手術
俺は海香と一緒に久々にゴーヤチャンプルーを作ったり、作り方を教わりながら杏仁豆腐をなんとかつくってみたり、黒井竜樹特性から揚げを作った。因みにゴーヤチャンプルーをつくったのはボルクやカイエンに今まで黙ってた事へのちょっとしたお仕置きの意味を込めて、から揚げは俺に忠誠を誓ってくれたボルクへの感謝を込めてみた。
案の定ボルクやカイエンは物凄く嫌そうな顔をしながらゴーヤチャンプルーを何とか完食して、から揚げは幻獣連中は全員目を輝かせながら、うまいうまいと言いながら食べてくれた。そんなに喜んでもらえると作った側としても嬉しいものがある。
俺達はその後は各々自由に過ごした。俺は姉ちゃんに頼んで手合せをしてもらった。何で姉ちゃんなのかっていうとちょっとしたけじめのつもりで。なんだかんだで俺が一番信頼してるのは姉ちゃんなのかも知れない。お互いが作り物だって分かった今、お互いを恐れずに思いっきり殴り合えるかを確認したかったのだ。
俺は以前、姉ちゃんを傷つけてそれが理由で若干の溝が出来てしまい、姉ちゃんは俺が鱗を出した状態では近づけなくなった。俺も姉ちゃんに対して少し遠慮してたところがあった。
でもお互いに困難を乗り越えて成長が出来たかを確認したかったのだ。
姉ちゃんは少し考えてからオーケーしてくれた。因みに暇してた蒼井さんが審判をしてくれた。
結果から言って、勝負は俺が勝った。と言ってもいい勝負をしていて、姉ちゃんの攻撃の後の一瞬の隙をついて何とか勝てた感じだ。
蒼井さんから二人とも二時間も戦っていたんだよ、と聞かされたときは流石に俺と姉ちゃんは驚きを隠せなかった。俺の体感時間では三十分くらいだと思ったのに。
それと今回、姉ちゃんと手合せをしてみて初めて楽しいと思えた。多分それは姉ちゃんも一緒だったようで終わった後、すごい満足そうに笑っている。
最初のころに感じていた溝はもうお互い感じなくなっていて本当の姉弟になれた気がする。
その後のフェインが帰ってくるまでの三日ほどは俺は特訓をしたり、息抜きに沖縄の街を海香と楽しんだりとのんびりと過ごしていた。本当はこんなことしてる場合ではないことは分かっているが。
フェインが戻ってきてからは取ってきた材料で作った蒼井さんの義手を見せてもらった。それはシルバーに輝いていて、ダイヤモンドのように固い素材と鋼のようなものを配合して作った物らしい。そうすることでその義手の強度をより高くすることができ、熱にも寒さにも強いみたいだ。でも接合部に強い熱をくわえたり、強い冷気をあてたりすると肩の肉の部分が火傷したり凍傷を起こす可能性があるようだ。接合部だけはどうしても他の部分より少し弱くなってしまうらしい。
大まかな形や大きさはもうできてると言うので、あとは細かい調整だけらしい。
「そうだ、お前ら全員翼をイスに縛りつけといてくれ」
「え……」
フェインのその言葉に蒼井さんの顔は真っ青になっていた。でも俺達はそんなのお構いなしでイスに縛り付けた。
「ソラス、痛みどめの魔法は最低で何時間持つ?」
「ん~……三時間。でもこれは本当に体調が悪いときだから、今なら六時間はいけるぞ」
「そんだけあれば十分だ」
フェインはそう言って見たことない器具を多数、持っていたカバンから出した。
「翼、まずは義手の接合部と腕をくっつける。じっとしてろよ」
「言われなくても動けないよ」
蒼井さんは縛り付けられたまま苦笑いでそう言った。
聞くと接合部と腕のところの神経をつなげてから、本体を接合部にはめ込むらしい。
「お前ら、トラウマになりたくなかったら見るなよ。……ソラス始めてくれ」
フェインにそう言われたけど、自分の中で目をそらしてはいけないものだと思った。
はっきり言ってこれを目をそらさずに見ているフェインやソラスは本当にすごいと思った。気持ちが悪くなってしまうような音や血の量にとてもじゃないけど長時間見てられない。でも目を逸らしても、その場から立ち去る事はしなかった。誰一人として。
蒼井さんは痛みどめをしているにも係わらず、体力の消耗が激しいようではぁはぁと息を荒くして辛そうだ。
そして接合部を肩につけ終わったのは五時間が経ってからだった。
「よし……! 終わった……」
フェインは器具を机の上に置いてフゥーと一息ついた。
「翼、しっかりと休め。そしたら義手の本体をつける」
蒼井さんは返事も出来ない程疲労しているようだ。
「私が蒼井さんと一緒にいるから大丈夫だよ」
俺達は姉ちゃんの言葉に甘える事にした。といってもさっきの手術を見て少し気分が悪くなってしまった。それは海香も同じようで俺達は無言で部屋を出た。でも何をしたらいいのか分からない。
「竜樹」
「うん?」
海香にいつもより静かに呼ばれて俺は海香の方を向いた。
「蒼井さんとかフェインの為にさ、体力がつく物を作ってあげようよ」
「……そうだね。いつまでもこんなんじゃ仕方ないしね」
俺達は無理矢理に笑顔を作って、キッチンに向かった。でも妙に雰囲気が重く、会話もなくただ調理する音が響くだけ。
俺はこの雰囲気に耐えられなくなり、何とか口を開ける。
「海香って料理上手だけど誰かに教わったりしてたの?」
「あ…うん、お父さんに。仕事で三ツ星レストランのシェフしてるから」
「そ…そうなんだ……」
初耳だ。俺の中での海香のお父さんのイメージが、以前海香から聞いた変態おやじからかっこいいシェフになった。いや、かっこいい変態シェフ? よくわからない。
「………」
「………」
会話が続かない。どうにか海香との会話を続けようとするけど、俺はそんなに高いコミュニケーション能力を持っていない。
どうしよう……。
「痛っ!」
そんなことを考えていたら、包丁で自分の左手の人差し指に切れ込みを入れてしまった。
「……大丈夫?」
海香が鍋の火を止めて俺の左手を掴んで自分の胸のあたりに持ってきた。
「………」
「………」
「………」
「………」
「はい、治った」
そう言えば今フラスとソラスが海香の中に入ってたんだっけ。
フフッと静か笑う海香はとても魅力的で、一瞬怪我してよかったなどと考えてしまった俺がいた。念の為に言っておくが俺は決してマゾではない。決してマゾではない。
「ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
海香はもう一度フフッと笑って俺の手を離した。柔らかくて、しなやかに細くて、ほんのりと温かかった手を、本音を言えば俺はもう少し触っていたかった。
幸か不幸か、これがきっかけで痛いような沈黙が続いていた空気は、少し柔らかくなっていた。
メニューは、コロッケとハムカツ、メンチカツ、から揚げ、ポテトサラダ、きんぴらごぼう、ソーキソバ、ソーセージである。因みにソーキソバとソーセージは市販の物だ。
「竜樹さ、これが終わったらちょっと付き合って」
「え、あぁ、うん」
突然の海香の申し出に、俺は少し驚きながら返事をした。
とりあえず、十五分後にご飯が炊けて、その十分後に全部作り終わってからお皿に盛り付けてからラップをして、蒼井さんが起きるまで保存しとく。
そう言えば海香の用事ってなんだろう。というか、作り終わってから海香どっか行っちゃったし……。とりあえず海香が戻ってくるまでキッチンで待機してよう。
大体十分が経った頃、海香がキッチンに戻ってきた。ポーを抱いて。
そう言えばいたんだっけ、完全に忘れてた。
「ポー君とさ、お出かけしようよ」
ニッコリといつものように海香は笑った。
というかポーってオスだったんだ……。
「どこに?」
「ちょっと幻界にまで」
「え? ショッピングとか特訓とかじゃなくて?」
「うん。ショッピングとか特訓じゃなくて、幻界に」
なんでいきなり……。
「ボルテックスとかソラスちゃんとかいるから大丈夫だよ」
別にあまり心配はしてないよ、今まで何回か行ってるし。
因みに幻界の中央あたりにある大都市、『マイルズ』に行くらしい。目的は観光と情報収集。
俺達の求める情報はキングについて。もう少し詳しく言えば、『一年間は出られない地下牢からどうしてキングは半年足らずで出てくることができたのか』だ。どんな小さな情報でも俺達のプラスになるなら貪欲に求めていくつもりだ。
フェインや姉ちゃん、蒼井さんはここを離れられないし、アリエスも姉ちゃん達といると言っている。なのでマイルズに行くのは俺とボルク、海香とフラス、そしてポーだ。ポーはマイルズの生まれで、五年程前にビースト街に住み始めたらしいので少なくとも俺達よりは土地勘がある。
「じゃあゲートまで行こうか」
俺は翼を出してから海香の方を見た。
「あれ? 竜樹は知らないんだっけ。瞬間移動が出来るようになったんだよ」
へー、それは知らなかった。確か魔女の中でも上位の中の者しかできないんじゃなかったっけ? 海香も成長してるんだな、俺も成長できてるかな。
「少し離れたところに出るようにするから」
いきなり街中に人が出現したら混乱になるからな。
「じゃあちょっと待ってて」
海香はそう言って両手を組んで聞きなれない言葉を小さく唱え始めた。それは思ったよりも長く、大体一分ほど経ったところで俺と海香とポーの体の周りが白い光に包まれた。
すると一瞬のうちに辺りの風景が海香の家のキッチンから、見慣れない木々に囲まれた人気のない森になった。




