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幻の獣と人の世界  作者: お終い
第1章【竜王キング編】
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52/54

vsキング

「よう、久しぶりだな」

 部屋の奥の、窓際のところでこちらを見ている。余裕を持った表情で、王者の風格を醸し出しながらこちらを見つめている。

「挨拶してくれて悪いんだが、こっちはさっさと始めたいんだよね」

 竜樹は挨拶を返すこと無く、構えをとる。私も少し遅れて構えをとる。

「海香、大丈夫か?」

 竜樹はいつもの優しい顔で私に問いかける。

「…大丈夫」

 私はそれに答える。いつものように。

 竜樹は私の言葉を聞いて微笑んだあと、キングに向かって超電磁砲を撃った。以前よりも速く、そして強くなっているそれはバリバリッと大きな音をたててキングの頭に直撃した。

 直撃したはずなのだがキングはその場から一歩も動かず、声も出さずにそこに立っている。頭からは少しの血を流しているものの、ダメージはほとんどないように見える。

「少しは成長したみたいだな、だがまだまだだ」

 キングはそう言うと大きく息を吸い込む。そして「ガァ!」という叫び声と共に黒い炎が吐き出された。

 その炎は地面を削りながらも勢いは衰えることなく私達の方に向かってくる。

 だが竜樹は私達の前に立って、その炎を迎え撃つ。両手から雷を放ち、私達の丁度中間あたりで大きな音をたてて衝突し、総裁された。

「安心しろよ、半分も力を出しちゃいねぇから」

 私にはすぐに分かってしまった、それが嘘であると。本気じゃないのは確かだろう。でも恐らく六、七割くらいの力だろう。

 その言葉の後に蒼井さん達は攻撃を仕掛けていく。みんな本気の攻撃だ。勿論私も攻撃するけどキングは攻撃を避けることもかわすこともせずにただ受ける。でも効いてるような気がしない。

「みんな下がって!」

 蒼井さんの声がして、みんな言う通りに後ろに下がる。

「鷲獅子槍台風(グリフォンスピア)!」

 蒼井さんが超高速で回転しながら風を纏ってキングに向かって行く。

 ドゴォンという激しい音がしてキングにそれは直撃した。

「な…に…?」

 と、誰もがそう思った。でも蒼井さんは片腕で止められてしまっている。

 頭を掴まれてどうすることもできない蒼井さんは、地面に強く叩きつけられそして壁に向かって投げつけられる。壁にめり込み、そして地面に倒れた蒼井さんは血を掃き出した。体中傷だらけだ。

「蒼井さん!!」

 かづが叫ぶ。そしてキングに一人で向かって行く。背中からフェニックスの翼を生やし、右の拳に炎を纏って。

「うりゃあ!」

 キングの顔に直撃する。キングはかづを背中から殴りつけ地面に思いっきり叩きつける。

「炎ってのはこういうものを言うんだよ!」

 地面に倒れてるかづに向かってキングは黒い炎を吐いた。

「アアアアアアア!!!」

 すぐにフェインが助け出したが、かづはかなり消耗してしまっている。フェニックスの回復力でも間に合わないみたいだ。

「どうした? もう終わりか?」

 底が見えない。強い。そんな言葉しか出てこない。

「重力魔法!」

 私は全力の魔法を繰り出す。通常の三十倍の重力を出していて、立ち上がることすらできないはずなのに、キングは高くに飛び上がり大きく息を吸う。黒い雷がバリバリバリと吐き出されて、あたりはめちゃくちゃになった。城も崩れて辺りが瓦礫の山になる。

 特訓をして自分も少しは強くなったと思っていた。

 格が違う、キングが自分とは全く別の生物に見えてしまった。

 キングの体が今までより大きく見えてしまう、自分の力なんて遠く及ばないような気がしてしまう。

 私は瓦礫をどかして何とか立ち上がる。口の中が鉄の味がするがいちいち気にしてられない。

 私は口の中の血を吐き出してからみんなを探す。かづと竜樹、蒼井さんは無事だ。ちゃんと立ち上がっている。フェインも左肩から血を流してしまっているがちゃんと立ち上がっている。

「アリエス!」

 ただアリエスが立ち上がってこない。

「…っ!」

 瓦礫が左足の上に乗ってしまって立ち上がれていない。何とか引き抜こうとしてるが、どかせない。

 私は腕に魔力を通して自身の筋力をおよそ十倍にまで上げる。その状態でアリエスの足の上に乗っている大人と同じ大きさ程の瓦礫を投げ捨てる。

 私はすぐにアリエスの怪我を治してから立ち上がる。アリエスもそれに続いて立ち上がる。

「あいつに小技は効かない。全員の最大奥義を同時にぶつける、それしか勝つ方法はない」

 竜樹の言う通りだ。でも……

「それを俺がさせるとでも?」

 不気味に笑うキングは一瞬にして私達の目の前に移動してきた。そして黒くて太い尾の先端で竜樹の腹を強く突いた。その尾は人の体よりも太いために竜樹は大ダメージを受けてしまった。

「ガハッ!」

 口から血を吐き、大きく後ろに飛んでいった。竜樹はもう一度瓦礫に埋もれてしまった。

「竜樹!」

 かづが叫ぶ。

「人の心配をしてる場合か?」

 かづの目の前にはキングが既にいた。

 キングはかづを巨大な爪で切り裂き、フェインとアリエスを蹴とばし、最後に私に向かって大きな拳でパンチを繰り出す。

 とてつもなく重いその一撃は私のアバラの骨を砕いた。多分他のみんなも同じだろう。

 でも私は治せるから治さなくてはならない。みんなを、自分を。

 そう思って立ち上がるが目の前には既にキングがいた。

「まずはお前からだ」

 私が動くよりも早く、キングの鋭い爪が私に襲い掛かる。

 一瞬何が起こったのか理解できず、ただ自分の体が大きく後ろに倒れただけに感じた。

 目の前には赤い液体が飛び散っているのが見える。あれは血…? 誰のだ? もしかして、私の? そう言えばお腹のところの感覚が無いような。

「海香!!」

 誰かが私の名前を呼んだ。そこで私の視界は真っ暗になった。



 …か! …みか! ……海香!

「げほっげほっ」

 目を開けると、最初に視界に入ってきたのはソラスちゃんの顔だった。

 なんでソラスちゃんが…? 力が入らない。

「目ェ覚ました! もう少しだ!」

「なんで…」

 私は状況が理解出来ずに、自然にそう口から出てきた。

「喋らないで」

 フラスちゃんの言葉のその迫力に思わず黙ってしまった。ソラスちゃんが外から治癒し、フラスちゃんが中から私の命の維持をしているのか。

 ドゴォーンという激しい音がした方を向くと、そこにはソラスちゃんとフラスちゃん以外のみんなとキングがいた。

 みんなボロボロになりながら、血を流しながら戦っている。

 私はすぐに理解することができた。みんな私の治癒の時間を稼いでくれてるんだ。

 私だけこんなところでくたばっているわけにはいかない。私が足を引っ張ってしまってはいけない。私も戦わなければ!!

「重力……五百倍…!」

 私は横になったまま自分の最大の力の魔法を繰り出す。

 するとキングの動きが鈍くなる。

「今だ!」

 竜樹の掛け声と共にアリエスが攻撃を仕掛ける。

「火炎獅子(フレイムレオ)!」

 アリエスから出てきた炎が獅子の形になっていき、それはキングよりも大きくなっていく。

「ヴォォォォォ!!!」

 炎の獅子が吠える。そしてその獅子は空中を高速で走っていき、キングに噛みつき、そして貫いた。

「ぐはぁ!」

 次にフェインが構える。人狼型で口に短刀をくわえ、手を前について狼のような姿勢になる。そしてそのまま走っていって右手を上から振り下ろし、下から左手をすくいあげる。

「狼牙(ろうが)」

 大分弱っているキングは、体力を消耗しているキングは、かなりのダメージを受けている。

「鷲獅子槍台風(グリフォンスピア)」

 蒼井さんが風の槍となってキングに突っ込んでいく。一度は止められたこの技も、今度は命中する。

「不死鳥炎(フェニックスフレイム)」

 全身に炎を纏い、フェニックスの翼を出して高速で突っ込んでいく。シンプルだからこそ強い技なのだろう。

「雷電(サンダー)の鷹(ホーク)」

 鷹を模した巨大な雷が吠えて、キングに高速で向かって行く。そして一瞬にして貫く。

「グハァァァァァァァァ!!」

 キングは大きな悲鳴を上げてドサッと倒れる。

 キングは動かない。ピクリとも動かない。

 私達は勝ったのか…? 勝ったんだ!

 みんなの力を合わせて勝てたんだ。

「ウォォォォォォ!!!」

 竜樹が大きなガッツポーズをして雄叫びを上げる。

 ありがとう竜樹、ありがとうみんな。


「うるせぇよ…」

 突然僅かに聞こえてきた声、その声にはこの場にいる全員が聞き覚えがあった。聞き間違えるはずがなかった。だってこの声は―――。

「ここまでやられたのは久しぶりだなぁ、そろそろ本気を出そうか」

 キングの声だ。

 ウソでしょ…、すでにみんなボロボロだ。

「コォォォォォ!」

 キングの雰囲気が変わった。額のところから大きな一本の角が生えてきて、二枚だった巨大な羽が倍の四枚になった。

 勝てない。一瞬にして私はそう思ってしまった。

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