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幻の獣と人の世界  作者: お終い
第1章【竜王キング編】
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生きる意味

「なぁ、何で黙ってたんだ」

「…すまない」

 さっきからずっとこんな感じだ。俺がボルクに話しかけても返ってくるのは「すまない」とか「悪い」とかって言葉ばっかりで会話が成立しない。

 俺も別に会話を望んでいるわけではなく、話しかけてるのだって別に返事してほしいからってわけではない。いつの間にか自分の口から無意識のうちに言葉が流れ出してくるような感じだ。


 ずっと、ずっと考えている。今の自分の生まれた意味、生きてる意味を。考えているけど全く答えがでない。今までの俺の記憶や体験、それがすべて嘘っぱちの作り物だって分かった時、俺は頭の中が真っ白になった。多分火月さんも同じ思いをしただろう。

 俺は最初に人を傷つけた。例え相手が強盗であっても俺は彼らを半殺しにした。確か正当防衛ってことで警察の人たちは片づけてくれたけど、本当にそれはそうだろうか? 正当防衛っていうのは両方が人間同士だから成立するものであって、一方が人で無ければそれは成立しない。俺は人ではない、知らないとはいえそれでよかったのだろうか?

 さっきから自分の中で疑問がいくつも浮かんでくるのに一つも解決しない。

「なぁ……」

 始めてボルクから話しかけてきてくれた。俺はそれに対して返事はしないで黙っていた。

「タツは、後悔してるか?」

 何を、とはボルクは言わなかった。でも何に対することだかは分かる。生まれてきたことについて、生きてる事についてだ。

「…………」

 答えられなかった。いや、正確にはなんて答えたらいいか分からなかったって言った方が正しい。

 実際どうだろうか、俺が今まで本当に生きてきた三年間は後悔してるだろうか? この三年間の出来事はどうだろうか。

 貴浩、山木貴浩は俺が生きてたなかで本当に出会って、本当に親友になれた人物だ。あいつは、俺が作り物だってわかったらあいつはどんな顔するんだろう。悲しむかな、それとも俺の事を避けるようになるかな。きっと…俺の事を避けるようになるんだろうな、大丈夫、孤立するのは慣れてる。記憶の中では十分に孤立していた。いや違う、貴浩はそういう奴じゃないってのは分かってる、きっとそれでも俺と親友でいてくれる。今は何を考えてもマイナスの方に思考がいってしまう。


 ガラガラとドアの開く音が聞こえて誰かが入ってきた。誰だろう、今は別に誰でも気にならない。誰かがあおむけになってる俺の横に来て喋っている。多分、海香の声だ。ずっと喋ってるけど全く耳に入ってこないし、別に興味もない。今は何にも興味がわかないし、何する気にもならない。

 いつまでいるんだろう。早く出てってくれないかな。

「…………いよ」

 何を…言ってるんだ、聞こえないよ。

「いなくなったら……寂しいよ……」

 何故かはっきり聞こえたその言葉は少しかすれていて、ポタポタと床に数的垂れた涙をそのままに海香は目元をぬぐって部屋から出てってしまった。


 いなくなったら寂しいよ。


 何故かさっきの海香の言葉が頭の中から離れない、既に海香が出てって数十分経ったのに。

 いなくなったら寂しい、か。俺がいなくなることで悲しんでくれるのか、海香は。まだ会って一年も経ってないのに俺の存在が必要だと言ってくれるのか。

「………」

 目元から一粒の涙がこぼれてきた。海香はこんな俺を、作り物の俺を、人間ですらない俺を、必要としてくれているのか。

「………ッ」

 何でだろうか、涙が止まらない。いなくなったら寂しいよ、って言葉は生きててもいいんだよ、ここにいていいんだよと言われたような気がして涙が止まらなかった。

 そうか、俺はきっと誰かに生きててもいいんだよって言って欲しかったんだ。誰かに俺の存在を認めてほしかったんだ。いや、誰かじゃダメなんだ。きっと、心から信頼をしていた人、思いを寄せていた人、蒼井さんや海香にそう言って欲しかったんだ。

「……ッ……ッ……」

 そう分かった瞬間、もう俺の目から溢れてくる涙は止まらなかった。


 理解できた。俺の存在を許してくれる人を俺のすべてをかけて守る事、こんな作り物の俺を認めてくれる人達を認める事。それが俺の生きる意味。








「今まで黙っていて済まなかった」

 俺が何とか落ち着いた時にボルクが謝罪の言葉を口にした。

「そんな言葉は何回も聞いた、だから黙っていた理由を教えろ」

 俺はボルク、いやボルテックスを、フラスをカイエンを赦したわけではない、自分の中で生きる意味を見つけただけなんだ。

「……単純に言い出せなかったんだ。すまない」

「謝らなくていい」

 俺は少し強気に出てしまった。

「俺は考えた。すまんが表に出てもらってもいいか?」

 俺はそう言われて何も考えずに海香の家の広い庭に出る。

 庭に出た瞬間、腕がピカッと光ってボルテックスが俺の前に出てきた。そしてボルテックスはその巨体の片膝をついて頭を深々と下げた。

「この幻界の守護幻獣の一体、ドラゴンのボルテックス。黒井竜樹の命が尽きるまで何があっても付き従う事を誓う! 黒井竜樹が望めば俺は盾となり、矛となり、あなたを守ろう!」

 今まで聞いたことのない覇気のこもった声で頭を下げたままそう言った。

「わかった、頼りにしてるぞ。それともう隠し事はナシだ」

「あぁ」

 俺はボルクに向かってゆっくりと右の拳を突き出し、ボルクは俺に向かってゆっくりとその大きな左の拳を突き出した。コツンとお互いの拳がぶつかる音がして俺達は二ィと笑うことが出来た。





 ボルクは俺の中に戻り、俺は姉ちゃんのとこに行ってみることにした。

「入るよ」

 姉ちゃんの部屋の前でそう言って俺はドアを開けた。すると姉ちゃんは床に座って窓の外を眺めていた。

「竜樹は…もう大丈夫かい?」

「うん」

「そうか、私ももう大丈夫だから」

 そう言って俺の方を振り向いた姉ちゃんの顔は、涙が流れた跡があり、少し目元が赤くなっていて泣いていたんだとわかる。でも俺はそのことには触れなかった。だって泣いてたのは俺も同じだしな。

 赤くなっている目元のとは違って目には強い意志があることが感じとることができた。

「私達は後悔しないように生きよう」

「あぁ」

 姉ちゃんに笑顔でそう言われて俺も笑顔で言葉を返した。




 俺と姉ちゃんは庭に出てその隅にあった、最初沖縄に来た時に入った小さ目のテントがあったのでその中に入ってみた。するとその中では海香とアリエスが手合せをしていた。

 俺と姉ちゃんは邪魔しては悪いと思って、入ってすぐのところでしばらく二人を見ていた。

「もう大丈夫かい」

 数分してからそう言って蒼井さんが入ってきた。そしてしばらくは三人で二人の迫力のある手合せを見ていると、海香がこっちに気付いたみたいで俺達の方を見てくる。

「かづに竜樹! もうだいブッ!!!」

 言葉の途中で海香の顔にアリエスのストレートが直撃して、海香は数メートル程吹っ飛んでしまう。

「おう、二人ともよく頑張ったな」

 アリエスは落ち着いた口調でそう言いながら、汗を拭って俺達のほうに歩いてきた。

「ちょっと待ってよ!! 何で私の事はスルーなわけ!?」

 海香ががばぁと立ち上がって俺達の方を見ながらそう叫んでるのを俺達は苦笑いで見つめる感じになってしまう。

「お前達もう大丈夫なのか」

「あぁ、心配かけて悪かったな」

「だーかーらー! 何で私の事はスルーなわけ?」

 俺とアリエスの間に割り込んできた海香は頬をぷくぅっと膨らませている。

「海香もありがとうな。俺は海香のおかげで立ち直れたんだ」

「……うん」

 さっきの勢いはどこへ行ったのか、海香は頬を赤らめて小さくうなずいた。

「さっき殴られてたとこ大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫だよ」

 本当にさっきの勢いはどこに行ってしまったのだろうか。

「おいおいお前ら、いちゃつくなら人目のないとこでやってくれ。流石に目の前で始めたられたらは困るぞ」

 アリエスが俺達の間に、にゅうっとゆっくり入ってきて真顔でそう言い放った。

「「ばっ……!」」

 海香の顔からボッと湯気が出てきて、顔が真っ赤になって俺と海香の声が重なった。

「うみちゃんの胸って小さいけどすごくやわらかいよ」

 フラスが海香の中から出てきて俺の耳元でそう優しくささやいてきた。

 ……そうか、やわらかいのか。

「竜樹、今考えたでしょ!?」

「ば…ばっっか!! 考えてねーよ!!」

 姉ちゃんに思考を読まれた。読心術が使えるなんて聞いたこと無いぞ。

「あー…いらない心配だったか。竜樹はチキンだし童貞だもんな」

「うるせぇ!!!」

 くそ、なぜこんなにも俺は女性陣にいじられるんだ……。

 因みに海香は下を向いたまま顔を赤くしていて、ソラスは理解できないのか海香の中から出てこない。蒼井さんはニコニコとみんなの事を見ている。なんで蒼井さんはこんなにも落ち着いているんだろう。



 何だろうか、すごく心が清々しい。今までにないような心の落ち着き方だ。真実を聞いた時に心に引っかかった何かがすぅっととれたような感じだ。


「それよりさ、ご飯にしようよ。私お腹空いちゃった」

 赤みが引いた顔をあげて、海香はみんなの方を見てそう言った。

「賛成!」

「それもいいな」

「あぁ、そうしよう」

 みんなそれに賛成だったのでそこの入口近くにあるキッチンで俺と海香は料理を始めた。

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