決意
「……逃げたか」
キングはその場にたたずみながら空を見てそう言った。
「よく言うよ、逃がしたんでしょ」
キングの足をトントンと叩きながらそう笑うシリム。
「……争っても親子だからな、一回くらいはチャンスをあげたくなるものさ」
「それにしても父上、ボルクと一緒にいたあれは―――」
「あぁ、思ったよりやるな。あれの心が崩れたから楽にいけたがもし崩れなかったら少し苦戦したかもな」
キングはそう言いながら攻撃を受けた場所をさすっている。
「それにグリフォンといた人間も見上げた根性を持ってるな。あいつらが俺達の目的の最大の壁であることは間違いないな」
「つまりあいつらを倒せば父上の絶対統制を作れるも同じですね」
アスガルトがキングの言葉の後にそう続けた。
「というかこれからどうするの?」
シリムが二体を見てそう言った。
「城に戻る。奴らは絶対にまた俺達のところに来る。だからこちらも万全の準備をして奴らを待つ」
二ィと不気味に笑うキングはそう言って自分の城に向かって飛び始めた。シリムとアスガルトもキングに続いて飛び上がった。
「みんな、ちゃんといる?」
私はそう言ってみんなを見た。フェインとアリエスしか返事をしなかったけど、その二人以外は返事出来るような状態じゃなかった。
「それよりも海香、早く翼の治癒を」
人狼型のフェインにそう言われて、さっきからピクリとも動かない蒼井さんのもとに駆け寄って私はソラスちゃんの力を使って治癒を始める。蒼井さんの怪我は時間がかかるが全部治せるだろう、でも無くなってしまった左腕をまた生やすことは私には出来ない。どんだけ頑張っても今の私には傷をふさぐのが精いっぱいだ。自分の力の足りなさがすごく悔しい。
「そう言えばどうして私たちのところに?」
私は悔しさを自分の中に押し込めてからフェインに聞いた。
「なんだ、不満か?」
「すごくありがたいですけども」
私は素早く否定の言葉を口にする。
「リフから通信が入ったんだ。キング達が現れた、と」
恐らくかづが貫かれた時には二人を呼んでいたのだろう。
「それよりも海香の傷は大丈夫か?」
アリエスに心配そうにそう言われた。
「一応血は止めたから平気。後でちゃんと治すけど」
私はそう言いながらも蒼井さんの治癒を続ける。思ったよりも傷が酷くて治りが遅い。あまり長く時間がかかってしまうと、私の傷が開いてきてしまう可能性がある。
「うみちゃんの傷は私が治すよ」
フラスちゃん私の中から出てきて私の治癒を始めてくれた。おかげで私の方はほとんど完治した。
竜樹とかづはというと、ずっと魂が抜けてしまったように動かない。目にも生気がなく、もう涙も出ないようだ。
「あいつらはどうしたんだ?」
少し時間が経ってから人型に戻ったフェインが二人に親指を向けて私に聞いてきた。私は今回の事をすべて二人に話した。勿論信じられないようだったが、フラスちゃんも説明してくれて信じてもらえた。
「―――お前!」
説明が最後まで終わらないうちに、フェインがフラスちゃんの胸倉をつかみ、壁に勢いよく押し付けた。ドン、という音がしたけどフラスちゃんはフェインをまっすぐに見つめるだけで何もしゃべらない。
「分かってるのか! 命を作るということは―――」
「分かってる。どんな罰も受けるつもりよ、竜樹が奴隷になれと言うならそれに従う。火月ちゃんが死ねと言うならそれに従う。ただ……仕方なかったんだ、あのと―――」
フラスちゃんの言葉を遮るようにパチンという音がして、フェインがフラスちゃんの頬を叩いた。
「分かってない! そういう事を言ってるんじゃないだろ! 命を作るということは、その命が無意識のうちにお前の思い道理に動いてしまう人形になるってことだ!! お前とのリンクを外さない限りな」
フラスちゃんは下を向いたまま何も言わない。
私は驚きのあまりに治癒の手が止まってしまった。でも慌ててすぐに再開する。
「どうせお前の事だからリンクを外してないんだろ」
フェインが掴んでいた胸倉を離してそう言った。フラスちゃんは何も言わずに下を向いたままだ。その態度はフェインの言葉を肯定しているようなものだ。
フェインが教えてくれたのだが、思い道理に動いてしまうといっても大体七割程度だという。完全に思い道理に動くというわけではなく、例えば十回買い物に行って適当にお菓子を買ってもそのうちの七回は必ずフラスの好みのものを買ってきてしまう、みたいな感じらしい。
私はそれを聞いてもぼんやりとしか分からなかった。
「それに、あいつらは普通の人間よりも脆い。肉体的にってわけじゃなくて幻獣の力が引き出されやすい。だからしっかりと制御できてないと暴走したり、勝手に能力が発動してしまうことがある。普通の人間は暴走することなんて絶対にない」
私はそうなのか、とも思ったが同時にフェインは何でそんなに詳しいんだろうとも思った。
「幻界の歴史上、人間に宿るという事自体そんなに珍しくなかった。戦争が起きたり、革命がおきたりした時にはな」
「フェインはなんでそんなに詳しいの?」
私は気になったのでフェインにそう聞いた。
「……俺は過去に人間の親友がいた。でもそいつが事故で死んで生気を失っていた俺の前にシリムが現れて、そしてそいつを作ってくれた。俺は勿論喜んだが、時が経つにつれて何か違うと思っていろいろと調べたんだ。それで詳しくなった」
遠い目をしてそう言ったフェインの言葉を私達は黙って聞いていた。
「だから本来ならこんなことを言える資格なんてないんだ。すまんな」
フラスちゃんの方を向いてフェインは静かにそう言った。フラスちゃんは全く喋らない。
「それよりもあいつらはこれからどうするんだよ」
アリエスが二人に親指を向けながらそう言った。
実際どうしたらいいのだろう。今の私には竜樹やかづの本当の気持ちなんて理解できないし、ましてや励ますなんてことは難しい。勿論、理解しようと努力はするけどそれでも私たちが出来る事なんて限られている。蒼井さんだって目を覚まさないし、覚ましたところで左腕が無くなってしまっている。本当に今、私がすべきこととはなんだろうか。
「二人には何とか自分の力で乗り越えてもらうしかないと俺は思ってる。俺達がしてやれる事は精々背中を押してやることぐらいだ」
フェインはそう言うけども、背中を押してあげるっていってもどうしたらいいんだろうか。
アリエスからルイ達の事を聞いた。何とかアリエス達はミーナとレイを助け出すことは出来たみたいだった。そして今はルイ達とは別行動をしていて竜王の統制に反対している幻獣達を集めてまわってくれているのだとか。
私はそれを聞いて少し安心した。多分、次にキングと対峙するときは向こうも万全の準備をして私達を迎え撃つだろう。それに仲間は多い方が心強い。
「あの~……」
聞いたことある声が聞こえた方を向くとそこにはポーがいた。自分で連れてきたのにすっかり忘れてた。
「僕も微力ながら力になります」
「ありがとう」
私はまっすぐにこっちを見つめるポーにお礼を言った。
その後私達は各自自由に過ごした。でも私は蒼井さんの治癒を続けてそれが終わったのはこっちにきてから半日が過ぎてからだった。蒼井さんの傷は全部治したけどまだ体力を回復させるために眠っている。
さっきフェインは蒼井さんが起きたら彼の義手を作るから、と言って出かけた。私も少し疲れたので眠った。
―――夢をみた。
私がキッチンに立って、いつもの席に座った旦那さんが新聞を読みながら朝食を待っている。そして可愛いパジャマを着た小学生くらいの女の子が目をこすりながらリビングに入ってくる。ドタドタって音がして寝ぐせボーボーの頭で、制服のボタンが一個ずつずれてる中学生くらいの男の子が慌てて二階から降りてきて時計を二度見して遅刻してないことに安堵していつもの席につく。私はそれを見てクスクスと笑いながらテーブルの上にご飯を並べてく。
「夢か……」
そこで目が覚めた。何だかとても気分が良い。時計を見ると三時間程経っている事に気づく。
私は蒼井さんや竜樹達の様子を見に行こうと思って立ち上がった、はずだった。
「あふぅ……」
足が痺れた。
「よいしょ」
足の痺れがとれたのでおっさんみたいだなー、とか思いながら立ち上がって部屋のドアを開ける。するとソラスちゃんが私の中から出てきた。ソラスちゃんは大きなあくびと伸びをしているので一緒に眠ってたのだろう。
ソラスちゃんと一緒に竜樹達がいた部屋に戻ったけどそこには二人はおらずに、その二人以外がそこにいた。よく見るとフラスちゃんもいない。聞くとみんなそれぞれ自室に戻ってしまったという。
私は一人にしてもらってから竜樹のとこに行った。
「竜樹ー? 入るよ」
私はそう言ってドアを開ける。すると竜樹は床にあおむけに寝転がってじっと天井を見つめていた。私は竜樹のもとに歩いて行って竜樹の顔のところでしゃがんだ。
「ねえ、覚えてる? 私と竜樹が初めて会った日に竜樹がお風呂に入ってきて私たちの裸を見たんだよ?」
いつもの竜樹ならあたふたしそうなことを言ってみたのに全く反応がない。そういう反応されるってわかってたけど少し寂しい。
「この場所でみんなで特訓もしたよね、それにみんなでご飯も食べた。あ、そうだ。竜樹、前に杏仁豆腐の作り方教えてほしいって言ってたよね? 沖縄に戻ってきたことだし作ってみようよ」
私は竜樹に背中を向けてそう言ってみるけど勿論何も反応はない。まるで死んだおじいちゃんのお墓に向かって話しかけてるようで少し寂しく思う。
「竜樹が作られた人間だって初めて聞いた時は私もびっくりしたけど、それでも私は竜樹とかづに生きててほしいな。……へへっ、なんか私が死ぬみたいな言い方だね」
……若干ミスったかも。今言う冗談じゃなかったな。
「竜樹も私の大事な仲間なんだよ、いなくなったら私は…寂しいよ」
分かってる、自分の中に竜樹に対して『仲間』以上の気持ちを持ってることを。こんな時に素直な気持ちを言葉に出来ないなんて少し自分がイヤになりそうだ。
「いなくなったら……寂しいよ……」
いつの間にか私の頬を涙が流れていた。なんで今流れてくるんだろう、辛いのは私ではなく竜樹達なのに。私に出来るのはこのくらいしかないのかな、いや、何も出来なかった。ただただ、竜樹に向かって一方的に言葉を放っただけ。
「今、竜樹が何を考えてるか私には分からないけど、絶対に私と、私達と一緒にいようね」
声にならない声でそう言って私は部屋を出た。まだ、涙が目元から溢れてくる。
「お疲れ様」
ドアを出たとこに左肩に包帯を巻いた蒼井さんが立っていた。
「体の方は…大丈夫?」
私は涙を拭ってからとぎれとぎれにそう聞いてみる。
「大丈夫だよ、ありがとうね。僕もさっき目が覚めて火月ちゃんのところに行ってきたよ」
「うん」
「二人とも強い子だから心配ないよ」
「……うん」
拭ったはずの涙がまた溢れてくる。かづの方も気になるけど蒼井さんが行ってくれたし、そう何度も行ってしまってはかづの心の整理も出来ないだろう。
「あ、そうだ。フェインが蒼井さんの義手を作ってくれるって言ってたよ。今、材料を取りに行ってる」
私はもう一度涙を拭ってから無理矢理に笑顔を作ってそう言った。蒼井さんは「そうか」って言ってリビングに戻って行った。
今の私に出来る事、それは信じて待つ事かな。
少しかっこつけてみたけど、誰が見てるわけでもないのに少し恥ずかしい。
でもその時のために私は少しでも力をつけないと。フラスちゃんにも元気をだしてもらって、ソラスちゃんにも頑張ってもらって。でもそんなに簡単にはいかないことは分かってる。今、フラスちゃんの中にある罪の意識を少しでも私がほぐしてあげないといけない。そのためのパートナーだもん。
「よし!」
私は自分の頬をぺチンと両手で叩いて気合を入れる。……少し強く叩きすぎてひりひりする頬をなでながら私はリビングにいるソラスちゃんを連れてフラスちゃんのいる部屋に行った。
「うみちゃん、ソラス」
部屋に入った瞬間フラスちゃんの少し悲しそうな私達を呼ぶ声が聞こえた。
私とソラスちゃんは「うん」と返事して部屋に入った。
「私ね、考えたんだ。これから二人の為に何をしたらいいか、どうしたらいいかって。あ、勿論二人とのリンクは外したよ、フェインの目の前で。一回外したらもうつなげられないから大丈夫だよ。それで思ったんだ、私の持てる力のすべてをかけて二人を守るって。誰になんと言われようと二人を守るって決めたの。それが私の二人に対する償い」
フラスちゃんの目は生気がこもっていて強い目をしているのがわかった。フラスちゃんの方はもう大丈夫そうだ。
「じゃあ、強くなるために特訓しないとね」
私は二人をみてそう言った。二人は力強くうなずいて、アリエスに頼んで私たちは一緒に特訓を始めた。




