休息
「……きろ……竜樹。……起きろ、竜樹」
ひんやりとした硬いものが体に触れる。目を開けるとボルテックスが起こしてくれていた。
「お、起きたか」
「おはよう」
俺は眠い目をこすりながらそう言った。
「おはよう? なんて意味だ?」
ボルテックスに聞かれた。本当に何で地名を知っていたんだろう。
「朝の挨拶だよ。起きた時とかに使う挨拶」
「ふ~ん」
俺は説明し、そのあと聞いてみた。
「どんぐらい寝てた?」
「大体三時間くらいだな。オレも竜樹が起きる少し前に起きた」
「あと四時間くらいあるな……」
「どうするボルテックス?」
「ボルク」
「?」
「ボルクって呼んでくれ。オレ達の信頼の証ってことで」
……意外だ。ボルテックスがそんな申し出をしてくるなんて。でも悪い気はしなかった。
「あぁ。よろしく頼む、ボルク」
俺は握手を求めるように手を出した。
「よろしくな、タツ」
そう言ってボルクはその硬くて大きな手を出した。
―――タツか。悪くないな。
俺はその手を握った、手というよりはその指を握る感じになってしまったが。気分は良かった。
そのあとは俺達は他愛ない話をした。そして時間になったのでボルクの背中に乗り集合場所に戻った。そこには既に蒼井さんとリフ、ソラスが居た。
俺がボルクの背中から降りたところで蒼井さんが話しかけてきた。
「久しぶりって程でもないか、竜樹君」
蒼井さんに声をかけられた。
「でも久しぶりって感じだな。そういえば姉ちゃんたちは?」
「まだ来てないよ」
それに続くようにソラスが言った。
「姉さまは次の特訓の準備中、海香は食べ物をとりに行った。感謝しとけ」
幼女は何故か胸を張って誇らしげにしている。自分は何もしてないのに。
「じゃあソラスは何してるの?」
聞こうと思ったら先に蒼井さんが聞いた。同じことを思ったらしい。
「姉さまからみんなが集まったらさっき言った事を説明しといてっていわれている」
………つまり何もすることがなかったというわけだな、って思ったけど言わずにおいた。
「つまり何もすることがなかったんだね」
言った。この若手社長さん言ったぞ。俺が折角黙ってたのに。
「な……そ……そんな事ないぞ!! 説明するように言われたんだぞ! 勘違いしてるんじゃないぞ! この……め……めがねが!」
……してないし。
「してないぞ」
蒼井さんがからかうように言った。
「むぅ………」
なんか歳の離れた兄妹みたいだ。
少しほほえましかったけど話しを変えてあげた。
「そういえば蒼井さん、今って会社どうしてるの? 社長なのにほったらかしにしちゃっていいの」
「会社? 今は専務にほとんど任せてあるよ。たまに電話とかメールで指示出してるけどね。社員たちには世界を回る海外視察だって言ってある。専務だけは事情は知ってるけど」
「それで社長って務まるの……?」
「普通は難しいかもね、でもうちの社員達は優秀だから。たまに店とかに顔だすけどね」
そんなもんなのか。ソラスはまだ少しむすっとしている。
すると姉ちゃんとカイエが戻ってきた。
「お~~い。遅くなってごめ~ん」
姉ちゃんはカイエンの上に乗っていた。
「よいしょ、ごめんごめん。寝すぎちゃった」
そう言って姉ちゃんはカイエンの背中から降りてきた。するとタイミングよくフラスと海香が戻ってきて、フラスが話し始める。
「よしよし。みんな集まってるね。じゃあ次の特訓を—――」
「の前にご飯にしようか」
海香がフラスの言葉を遮るようにそう言ってご飯の入ったお茶碗ととても大きな皿をもってきた。皿の上には大量のゴーヤチャンプルーが入っていた。
「「「「いただきます」」」」
やっぱりうまかった。ボルクはゴーヤを食べて顔をゆがめている。どうやら口にあわなかったようだ。フラスとソラス以外の幻獣達も同じ反応をしている。三十分くらいしてみんな食べ終わったけどボルクたちはまだぶつぶつと文句を言っている。
「……お前、よくあんなもの食えるな……」
ボルクが顔をゆがめながら言った。
「うまいじゃん」
「オレはもうあれは食わん。ツチノコの刺身より不味かったぞ……」
なんだツチノコの刺身って……想像できない……
「はいはーい。デザートに杏仁豆腐持ってきたよー」
海香がそう言ってお盆に人間達用の小さなお皿をのっけて持ってきた後に、幻獣達用の大きなお皿を引きずってきた。
「杏仁豆腐!!!」
姉ちゃんが目を輝かせながら言った。
「あれはまずくないよな………?」
ボルクが小声で言った。
「食ってみなよ」
俺はそう言ってボルクに杏仁豆腐を渡した。ボルクは匂いをかいだあとにペロッとなめた。
俺は犬みたいだと思ったけど黙っておいた。
するとボルクの表情が明るくなり味わうように食べだした。カイエンとリフのほうも見てみると普通に食べていた。
「これって海香の手作り?」
俺は聞いた。
「そうだよ」
「へぇ~。今度作り方教えて」
「いいよ! 千円で」
「金とるのかよ!」
「うそうそ。今回はタダでいいよ」
今回はって部分が気になるが俺は素直にお礼を言っといた。姉ちゃんが何故か親指を立ててニヤニヤしている。俺は全然理解できなかったが、何故か海香は海香であたふたしてる。
みんな食べ終わり今度はフラスと姉ちゃんが片づけに行った。
「そういえば海香って今学校行ってる?」
俺はなんとなく聞いてみた。
「ん? 行ってないよ、高校もっと行きたかったけどね。入学して半年でやめなきゃならないのはちょっと凹んだけどね」
……普通はそうか。俺みたいに学校に居られなくなったわけじゃないんだから。
「彼氏とかいないの?」
やっぱ少し気になる。すると海香は苦笑いして
「いないよ」
ちょっとガッツポーズしそうになったけどなんとか抑えた。
「お父さんがね私の事を溺愛しててね、男友達を勉強会なんかで家に呼んだ日なんかは竹刀持ってサングラスかけて声低くして挨拶する始末。目でうちの娘になんかあったらお前らどうなっても知らねぇぞ? って脅してるみたい。だから男の子がよってこないの。今回の海外出張も出発前日までごねてた」
……そんなお父さん本当にいるんだ……。
「あんまりうざかったからこれ以上私の友達脅したり交友関係に口出ししたらもうお父さんと口きかないって言ったの」
「なんでとどめ刺しちゃったん」
「………うざかったし。したらもう仕事に生きるって言って出張に行った。まあでもメールとか電話は今でもくるんだよ」
やっぱり苦笑いしてた。
「あの人さ、私が中二の時まで一緒にお風呂入ろうとしてきたんだよ? ありえないよ!」
風呂か……。思い出してしまった。
「………ふぅ………」
少し落ち着いた。海香は気付いてないようすでこっちを見ていた。
……よかったばれてない。
「どうやってやめさせたの?」
なんとなく予想は出来たけど聞いてみた。
「お風呂に入ってきたら口きかないって言ったらやめた」
やっぱり。予想通りだった。
「前に蹴るよって言ったら目を輝かせてお堂々と風呂に入ってきたから口きかないよって言ったら少し考えてそれはやだって言って出てったからこれを使ってるんだ」
筋金入りの変態の父親だな……海香がかわいそうになってきた。
その後も三十分近く永遠と海香は自分の父親の愚痴を言っていた。よくそんなにでてくるものだなと思いながら聞いていた。
するとやっとフラスと姉ちゃんが片づけから戻ってきて、やっと解放されると思ってしまった。
「じゃあ休憩もしたことだし特訓再開するよ!」
フラスが大きな声で言った。
「りょーかい」
俺は返事をして立ち上がった。




