愛の力
「みんなに何をしたの?」
全員が一瞬にしてどこかに消えてしまった。
「えぇっと、海香って言ったかしら? 大丈夫よ、みんな別々の場所に移動させただけ。みんなまだ生きてるわよ」
……まだ、とはどういう意味だろうか?
「各部屋に一体づつ幹部や側近クラスの幻獣がいるのよ。まぁビエルの奴は外だけどね」
みんなが心配だ。でもそんな心配が必要ないくらいみんな強いことも知っている。蒼井さんだってあの陸クジラを倒してすぐに追いついてくる。
―――だから私が足を引っ張らないように、フラスちゃんとソラスちゃん共にこいつを倒す。
私は勝たなければいけないんだ、この戦いで誰一人欠けてはいけない。
出発の前に竜樹が言っていた。
「今回の戦いは命がけになるだろう。勿論勝つのが一番いいけど、もし勝てなかったり命の危険を感じたら逃げてくれ。これは俺の勝手なわがままなんだ、誰一人死んでほしくない、もう誰も蒼井さんみたいな大怪我はしないでほしい」
竜樹は仲間が傷つくのを極端に嫌う。それは蒼井さんが以前言っていたけど、竜樹が自分の手で家族を半殺しにしてしまった事が理由だと。
だから彼は自分の事よりも他人が傷つかない方を選ぶ。
そんな彼の為にも私は死ねない、私達は死んではいけない。
「火炎柱」
シリムの足元から火の柱が登っていき、シリムを火炎がつつむ。
「お前を倒して私は先に行く」
「出来るかしら、人間のあなたごときが」
何事も無いかのように火炎の中からシリムは歩いてくる。
「当たり前だ。そのための五ヶ月だ」
「私達だっているんだから」
「そうだぞ、母上」
そうだ、私には強い味方がいるんだ。
負けるわけがない。
「パワー強化、スピード強化、魔女の剣装備」
魔女の剣。それはフェインが作ってくれたもう一つの私の武器。紫色の柄に黒くて四角い鍔、そして身の丈ほどの大きな刃。少し冷たい色だがシンプルな形だ、それが魔女の剣。それを持つことで魔女と剣という異質な組み合わせが出来た。因みに魔女の剣は普段魔法で作った別空間にしまってある。
そしてそれと魔法を合わせたのが「魔法剣」。
足から炎の魔法をだし、一種のブースターのようにする。地面を蹴ると同時に火力を上げると瞬間的に爆発的なスピードを出すことが出来る。
数メートルあったシリムとの距離はほぼゼロにまで近まる。そして魔法剣を左下からシリムに向かって切り上げる。だがシリムが即座に一歩後ろに引いたため、剣先が軽くかすった程度になってしまう。
「思ったよりも速いね」
シリムは頬少しばかり流れる血を拭いながら余裕そうにそう言った。
「氷結の剣」
シリムにダッシュで近づいて行って剣を振り下ろす。でもそれは完全に紙一重でかわされた。
「冷た…!」
冷気を剣に纏わせることで傷口を瞬間的に凍らせて回復を阻害させる。今回はかわされてしまったが。
「…ふーん、やるじゃない。でも氷の魔法ってのはこうやってやるんだよ!」
シリムの手の中から身の丈ほどの大きな銀色に輝く杖を取り出すと、それの先を強く地面に突いた。すると部屋全体の床や壁が瞬く間に凍って行く。
「かわしてみなさい」
もう一度シリムが杖で地面を突くと部屋全体にはった氷から、無数の巨大な氷柱が私めがけて飛び出してきた。
シリムはああいったけど、逃げ場なんて無いくらいの量の氷柱の数だ。
私は自分の周りに自分が入れる程の大きさの炎のドームを作る。そのコンマ数秒後、数々の氷柱が炎のドームに直撃した。
ジュワーという音と共に無数に垂れてくる水滴、そして水蒸気によってあたりが非常に見えづらくなる。
「気ぃ抜くんじゃないよ!」
シリムの声と共にまた何本もの氷柱が襲い掛かってくる。さっきよりも太く鋭い氷柱だ。
私はより一層炎のドームの温度を上げる。が、それでも氷柱は溶けきらずに炎のドームを抜けてくる。
それでも氷柱はほとんどが溶けていてダメージを受けないだろう。
でも今度は下から鋭く尖った氷柱が勢いよく飛び出してきた。
何とか急所を避けることが出来たが腕や足に刺さってしまう。
「ぐっ…!」
痛いけど刺さっているのは氷だ。刺さっている氷柱に炎を当てて溶かす。氷の冷気と炎の熱気で自分の手足がどうにかなってしまいそうだ。それでも我慢して氷柱を溶かし、同時に火傷させて傷口をふさぐ。
このまま防御に回っているだけではシリムを倒すなんて到底無理だ。でも私は防御しながら攻撃すると威力が格段に落ちてしまう。それに同時に二つの属性を使う事も今の私には出来ない。
ダメージを恐れていてはシリムは倒せない。
「…ふぅ…!」
私は小さく息を吐いてから防御に使っていた炎を魔女の剣にすべて集める。そして氷柱の雨の中を全力でシリムに向かって走っていく。
なるべくよけようとするけどすべてかわせるわけではない。剣で氷柱をガードしてもそれでも限界がある。何回も氷柱がかすり、肩や腕に氷柱が刺さる。痛い、でもこんなことで立ち止まってられない。
「ウォォォォ!!」
全力で走っていき、シリムとの距離は剣が届く距離になった。私は炎を纏った剣を大きく振りかぶり、勢いよく振り下ろす。
「ニードルスピア」
どこか余裕のあるシリムの声と同時に、どこからともなく針というにはあまりに大きい、そしてよく似たものが突き出してきた。
ドスッ。という鈍い音と共に私は血を吐いた。
「え?」
目線を下にずらすと、その大きな針は私の腹部に深く突き刺さっていた。
シリムは人差し指を立てて、それをクイッとまげる。するとその針は私に刺さったまま空中に浮かび上がる。高さはそれほどではない。私は身動きを取ることが出来ずにされるがままだ。
シリムは人差し指を立てたまま勢いよく横にスライドさせた。すると針はシリムの指と同じ動きをして、私は針からとばされた。
瓦礫の山に私は埋もれ、声を出すのも難しい。大きな穴の開いた腹部から力が抜けていくようで瓦礫をどかすことも出来ない。私、死ぬのかな。力も入んないしなんか眠くなってきた。なぜだろう、痛みはあまり感じない。左腕の上には大きな瓦礫がのってしまって動かない。
「うみちゃん死なないで! ソラスちゃん!!」
「うん!」
人間である私だけでは瓦礫に潰されてしまうため、フラスちゃんが私の中に残り、ソラスちゃんが外に出て瓦礫をある程度どかしてから治癒を始める。
「傷が深すぎる! 間に合うか!?」
ソラスちゃんが全力で治癒してくれているが、私のぼやけた視界の中にはソラスちゃんの真後ろにフラスが立っているように見えた。
鈍い骨の折れる音と共にソラスちゃんは蹴りとばされた。
もう私はダメだ、ここで死ぬんだ。
それなりに楽しい人生だったし、十六歳にもなって始めて好きな人もできたし。でも…もう少しだけ、竜樹と一緒にいたかったなぁ……。
そう思った瞬間、突然蒼井さんが以前言っていた言葉を思い出した。
『あの子は仲間が傷つくことを極端に嫌う。ましてや死人なんて出たらあの子は永遠に自分を責め続けるだろう。だから僕たちは何があっても誰一人欠けてはならないんだ』
タバコを吸いながら大人の雰囲気を出して、蒼井さんはそう言った。
…そうだ、私は死んではいけないんだ。何をあきらめているんだろう。私が死んだら竜樹が傷つく、それだけは絶対にやってはいけない。
今のこの状況で生き残るにはシリムを倒す事!
「おらぁぁぁぁ!」
私は精一杯力を入れて立ち上がろうとする。何とか瓦礫の山から抜け出せたけど、立ち上がれずに片膝ついてしまった。
力を入れているのに、半分以上が腹の穴から抜けて行ってしまってるような感覚だ。
「ソラスちゃん…大丈夫?」
僅かに目線をそっちに向けながら何とか話しかける。
「問題ないよ」
ソラスちゃんは立ち上がり、私の方に歩いてきた。
シリムは驚いたように目を丸くして口を開いた。
「あの傷で立ち上がるとは…どういう原理だい?」
私自身どういう原理なのか分からないけど、多分竜樹の事を思い出したから。それってつまり―――。
「…愛」
「…あ? 聞こえない」
「…愛の力…舐めないでよね!!」




