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幻の獣と人の世界  作者: お終い
第1章【竜王キング編】
39/54

姉弟の真実

 ズボッという生々しい音と共に姉ちゃんの体からシニアの腕が抜かれた。

「あぁぁ!」

 姉ちゃんはそううめいてその場にドサッと音をたてて倒れてしまった。俺達は状況が理解出来ずにただただ、姉ちゃんを見つめる事しかできない。

「あーあ、やっちまったな、父上。まぁ丁度いいかもな」

 トマトとシニアとキリミナ以外は。トマトの声が聞こえた後はシニアの声が聞こえてきた。

「……もういいぞ、シリム」

「シ、シリム!?」

 フラスの驚いた声が聞こえたと同時にシニア達三人の姿が一瞬蜃気楼のようにぼやけて、みるみる姿が変わっていく。

「…久しぶりって程でもないな、人間」

「あの場所は狭かったぞ…」

「ふっ…」

 一体は見たことがある姿をしていた、いや正確には二体の姿は聞いたことがある特徴をしていた。

 トマトだった方はは全身水色の鱗をしていて目つきが鋭くボルクと同じくらいの体の大きさをしていて、シニアだった方は全身が漆黒と言った感じの黒い鱗をしていて体の大きさはボルクよりも二回り程大きい。

 俺は一瞬でその二体が何者なのか理解してしまった。アスガルトと竜王キングだ。キリミナだった方は見たことがなかった。


「かづ!!」

 海香のその声で俺の体の硬直が解け、姉ちゃんの方に駆け寄った。

「大丈夫……治る」

 そう言いながらカイエンの再生能力で姉ちゃんの胸の穴が塞がっていく。

「なんだ、つまらん」

 キングの声が聞こえてきたような気がしたが、そんな事より俺の中でキングに対する怒りがふつふつと湧き上がってくる。


「久しぶりね、フラス、ソラス」

「……」

「……」

 シリムが二人を見ながらそう言ったが二人はシリムの方を見ようとせずに目を逸らしている。

「感動的な親子の再会だっていうのにそういう反応されると流石に私も少し凹んじゃうわ」

 ……親子? シリムって二人の母親なのか!? それにしてはフラスとソラスがさっきよりも明らかに挙動不審だ。

「シリムはフラスとソラスの母親だ」

 俺の心情を感じ取ったのか、ボルクが説明し始めてくれた。

「フラスとソラスは元々魔女の中でも力が強い方ではなかった、むしろ落ちこぼれだった。それが気に入らなかったシリムは何かと理由をつけては二人を虐待した。二人はそれが怖くて沢山修行して今の力を身に着けた。でも二人が力をつけた時には既にシリムは行方知れずってことだ」

 いつもは明るい二人にそんな過去があったのか…。

「シリムは元々上位のS級で魔女の中でもダントツの実力をもっている。今の強くなった二人でも勝てるかどうか……」

「なに言ってんのボルテックスちゃん、今の二人でも私の足元にも及ばないわよ。昔よりは少しはマシになったみたいだけどやっぱグズはグズね」

 シリムの余裕そうにそう言うが満更ウソには見えない。

 フラスとソラスは明らかにシリムに怯えているのが見て分かる。過去のトラウマというのは簡単にはぬぐえない事を俺は知っている。

「へ…変身魔法…?」

 フラスが消え入りそうな震えた声でシリムに問いかける。でもシリムはそれには答えないでキングとアスガルトの後ろに歩いて行く。シリムがこっちをチラッと見た、ような気がした。瞬間、俺達は立ち上がることすらできなくなりその場にひざまずく形になってしまう。海香がまだ震えている二人に気合を入れていて何とか三人とも正気を保っているようだ。

 みんな辛そうな声を上げて立ち上がろうとするが誰一人立ち上がることが出来ない。まるで何百キロものおもりをのせられたような――――――。

「重力魔法よ、あんた達に使えるかしら」

 軽快にそう言うシリムはとても余裕があるように見える。

「「「バカに…しないでよ…!!」」」

 重なった三人の声が力強く放たれるとズシンという音をたてて体の中に二人を宿した海香が立ち上がる。海香の目はまっすぐに(シリム)をにらみつけており、隣で見上げる形になった俺にもその迫力は伝わってくる。

「―――相殺!!」

 海香が力強くそう言うと体全体にかかっていた重さがスウゥと無くなり立てるようになった。

「うらぁぁぁぁ!!」

 俺が立ち上がると同時に蒼井さんが風斧を持ってキングに切りかかる。でもキングは避けるそぶりも、ガードするようなそぶりも全くせずに蒼井さんが振り下ろした風斧はガキィンという音をたててキングに激突した。

「…いい武器(モン)持ってるのに使い手がダメだな」

 見て分かる通りキングには全くダメージがなく、代わりに風斧を握る蒼井さんの手から赤い血が垂れてきていた。

「……!!」

 蒼井さんは驚きのあまり声が出ないようで自分の手を見つめている。するとキングが蒼井さんに向かって大きく息を吐いた。それはは台風かハリケーンかと感じるくらいの強風で、蒼井さんは俺達の遠く後ろまで飛ばされて瓦礫の中に埋もれてしまう。

 その後に姉ちゃんが赤い炎を全身に纏ってアスガルトに向かって突進をする。でもアスガルトはそれをするりとかわして姉ちゃんの背中を尻尾でバシィと叩きつける。姉ちゃんは苦しそうな声を上げて吹っ飛んでしまう。でも数メートル吹っ飛んだ所で姉ちゃんは足を地についてガガガガと音をたててなんとか踏みとどまる。そしてぐるっと半回転して赤い炎の火炎放射を勢いよくアスガルトに向かって発射する。

 ゴォォという凄まじい音がしてその炎がアスガルトに当たる直前、アスガルトは大きく息を吸って吹雪のブレスを吐き出す。

「な…!」

 姉ちゃんがそう驚いてしまうのも当然だ。俺達の誰もが言葉を失ってしまった。なぜならその炎がアスガルトのブレスで凍ってしまったからだ。炎が凍るなんて聞いたこともない。

 そしてゴロンとそれは地面に落ちてアスガルトがそれを拾った。そしてこっちを見るとそれを俺達の方にぶん投げてきた。

「いたっ!」

 海香がそれを避けようとしたがさっき魔法を使った時に痛めたであろう足首に痛みが走ってしまったようで動けなかった。


 ―――バチバチバチ!!!


 その氷が海香に当たる直前に俺はなんとかそれに狙いを定めて超電磁砲を放った。

 ガキィィィン!!! という音と共にその氷塊は細かく砕けて、そのコンマ数秒後、俺は雷銃をしまい、キングに向かって走り出す。右の拳に電撃を纏って全力でキングに向かって放つ。

「ぐっ……」

 ズガガガという音がしてキングを少し後ろに下がらせた。

 俺は左の拳にも電撃を纏い、息つく暇もないほどの全力のラッシュを叩き込む。

 明らかにダメージを与えているはずなのになぜか全く倒せる気がしない。とても気持ち悪い、不快な違和感。

「―――ッ―――!」

 自分のラッシュの隙間からキングのこちらをにらみつけるような―――格上の視線とでもいうのだろうか―――を感じてしまい俺は全力で後ろに数メートルダッシュで下がってしまう。

「……どうした?」

 キングのその言葉からは余裕を感じる。

 ……俺が一方的に攻撃したはずなのにダメージを与えられた気がしない。竜王(キング)の力の底が見えない。

「……なかなか、悪くない攻撃だったぞ。今のは」

 ……違う。こいつは本心からそう思っているわけではない。それはまるで子供の機嫌をよくするようなお世辞で、人間の攻撃がドラゴンであり、そして幻界の王である自分に届くはずがないと確信している絶対的な自信と余裕を感じる。いや、感じてしまっている。俺はキングに初撃を与えた時から『倒せない』と心のどこか奥でそう思ってしまったのだ。その理由は圧倒的な力の差。

「もう終いか? なら俺達の番だな」

 ―――まずい! こいつの攻撃をくらってしまったら確実に死人が出る。そう思った俺はキングに向かって雷銃を構えて電撃の弾を連射する。

 キングはゆっくりと攻撃態勢に入ろうとしていたが俺の攻撃をみてそれをやめた。そして俺が撃ち続ける弾を器用に尻尾で全てはじいていく。

「…終わりか?」

 ダメだ、こんな電撃の弾をいくら連射したところでこいつらにはダメージを与えることは出来ない。

「竜樹君」

 蒼井さんにそう呼ばれて俺は蒼井さんを見つめる。瞬間蒼井さんが言おうとしていることが分かり俺は無意識に少し口角を上げて頷く。

「いくよ!」

 蒼井さんのその掛け声と共に俺は雷銃の銃口を敵である三体に向けてから蒼井さんの方をチラッと見る。

 試したことはないが二人の息を合わせて今やるしかない。

 俺は雷銃に全力の電撃を流し込みそれを思いっきり超電磁砲として打ち出す。瞬間、蒼井さんが手の平から竜巻が出てきて超電磁砲と融合してアスガルトの体程に大きくなり、そしてより早く三人のもとへそれは向かっていく。

「!」

 キングはそれを右手で受け止める。が、勢いはなくならずにズガガガと音をたててキングが勢いよく後ろに下がっていく。キングは左手も出して完全な防御の体制をとって受け止めるがそれでも勢いは死なない。

「うらぁ!」

 でもキングは掛け声と共にそれをバンと押しつぶした。

「…思ったよりいい技だったぞ、作り物のくせにやるじゃないか」

 口元から垂れてきた血を拭いながらそう言うキングの最後の言葉が気になってしまう。

「作り物ってなんだよ…」

 俺はまっすぐにキングを見つめながらそう言った。

「なんだ、聞いてないのか。お前は、いやお前達はフラスによって作られた人間の形をした作り物なんだよ」


 ―――は? 俺達姉弟が作り物…? 何を言ってるんだこいつは、そんな事あるわけがない。

「ど…どういう事……?」

 姉ちゃんは震えた声でそう聞くとシリムがそれには答えた。

「キング様との戦争で大怪我をしたお前達は波長の合う人間の体で休ませてもらった。お前達の体に鱗やら羽毛があったのはいつからだ?」

 確か物心ついた頃、まだ俺達が幼かった時だったはず。

「子供の時からって思ったはずだ」

 姉ちゃんもそれを聞いて頷いた。

「ここまで聞いてまだ気づかないか?」

 何がだよ、まったく分からない。

「たかが大怪我くらいで十五年近くも休息をとるバカがどこにいる」

 ―――!!! 確かに、長すぎる。後遺症などがあったならまだしもそんなのは聞いたことがない。

「キング様とボルテックス達の戦争が始まったのが約三年前、そしてキングが閉じ込められてボルテックス達が逃げたのが約一年前。ボルテックス達は戦争を始める前にもしもの事を考えて波長の合う人間を探しておいた。でもボルテックスとカイエンはそれが見つからなかった。だからフラスに作らせた、『ニンゲン』の形をした器を」

 ………どういうことだよ…。訳が分からない。さっきから幻獣達は全く喋ろうとしないし聞こうとしても俺も言葉を発することが何故かできない。もしそれが本当なら母さんたちは? 小学校とかの記憶は?

「で…でも私達…には両親がいる」

 姉ちゃんのかすれた小さな声が聞こえ、それにはフラスが答えた。

「適当な夫婦の中に竜樹と火月って記憶と一緒に入れた。……いつかは話さなければって思ってたよ…………」

「で、でも私達には幼い頃の記憶もあるし……」

「ごめん、それも私が作ったニセモノの記憶……本当にごめん」

 フラスの言葉なんて俺の頭には入ってこないですり抜けていくだけ。でも一つだけ理解できた。俺達は幻獣の為に作られたモノだってこと。


 俺の頬に僅かな滴が流れてきたのが感じた。

 別に今日は雨なんて降ってないのに。……俺の涙か。

 姉ちゃんも静かに涙を流している。

 いや、姉ちゃんじゃなくて火月さんか。だって姉弟どころかそう言う設定で作られたモノだったんだし。

 モノなんかが世界を救えるわけがない、ましてや戦えるはずなんて―――。




 ――――――もうどうでもいい――――――



 火月さんだってさっきから全く動いてないし。

 俺達はこれからどうすればいいんだろうか。

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