情報収集
とりあえず周りを見渡してみても誰もいない。少し集中して気配を探ってみるけど周囲には誰もいないようだ。
「一応変装しろよ、お前達は顔われてるんだから」
確かにボルクの言う通りだ。でも丁度よく変装キットなんて持ってきてないしな……。
「海香、変身魔法くらい使えるだろ?」
「え、うん。何がいい」
何って言われてもな……、特にないし。
「スライムとかどうでしょう?」
ポーが提案してくれたが、本人のいる前でこういう事思うのも失礼だがスライムってなんかやだ。
「………何ですかその嫌そうな顔は」
ばれた、と思ったけど海香も似たような顔をしていた。
「わかってますよ、スライムはブヨブヨでぬるぬるでダサいですよ。おまけに下位のE級ですし」
そこまで言ってないです、ポーさん。だから拗ねないでください。
「まぁ、無難にエルフあたりでいいだろ」
ボルクがナイスな助け船を出してくれた。
「そうだね、それでいいでしょ」
海香がそう言って俺と自分に変身魔法をかけた。
お互い耳がエルフ耳になって髪の色が銀色になったくらいで、それ以外の変化は特に見られない。変装なのにこれで大丈夫なのだろうか?
「あれ? 海香小さくなった?」
さっきよりも海香の顔の位置が少しばかり低い気がする。
「私が小さくなったんじゃなくて竜樹が大きくなってんの」
確かに少しばかり目線が高くなった気がする。無性に自分の身長を測りたくなってきた。
「今俺どのくらいある?」
勿論、身長の事だ。
「ん~……ぱっと見た感じ百八十五くらい?」
十センチも伸びたとか結構嬉しいんだけど。まぁ、魔法が解けたらもとに戻ってしまうんですけどね。少しくらい楽しませて下さい。
というかそろそろポーさん機嫌を直して下さい。
「じゃあ行くぞ」
ボルクのその言葉を合図として、俺達はマイルズに向けて歩き始めた。
「おぉー……」
思わず驚きの声が出てしまう程、幻獣が多くて、高い建物が多くて、ついこの間まで戦争があったとは思えない程被害がないように見える。
「やっぱり、幻獣達の数が少ないですね」
ポーが辺りを見渡しながらそうは言うけど、俺には多いようにしか見えない。これでも少ないっていうんだから戦争前はこれの比にならないくらいの幻獣がマイルズにいたんだろう。
「とりあえずどうする?」
俺が聞こうと思ってたけど先に海香が聞いてくれた。俺達人間はここに何があるのか全く分からない為、幻獣達に従うしかない。
「情報を集めるなら、まずは書物館ですね」
やっと機嫌を直してくれたらしいポーがそう言ったので俺達はその書物館に行くことにした。因みにその書物館とは、俺達で言うところの図書館のようなものらしい。確かに情報を集めるには適しているかもしれない。
「あ、でも……場所忘れた」
「「オイ」」
ポーはなんで肝心なことを覚えてないんですか。おかげで俺と海香の突込みがかぶってしまった。
「俺は覚えてるぞ」
幻界の守護幻獣なんだから知ってても不思議ではないか。というわけでボルクの案内で書物館に向かった。
到着はしたものの、入口が見当たらない。
「入口は?」
海香も同じことを思ったようでボルクに聞いていた。
「目の前」
そう言われてよく見てみると入口がないのではなく、でかすぎて壁と間違えてただけだった。
入口に比例するように書物館は大きく、雲空島で泊まったナナの屋敷の数倍はありそうだ。大きな書物館の壁は全てモノクロで、少々不思議な雰囲気をしているように思える。
因みに幻界で一番体の大きい幻獣、『陸クジラ』が三十体は入れる程広く作ってあるとボルクが教えてくれたが、その幻獣を知らないために何とも言えない。
「かなりでかいぞ、でかいやつだと俺の体の五倍以上はある」
えーと、ボルクが大体見た感じ十~十五メートルくらいだから十五メートル計算で大体七十五メートル!? 計算間違いじゃないよな? そんなにでかい生物を想像できない。感覚がマヒしてるのかも知れないけど、十五メートルでも十分でかいという事に今気づいた。
「押せば開くから、入るぞ」
ボルクの指示に従ってドアを押すと、ギィィと音がしてその大きなドアの片方が開いた。
俺達は恐る恐る中に入ってみると、中には大小さまざまな幻獣が静かに本を読んだり、パソコンのような明らかに違うものをいじったりしているのが見える。
そこからは俺達は別々にキングに関する資料を探すことにして、海香とポーとは別行動を始めた。
二時間後、俺達は外に集まってお互いが集めた情報を報告しあった。でも結局集まった情報は、幻界の歴史上でキングのしたことや、キングのちょっとしたプロフィールとかだけだった。
「…思ったんだけどさ、最近の事なのに本になってるの?」
海香よ、もっと早く言って欲しかったな。
「何かしら手掛かりは出てくるかも知れないだろ」
ボルクのいう事も間違ってはいないが、結局何も成果がなかった。
「これからどうします?」
「んー……そろそろ蒼井さんが起きてくる頃だと思うから戻ってみる? もう一度来れない場所じゃないし」
もうそんなに時間が経ってたのか。海香の言葉を聞いてから、俺は思ってた以上に時間が経っていたことに気づく。
「じゃあ戻ろっか」
俺はそう言って海香の瞬間移動の魔法で家に戻った。
「おう、戻ったか。収穫は?」
「勿論ナシ」
「やっぱりな」
フェインとお決まりのような会話をしてから、フェインが思い出したように翼が起きたぞ、と教えてくれた。
俺は冷蔵庫にあった缶コーラを持って、蒼井さんが休んでる男子部屋に足を運ぶことにした。
「おはよ、お疲れ様」
「あぁ、竜樹君。おはよう」
「差し入れ持ってきたよ」
「お、コーラとは気が利くね」
俺が蒼井さんにコーラを渡すと蒼井さんは上半身を起こして、右手だけでプルを開けてグイグイとコーラを豪快に喉に流し込んでいる。
相当喉が渇いていたようだ。
「あぁー……うまいね。欲を言えばビールが良かったかな」
そう言えば蒼井さんがお酒を飲んでいる姿を見たことがない。てっきり飲めないんだと思っていた。
「飲んだら多分、女子連中からすごく怒られると思うよ」
「ハハ、かもね」
ていうか蒼井さんお酒強いのかな? 二十歳になったら一緒に飲みたいな。
「翼ー、入るぞ」
コンコンというノックの音と共にフェインの声が聞こえてきて、こちらが返事をする前にフェインが入ってきた。
「出来たぞ、義手」
フェインの手にはシルバーの義手が握られていて蒼井さんに渡した。
蒼井さんは一通りそれをなめるように見るとフェインに戻した、が何故かフェインはそれを受け取らない。
「竜樹、翼の体を押さえつけとけ、絶対に動かないようにな」
「え、うん」
俺はフェインに従ってとりあえず蒼井さんの両肩を押さえつけてみる。
「長さや太さはこれでオーケーっと……翼、義手の本体を接合部にはめるからな、ちぃぃっとばっかし痛いけど我慢しろよ」
これ多分すごく痛いやつだ。蒼井さんも同じことを思ったらしく、「ソラスの痛みどめの魔法は?」と震えた声で聞いていた。フェインは勿論シカトしている。
「はいじゃあ、いくぞー。せーの! でいくからな」
「フェイントはナシで」
やられる側からしたらこういう時のフェイントはすごくイヤなのは知っているけど、やる側としてはこういう時はフェイントをしたくなるのも知っている。なので俺は黙って蒼井さんの肩を押さえつける。
「せーの!!」
ガギン!!
「いっっっっってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
良く響く金属音のような音が聞こえたと同時に蒼井さんの叫ぶ声が耳に響いた。
蒼井さんは身をよじらせ、声にならない声を上げている。
俺は、お疲れ様です、なんて思いながら蒼井さんを押さえつけ続けた。
結局蒼井さんは十分程声にならない声をあげて、身をよじっていた。十分も続く痛みってのも想像したくない。
「まぁ、あとは回復したらでも竜樹に手合せでもしてもらえ。闘いの幅が広がると思うからいろいろと試してみな」
フェインはそう言って部屋から出てった。
「大丈夫?」
「……梨深に会いたい」
嫁さんの名前を呟くとは、かなり辛かったんだな。実際蒼井さんは片腕を失くす大怪我をしているし、それ以外の怪我だって相当なものだ。普段は常に余裕を持ってる蒼井さんも、今回ばかりは少し参ってるようだ。
俺の場合は海香のおかげで立ち直ることが出来たが、今回の蒼井さんは心の休息が必要だ。
「…会いに行って来れば?」
「え? いいの?」
そう言った瞬間、蒼井さんの顔がパァァっと明るくなった。
「回復したら少し自由にして来たら? 海香には瞬間移動のお願いしとくし、みんなには俺から説明しとくから」
「じゃあ今回はお言葉に甘えさせてもらおうかな」
さっきの辛そうな顔から一転、ニコニコと嬉しそうな顔をしている蒼井さんを見てると、こっちまで笑顔になってくる。
「まぁ、ゆっくりしてきなよ」
俺はそう言って男子部屋を後にした。




