トラウマ
竜樹達が蒼井やフラスたちと合流する少し前、集合場所とは少し離れた場所ではフラス、蒼井、リフが集まっていた。
「多分向こうの幻獣達もそろそろここに気づき始めてくるだろう」
リフが険しい顔で話し出す。
「一応外からここは見つけにくくなってるよ。ずっとそうしてることは出来ないけど」
「最短でどんぐらいもつ?」
蒼井がフラスに問いかける。
「おそらく………外の時間で一日くらいだろう。はっきりとは言い切れない。もしかしたらあいつらが気づかないかもしれないし、もっと早く気づく可能性もある」
「一日か……短いな」
「現に今外に何体かのキングの手下と思われるゴブリン達の気配を感じることがある」
リフが初めて口を開く。そして少し間をあけリフが続ける。
「多分この気配にはボルテックスもカイエンもソラスも気づいてる。でも多分みんなパートナーには言わないだろう。今のあいつらには言っても混乱を与えるだけだ」
「多分ゴブリン達は人間を体の中から洗脳して実界で活動している」
フラスが続けた。
「とりあえず外の時間で一日ならここでは一週間以上時間がある。その間に急ぎ足で力を身に着けてもらう。せめて自衛が出来る程度にはな」
蒼井が言った。
「もしもの時は俺らが全力であいつらを守る。いいな?」
リフがそう問いただす。その声は普段のリフからは想像できないような気迫がこもっていた。全員うなずく。
「そろそろみんな戻ってくるよ。僕たちも戻ろう」
蒼井がそう言った。
みんなで広い場所に移動してからフラスが全員に聞こえるように話しだした。
「では二日目の特訓を始めまーす。今日からは力を使い制御する特訓をします。まー本当はもう少し下準備したいんだけど時間がないので」
「時間がない?」
俺は聞いてみた。でもフラスは無視をして話を続けた。
「まず幻獣達はパートナーの中に戻ってくださーい」
その掛け声と同時にあたりが眩しいほどに光り幻獣たちが消えた。一瞬何が起きたか分からなかった。でも右腕からボルクが話しかけてきてくれて状況を理解できた。
「はいじゃあ戻ったね」
フラスがタイミングを見て話し出した。
「あれ? フラスちゃんは?」
姉ちゃんが聞いた。
「今回はソラスちゃんに入ってもらった。一度に二体入るとパートナーの体がもたないから、私はまた次の機会に」
そう言ってフラスは一呼吸おいて話しを続けた。
「まずは君達姉弟はその右腕と左腕に出ている鱗と羽毛を引っ込めてみて」
「「どうやって?」」
俺と姉ちゃんは声を合わせて言った。別に打ち合わせをしたわけではない。するとそこで蒼井さんが口を開く。
「ちょっと見てて」
そう言ってリフの体毛が出ている右手を見やすい高さまで上げた。するとその手からヒュッとそれが引っ込んだ。
「前にも同じようなこと見せたよね? 簡単だよ。腕の力を抜く感じでやってみて」
俺と姉ちゃんは言われた通りやってみた。
「あ、できた」
「私も」
思いのほか簡単だった。
「じゃあ今度は出してみて。腕に少し力を入れる感じで」
今回も言われた通りやってみる。
「………できた」
「私も」
「はいじゃあ次の特訓に進みますよー」
フラスがそう呼びかけるように言った。
「初日の特訓で自分のパートナーの力はどういうものか分かったと思うけどそれをその状態で使ってもらいまーす。蒼井さんよろしく」
そう言ってフラスは蒼井さんの方に手を向けた。
「いくよ、リフ」
蒼井さんはそう言うと裸足になり高くジャンプした、明らかに人では絶対に跳び上がれない高さまで。そして蒼井さんはその場でふわふわと浮いていているように見える。
「リフはね風を扱う力をもってるんだよ。で、今はその風で浮いてるんだよ」
そう言って蒼井さんは空中からゆっくりと降りてきた。
「ほら」
そう言って俺達に手のひらを向けてきて、そこから弱い風が出てきた。
「おおぉー………」
「涼しいー」
蒼井さんが風を止めてから話し出す。
「まあこんな感じで使ってもらうよ。僕は今回指導にまわるからね。生徒は竜樹君と火月ちゃんと海香ちゃん。頑張ってー」
とりあえず今鱗が出ている右腕を構えて、腕全体に力を入れてみる。
突然、家で力に飲み込まれ、暴走した時の光景が頭の中を何度もちらつく。
「……あ……あ………」
腕に力が入らない。まるで骨折したかのように腕が動かない。左手で右腕をおさえてみるがそこで初めて自分の腕が振るえてるのに気づく。
「……無……理………」
もしも特訓中にまた暴走して姉ちゃんを傷つけたら、姉ちゃんだけでなく海香や蒼井さん、フラス達もいる。
あの時の光景が鮮明に思い出される。
「ウッ」
俺は吐き気がして口元を押さえた。
「どうしたの?」
海香が声をかけてくる。
やめてくれ、話しかけないでくれ、ほっといてくれ。
「オェェェェェェェェェ」
ビチャビチャビチャ
吐いてしまった。
「ご………めん……少し休ませて………」
俺はそう言いその場をあとにした。
竜樹が休むと言って離れたあと、特訓は一時中断され竜樹以外の全員が集まり話していた。内容は勿論竜樹のことだ。
「やっぱりああなってしまったか……」
蒼井はタバコを一本取り出し口にくわえそうつぶやく。
「どういうこと?」
海香が蒼井に尋ねる。
「……あの子はね、初めてボルテックスの力を使った時に暴走してる。自我をなくし暴れて火月ちゃんの腕を切り落とし、実の母親を半殺しにしてる。」
「………」
火月は顔を上げずうつむいている。
「……そんなことが……」
海香はそう言って黙ってしまった。
「だからだろうね、力を使うことに怯えてしまっている。もしもまた姉ちゃんを傷つけたらーとか思ってるんだと思うよ」
蒼井はタバコの灰を灰皿に落としながら言った。
「私は……竜樹に攻撃されたことを今回の特訓で思い出しちゃって、怖くて竜樹の近くに行けなかった。竜樹も同じ思いだったと思う。……うぅん、私より辛かったと思う」
火月がうつむいたまま消えそうな声で話す。
「だから……せめて……ひっく……竜樹が休ませてって……ぐす……言ってるからそうしてあげたいの………」
火月が泣きながら続けた。
海香が火月の背中をさすってあげている。
「そうだね心の休息も必要だもんね」
蒼井がそう言った。
「そうだね」
「少しは休みが必要だろう」
「……うん」
フラスとソラスと海香が同意するかのように返事した。
「その間僕たちはどうする?」
蒼井がみんなに問いかける。
「……特訓……ずる」
火月がぐしゃぐしゃの顔で鼻をすすりながら最初に答えた。
「もう竜樹を怖がらないように……竜樹のために、私達が傷つかないように……特訓する―――!」
火月がぐしゃぐしゃの顔でそう言った。
「わかった」
蒼井がほほ笑むように返事する。
「その前に涙拭かないと、前が見えないでしょ?」
海香が火月にハンカチを差し出す。
「……うん」
火月がハンカチを受け取ってチーンという音と一緒に鼻をかんだ。
「あらら」
海香が少し呆れたように笑った。




