命
大体五分~十分くらいだろうか、僕はずっと目を回していた。やはり反動が半端ないために早いうちに完成させなければ。
「ふぅ…何とか落ち着いた」
「すげぇ…技だな…」
ビエルの声がして一瞬にして僕は気を引き締めるけど、その声は弱弱しく戦意を感じない。
「威力はとんでもないがお前自身まだ技を使いこなせてないな」
「僕の方こそ驚きだよ、体を貫かれても生きてるなんて」
「ははは、殺す気なんてなかったくせに。だからおれっちの機械の部分を狙ったんだろ。ものすげーいてぇけどな」
「買いかぶりすぎだ」
戦ったからわかるのだろうか、ビエルは悪い奴ではないという事を。
元々今の戦いは善悪で争っているのではなく、考えの違いで戦っているのだ。どちらが正義とか悪とかではない、どちらも正義なんだ。故に起こる譲れない戦い。
「一ついいことを教えてやる」
ビエルの口調が少し穏やかになっている。
「キング様の前で少しでも気を抜いたらすぐに死ぬぞ。おれっちは上位のS級だがキング様の足元に及ばない」
やっぱり彼らは悪い幻獣ではない。今確信が持てた。
「君っていい幻獣だね」
「たりめーだろ。幻界を統治している王の部下が悪であっていいわけないだろ」
「それもそうだね、僕はもうみんなのところに行かないと。お大事に」
「おめーがやったんだろうが」
僕はビエルの言葉を背に、みんなのもとに向かって走り始めた。
「どうした、ボルク」
「タツ、みんな、蒼井が勝ったらしいぞ! ちゃんと無事らしい」
よかった、あとは俺達が他の幹部と竜王を倒すだけだ。
「よかったけど…廊下長くない?」
…確かに。姉ちゃんの言う通りだ。
「ちょっと静かにして」
俺達は海香に言われた通りに黙った。なぜなら海香が少しキレ気味で怖かったから。
海香は目を閉じて深呼吸をする。すると海香の周りを水色の薄い膜がおおう。するとそれは数秒してから球体状に周囲に広がっていく。大きさは大体直径十メートルくらいだろうか、でも端の方が壁をすり抜けていて正確な大きさは分からない。
「……やっぱり」
「何かわかった?」
海香のつぶやきの後に姉ちゃんが小さく聞いた。
「うん。この廊下魔法でループさせてある」
「どういう事?」
俺はほとんど理解は出来ていたが、つい口からでてしまった。
「…ある一定の距離でループさせてある。出口から出たはずなのにいつの間にか入口に戻されてるってこと」
海香はあの短時間でこれを知ったのか。
「それに加えてこの廊下はずっと石でできていて模様もない、だからループさせられても分かりにくい」
「どうやったら解ける?」
「恐らくどこかにループの魔方陣が書いてあるはず、それを消せばいい。見つけたら私を呼んで」
それぞれ返事をしてその魔方陣を探し始めた。と言ってもこの廊下は一本道なので全員が一緒の方向に進む感じになった。
もう恐らく三周くらいしただろうか、だが全くそれらしいものは見当たらない。
「これだけ探してもみつからないんじゃ何か間違ってるんじゃないの?」
アリエスも俺と同じことを思ったようだ。
「なんだ、このボタン?」
フェインが壁にボタンを見つけたようだ。フェインはみんなに確認せずにそれをポチッと押した。
すると反対側の壁から取っ手のようなものが出てきた。因みにボタンは周りの壁と同じ色で、見つけにくくなっていた。
フェインが取っ手を掴んで横にスライドさせた。するとそこには見たことのない文字が数行にわたって書かれていた。
「これだ」
海香が確信を持ったようにそう言うとそれに近づいて行って右手をかざす。
するとそこから白い光が出てきて、パリーンとガラスが割れるような音がした。
「うっ…」
一瞬視界が歪んだような気がした。すると数メートル先に大きく開けた場所が現れた。
俺はそこに敵がいると確信して走り出す。他のみんなも俺に続いて走り出した。
「久しぶりね、可愛い娘達。そして死なないでね」
そこにはシリムがいた。シリムが皮肉っぽくそう言うと突然体が白く光り出した。海香以外の全員の体が。
「な…」
俺は何もすることが出来ずに一瞬にして別の場所に移動させられた。
恐らく俺がとばされたのは竜王の城の中の別の部屋、壁には巨大なドラゴンの絵。そして目の前には―――
「久しぶりだなぁボルク、人間」
アスガルトがいた。
「ア…アスガルト……」
一人だと思ったけど俺の肩にのっていたポーも一緒に飛ばされていたようだ。
「先に行って下さい!!僕の、スライムの能力なら例え相手がドラゴンでも足止めくらいは出来るはずです!!」
ポーの、スライムの能力は他の幻獣を吸収して一定時間自分の物として扱えるというもの。勿論吸収した幻獣はすぐに吐き出す。吸収された方の幻獣も勿論力を失うなんてことはない。簡単に言うと吸収した幻獣の力をコピーできるという事。そして吸収した幻獣の姿と元の姿を自由に変えられる。通常のスライムなら吸収出来る幻獣は自分と近い力の幻獣のみ、つまり下位のE級、出来てもD級までの幻獣だ。でもポーは今回の修行でB級までの幻獣の力をコピーできるようになったのだ。
そして今ポーがコピーしているのはB級の幻獣のオーガ。フェインの友人と言う事で協力してくれた。
オーガの能力は怪力のみ。S級にもなれば小さな島を動かすこともたやすい。
ポーの姿がいつものブヨブヨの姿からオーガの姿になる。
「僕が足止めするから先に行って下さい!!」
ポーがアスガルトに向かって走り出した。
やめろ、死ぬぞ!! そう言おうと思ったけど何故か言葉が出てこなかった。俺はただただ腕を伸ばすだけでポーを止められない。
「フン」
アスガルトの尻尾の一振りで、ポーは吹っ飛ばされた。ポーは壁にめり込み、えげつない量の血を吐き地面に倒れこむ。
「スライムごときが何を勘違いしたのか知らねぇが、バカなもんだ」
俺は静かにポーのもとに歩いて行く。もうオーガの力を使う体力もないのだろう、元のスライムの姿に戻ってしまっている。呼吸はか細く、今にも力尽きてしまいそうだ。俺はポーを抱え上げる。
「ご…めんなさ…い……スライムはどんなに頑張ろうと……スライムなんですよね…」
大粒の涙を流すポーの言葉はとても弱弱しく、喋るのがやっとと言った感じだ。
「今まで…お世話に…なり―――」
力尽きたのだろうか、ポーは目を閉じ、弱弱しい呼吸もしなくなった。
思えば一番力がないからと言って、一番一生懸命に修行をしていたのはポーだった。俺達のサポートもやってくれていて彼は彼なりに頑張っていたのだろう。
そんなポーが死んだ。仲間の死を目の当たりにするのはこれが初めてだ。以前アリエスの父親が幻獣達との闘いで死んだと聞いた時も、かわいそうだなと他人事のように思うだけですぐに忘れてしまうようなものだった。
危険な戦いをしてるという自覚はあっても、仲間が死ぬことはないとどこかで安心していた。フェインがドワーフと戦って大怪我をして帰ってきた時も、ソラスがいるから大丈夫だとどこかで安心している自分がいた。
でもそんな甘い考えが通用するような戦いじゃなくて、現実はもっと厳しかった。
甘い考えを持っていた自分が憎くて、ポーを止められなかった自分が許せなくて、、でもそれ以上に自分の非力さに腹が立った。
「ポー、ごめんな。俺が弱いばっかりに死なせてしまって。あいつぶっ飛ばしてくるから、ちょっと待っててな」
俺は部屋の隅にポーの亡骸を丁寧においた。
ふつふつと湧き上がってくる怒りで心がどうにかなってしまいそうだ。以前ならこういう時は自分の体が自分の物じゃないみたいで、意識がどこか遠くに行ってしまったような感じになった。そして意識が自分の元に戻ってきたときには目の前の光景が惨劇と呼ばざるをえない状況になっていた。時には肉親や見知らぬ男が血まみれで倒れていたり、原型を留めていない幻獣が多数いたり。
でも今は前とは違う。矛盾しているような気がするが、心がとても静かだ。意識が自分の元から離れて行かない。
「言ってくれるな、前に俺から卑怯な手で逃げたのはどこのどいつだったかな?」
「もう前とは違う」
俺は奴の目の前に行って、アスガルトの頭を殴った。頭が地面に叩きつけられ、驚いたように目を丸くしている。
いつもより自分のパンチに重みがあるような気がした。あぁそうか、ボルクも怒っているんだ。さっきから全く口を開かないと思ったら。こいつは怒ると黙るタイプだからな。
「……なんだ今のは…見えなかった」
「立て。お前はその程度では許されない」
俺は感情をそのまま言葉にのせる。俺のだけではない、この言葉にはボルクの感情ものっている。
「許されない…? 誰にだ…?」
俺は雷を込めた拳をアスガルトに向けて放つ。
「「俺達にだ!!」」




