」
足もとでシロが首を傾げる。
「チーズが手に入ってから、ずっとあれを作りたいと思ってたんだ。ビールがないのが悔しいけど」
「わふ?」
「ピザだよ。ピザ!なんて説明すればいいかな……。こう……薄いパン生地の上にいろいろ乗せて、チーズをたっぷりかけたやつが作れる」
キョトンとしたシロを見て、ユウは自分の言葉が分かるはずもないのに、説明している自分に気づき少し笑う。
マジックバックから小麦、卵、端肉、香草、チーズ、赤い実を取り出した。今の自分の手元には、前よりずっといろんな材料がある。
つまり、料理が作り放題だ。
社畜時代夢に見た生活が今ここに!
「早速、作るか!」
意気込むように袖をまくる。
前世なら珍しくもない料理だが、この世界ではまず見たことがない。平たい生地を焼くこと自体はしてきたが、その上に具をのせてまとめて焼くとなると、話は別だ。
ユウは深皿に粉を入れ、塩をひとつまみ落とした。少しだけ油をたらし、水を加えながらこね始める。
最初はぼそぼそしていた生地が、手の中でだんだんまとまっていく。押して、折って、また押して。表面がつるりとなるまで繰り返す。
「今日は薄めにのばすから、あんまり重くしすぎないほうがいいな」
独り言のように呟くと、木箱の上から小さな影が飛び降りてきた。
「ぴざってなに?」
ミツだ。
まだ眠いのか、目をしょぼしょぼさせ、小さい手でゴシゴシ擦りながらユウを見る。
「そう。チーズがたっっぷりのった濃厚なパン」
「チーズ!」
それだけでミツは納得したらしい。しっぽをぶわっと広げて、こねられている生地を覗き込む。
シロはそんなミツをちらっと見てから、ユウの足にぴたりと寄り添った。いつもの「ユウは僕のもの」という顔である。
「まだ何もできてないからな」
「きゅぅ」
「しってる!」
知っていても待てるかは別問題らしい。
生地を休ませているあいだに、今度は具の準備だ。
まずは赤い実――すっかりトマト扱いになっているそれを細かく刻み、小鍋へ入れる。少し塩を加えて火にかけると、果肉がくずれてじわじわ汁気が出てきた。
「ここにちょっとだけローズマリーを入れて……よし」
木べらで混ぜながら煮詰めていくと、赤い実の甘酸っぱい匂いが立ちのぼる。そこへ角豚の端肉を別のフライパンで焼きつけると、肉の脂の香りが重なって、シロのお腹からきゅうっと音が鳴った。
「わふっ」
「だろ」
待ちきれないとばかりにこちらを見るシロに、思わず笑う。
チーズは薄く切っておく。前にミリーが持ってきたあの保存チーズだ。たくさん入れてくれていたようで、まだ全部使い切ってはいない。包丁で削るたび、乳の濃い香りがふわりと広がった。
「よし。王道でいくか」
ユウは赤い実のソース、角豚、チーズを並べて満足げに頷く。
そこで、ふと別の瓶に目がいった。味噌の実から作っておいた味噌だれだ。
「……待てよ」
「また、へんなかおしてる」
ミツが一歩下がる。
「もう一枚いけるな」
赤い実のソースとは別に、味噌だれを薄く塗って、角豚とチーズをのせる。和風ピザも絶対にうまい。
「二枚焼こう」
「いっぱいたべれる!」
「そうだな」
生地を二つに分けて薄く丸くのばす。指先で外側だけ少し厚みを残し、縁を作る。そこへ一枚目は赤い実のソースを薄く塗り、焼いた角豚の端肉を散らし、チーズをたっぷり。
二枚目には味噌だれを塗る。濃い茶色の上に、角豚、チーズ、香草。こちらは匂いの時点でかなり危険だった。
「うわ、もううまそう」
自分で作っておいてなんだが、かなりいい。
そのとき、森の奥から低い声が転がってきた。
『また何か始めたな』
振り返ると、グラードが木々のあいだから姿を見せていた。白い巨体が朝の光を受けて、静かにこちらへ近づいてくる。
「いいタイミングですね」
『契約のおかげで大体は分かるからな』
「今日はピザです」
『ピザ……?』
グラードが怪訝そうに耳を動かす。
ユウは一枚目の生地を木の板に乗せ、そのままかまどへ差し入れた。中は朝から温めておいたので、熱は十分だ。
しばらくすると、かまどの奥からぱちぱちと小さな音がし始める。生地が焼け、チーズが熱を受け、角豚の脂がじわっとにじむ音だ。
焼けるたびにふわっと匂いが漂う。
まずは焼けた小麦の香ばしさ。次に赤い実の甘酸っぱさ。そこへ肉の匂いとチーズの濃い香りが重なって、一気に森の空気を塗り替えていく。
『……腹の減る匂いだな』
グラードが低く呟く。
シロはもう落ち着きなくうろうろしているし、ミツは木箱の上でぴょんぴょん跳ねていた。
「まだです、まだ」
ユウはそう言いながらも、自分でも待ちきれない。かまどから板ごと引き出すと、そこにはこんがり焼けた一枚があった。
縁はふっくらと焼き色がつき、中央のチーズはとろけている。赤い実のソースは少し煮詰まって艶を増し、角豚の端肉はところどころにこんがりした焼き目がついていた。
「よし……!」
ユウは包丁で切り分ける。
さく、ではなく、ざくっという軽い音。持ち上げると、とろけたチーズが細く伸びた。
「うわぁ!」
ミツが目を丸くする。
「のびた!」
「のびたな」
ユウは笑いながら、一切れをシロ用に小さく分け、もう一切れをグラードの皿に乗せた。
「まずはこっち。赤い実とチーズのやつです」
グラードは皿の上のそれをしばらく見つめ、それから静かに口をつけた。
噛んだ瞬間、わずかに目が細くなる。
『……なるほど』
「どうです?」
『生地が香ばしい。その上で、肉とチーズが重いかと思えば、赤い実がさっぱりとして、妙に後を引かせるな』
「成功ですね」
ユウも待ちきれず、自分の分をかじる。
まず生地の香ばしさが来て、そのあとにトマトの酸味、チーズのこく、角豚の旨味が一気に広がる。
「……うまい」
「わふっ、わふっ!」
「お前もそう思うか」
シロはもう返事どころではなく、夢中で小さな一切れを食べていた。ミツも熱い熱いと騒ぎながら、ちびちび齧っている。
「これトマトたくさん!ずるい!」
「ずるいってなんだよ」
「いっぱいのってる!」
たしかに、これ一つでトマトをたくさん使ったことを思えばずるい?……いやずるいのか?
考えるのをやめて、ユウはかまどの方へ歩くと、木の上に見慣れた影を見つけた。




