仲間
俺はとりあえずさっき蒼井さんに言った通りに、皆に蒼井さんの里帰りを説明して、海香に瞬間移動の魔法のお願いをした。
海香は快く了承してくれて、他のみんなも納得してくれた。けど、今になって帰りの事を考えていなかったことに気づく。まぁ、飛んで帰ってこれない距離でもないから大丈夫だろう。多分。
「済まないが今回は僕一人だけで行かせて。飛行機で行くからリフは留守番しててくれないか」
でも、蒼井さんの口から出てきた言葉は俺が全く予想していなかったものだった。
「構わない、ゆっくりと羽を伸ばして来い」
「お前ががいないと羽は出ないけどな。ありがとな」
蒼井さんはリフの言葉に冗談ぽく答えた。
「でも一人で大丈夫? キングの手下とかが襲ってこないって保証はないよ」
姉ちゃんの疑問はもっともだ。
「多分、平気だ」
「なんで?」
ボルクの少し自信がなさげな答えに俺はそう聞かずにはいられなかった。
「恐らくだが、父上が…キングが復活して竜王軍は少なからず、以前よりは統制がとれてるはずだ。キングが指示すれば別だろうが、それも大丈夫だ」
「だからなんで?」
今度は姉ちゃんが俺よりも先に少し強く聞いた。
「キングはそういう性格なんだよ。俺達と奴らの戦いは俺達が城に乗り込む形になるだろう、それまでは何もしてこない。数百年一緒にいたからなんとなくわかる」
そう言われたら俺達は何も言えなくなってしまうけど、やっぱり若干の不安が残る。というかボルクが数百年も生きていたことにも驚いた。
「まぁ…今回は翼の好きなようにさせてやってくれ。もしもの時は俺が全力で駆けつける。大丈夫だ、俺なら翼が日本のどこにいても全力で飛べば一分半で着く」
リフのこんなに長く喋ったのを聞いたのは初めてで、俺達は少しばかり驚いた。
「まぁ…リフがそこまで言うなら……」
俺達も海香と同意見だった。渋々と承諾する形になってしまったが。
「僕のわがままを聞いてくれてありがとうね」
蒼井さんは軽く頭を下げてそう言った。
「別にいいよ、……仲間なんだから……」
俺は自分で言ってて少し恥ずかしかった。
「竜樹にしてはいいこと言うね、ねぇかづ?」
「『仲間なんだから』か。弟なのに惚れそうだよ」
流してくれればいいものを、海香と姉ちゃんが上手に拾ってくれました。
「僕も嬉しいよ」
何故そこで顔を赤らめるのだ、蒼井さんよ。ていうかあんた奥さんいるじゃないですか。
「まぁ、竜樹いじりはそこまでにして、蒼井さんはいつ頃出発するの?」
一番最初に拾ってくれた張本人が止めに入ってくれた。
「明日の朝の便で出発するよ。もう夕方だけどいろいろ準備してくるね」
奥さんに早く会いたいんだなってのが分かる。
「あぁ翼、腕の調子はどうだ?」
製作者であるフェインが蒼井さんの左腕である義手の調子が気になるのは当たり前なのだろう。勿論不備とか不調があればすぐに直さなければいけない。
「うん、だいぶ調子いいよ」
蒼井さんは左手をグーパーしてからストレートの素振りをしてからそう言った。
「そうか」
フェインは満足そうだ。
「奥さんにそれはどう説明するの?」
姉ちゃんの言うそれとは多分義手の事だ。
「正直に説明するよ。梨深は心が広いから腕が無くなった僕でも受け入れてくれるよ」
無理に笑顔を作っているような気がするのは俺だけだろうか。チラッと姉ちゃんの方を見たけど、心配そうな顔をしていた。やはり姉ちゃんも俺と同じ物を感じたようだ。
「……受け入れてくれると思うけど、やっぱり少し怖いかな。もしかしたら拒絶されるかもって思っちゃうよ、梨深はそんな人じゃないって僕が一番よくわかってるのにね」
やっぱりさっきの笑顔は無理やりに作っていたものだったんだ。俺が蒼井さんに何かしてあげたいけど、何をしたらいいのか全く分からない。ずっと俺達の事を引っ張っていってくれてた兄のような存在の人だから、ずっと気を張っていてくれたのかも知れない。
「大丈夫だよ」
姉ちゃんの口から、とても優しい言葉が出てきた。
「梨深さんと蒼井さんは幼馴染なんでしょ? そんなに長い付き合いなんだから腕の一本や二本無くなったくらいじゃ嫌いにならないよ。さっき自分でも言ってたけど、そう言うのは蒼井さんが一番よく分かってるでしょ?」
「うん……そうだね、ありがとう」
「それに、もしも振られちゃったら私がずっと一緒にいてあげるから!!」
「ははは、ありがとね。火月ちゃんのおかげで元気出たよ」
蒼井さんは姉ちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でて、いつも道理の笑顔を浮かべた。
「じゃあ僕はもう準備するから、みんなには本当に迷惑かけるね」
「いいって、いつもは俺達が迷惑かけっぱなしなんだし」
俺も蒼井さんと一緒に笑顔を作る。蒼井さんはその笑顔のまま、部屋から出て行った。
「かづ、もしかして……」
蒼井さんが部屋から出てってから少しして、海香が小さく話し出す。
「うん、そうだよ」
なにがそうなのか俺には全く分からないけど、二人は少し悲しそうな顔をしている。
「いいの、あの人は二十六歳の大人で奥さんもいて、私は十七歳の子供。この気持ちは静かに心の中にしまっとかないといけないの」
「そう、今日は一緒にご飯でも行こうか」
「……ありがとう、うみ」
目の前でこんなことされて、俺は置いてきぼりなんだが。話も理解できないし。
「というわけで私達はご飯行ってくるからそっちはカップ麺でも」
「雑!!」
「じゃあ作ってね、冷蔵庫の中のものはテキトーに使っていいから」
俺の今日一のキレのある突込みを海香に流されて、姉ちゃんと海香はご飯を食べに行ってしまった。因みにカイエンとフラス、ソラスはお留守番である。カイエンは外にある、あの特訓用の空間で。
「仕方ない、なんか作るか」
俺は誰に言うわけでもなくそう呟いてから、キッチンに向かい冷蔵庫を開けた。
「……足りねえし」
冷蔵庫の中には、多く見積もっても大人二人分くらいしかない。
「しょうがない、買いに行くか」
と思って自分の財布の中を確認してみるけど、残高五百二十三円。何も買えない。
仕方なく、蒼井さんからお金を借りて、買い物をして、めんどくさかったのでチャーハンを作ってからみんなで食べた。
「じゃあ行ってくるね」
翌日の最初の便で蒼井さんは奥さんのもとに帰って行った。一週間ほどで俺達のところに戻ってくると言っていた。
俺達は蒼井さんのいない間は、少しでも蒼井さんに追い付いて、追い越すために各自特訓をして過ごすことにしている。もう足を引っ張らないために。
俺はリフに頼んで手合せをしてもらうことにした。いつも人間やフェインとばっかやってたら、人型じゃない幻獣が相手だった時にいつも道理に戦えないかもしれないからだ。体の大きなリフと戦えば少しでも慣れることが出来る。因みにカイエンにも手合せをしてもらった。因みに審判はフラスにしてもらった。
リフとは六戦やって、結果は三勝三敗。カイエンとは四戦やって一勝三敗。今の俺の実力はほぼ上位のA級と同じくらいの実力という事になる。
リフとは全部いい勝負だったけど、カイエンにははっきり言って、全然かなわなかった。一勝したのだって不意をついて何とか勝てたような物だ。
リフは戦ってる時もほとんど喋らなかったが、六戦終わった後に、「だめだな」という一言だけ残して特訓用の空間の入口付近で眠ってしまった。
分かっている、このままじゃダメだってことは自分が一番よく分かってる。ボルクだけの時以上の力を出さなければ、ボルクが俺と一緒にいる意味がない。
だからもっと強くならなければ。俺はそう決意して、一人で自主特訓を始めた。




