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幻の獣と人の世界  作者: お終い
第1章【竜王キング編】
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西の海

 俺は水で濡れて湿っぽいミリアをおんぶしながら湖の周りを歩いた。

「人魚ってずっと水の中で生活してるの?」

 なんとなくで聞いてみる。特に深い意味などない。

「一応陸に出ることも出来るけどそん時は人魚用の足が必要なの」

「足?」

「うん、イスに丸い物を動くようにつけただけのものなんだけどね」

 水が乾くと少し苦しいって言ってたし人魚ってどちらかと言ったら人間よりも両生類なんかに近い生態なのかもな。

「人魚って種族は多分例外なく陸に、陸で生活する者にあこがれを持ってるの。陸で生活してる者と関わりを持ちたくて」

 ミリアは小さな声で呟くように言った。

「そう言えばミリアは何で湖に? 人魚って普通大きな海とかにいるんじゃないの?」

「私も昔は幻界の西の方にある大きな海に住んでたんだよ。でも何年か前に奴隷として掴まって売られたの。それで買った幻獣に反抗したらそいつ怒っちゃってあの湖に捨てられたの。ここが雲空島ってのはわかったけど、逃げられなくてあそこにいたの」

「じゃあ西の海に連れてってあげるよ」

 何でそんな事言ったのか自分でも分からなかった。親切心なのか、何なのかわからない。

「ほ…本当!? でも体が乾いちゃうから…無理…かな。気持ちだけもらっておくよ」

 おんぶしてるため顔は見ることは出来ないけど、なんとなく悲しい表情をしてるような気がした。

「一回湖に戻ろうか」

 俺は湖に戻ってミリアを下ろしてから一度旅館に向かった。一応ミリアには「戻ってくるまで時間がかかるかも」とは言っておいた。

 本当に何でこんなに一生懸命になってるんだろう。俺はこれからフラス達に手伝ってもらおうと思っているが手伝ってくれるだろうか? 俺だって一生懸命になっている理由が分からないのにみんなは協力してくれるかな。

「…本気か?」

 いつの間にか起きていたボルクに当然のように聞かれた。当然のようにボルクも不安があるような声をしている。

「何だかほっとけなくて」

「いや、そっちじゃない」

 そっちも何もそれしかなかったような気がする。

「俺は別に連れて行くのに異論はないが、問題はその目的地だ。西の海って言ったらその周辺に住んでいる幻獣は他の場所よりも上位の幻獣がおおくて、気性が荒い。よそ者は歩いてるだけでケンカ売られるような場所だぞ? たとえ俺でも」

 そうなのか、でも問題はなかった。むしろ好都合だ。

「なら存分に闘って体力作りも出来るな」


 丁度自分の体力不足を実感してたところだ。でもそんな危険な場所なら海香たちは連れていけなくなった。特に海香。別に足手まといとか、その実力を認めてないとか信用してないとかってわけではない。むしろ今の俺達には海香の魔法(ちから)は必要だと思っている。ただまた海香がどこかに連れていかれてしまうような気がしてしまって、それがとてつもなく怖いのだ。これは俺のわがままなのだ、誰も失いたくない、傷つけたくないという。

 幸い俺達には治癒魔法が得意なソラスがいる。でもそのソラスも治癒魔法がずば抜けてる反面、戦闘用の魔法はほとんど使えないと海香は言っていた。。それに敵にソラスが治癒が得意だとばれれば真っ先にソラスを狙うのはわかりきっている。いや、ばれなくてもソラスは俺達の中で一番幼い心は大人っぽいところがあるがまだまだ幼い。戦闘になれば弱点を狙うのはセオリーで、敵が一番幼いソラスを弱点と認識して狙ってくる可能性も決してゼロではない。勿論俺はソラスが弱いなんて思ってないし、事実ケルベロス達との闘いでは十分に動いてくれた。

 フラスは治癒能力は低いがその分戦闘はとても頼りになる。俺もよく助けてもらった。

 姉ちゃんはカイエンのおかげで殆どの怪我はすぐに治ってしまう。でも、無茶はさせたくない。

 その分蒼井さんは俺達とは戦闘能力も頭の回転も桁違いに早い。大人の余裕とでも言うのだろうか。それでも無敵と言うわけではない。奴隷ショップでそうだったように負けなくても操られると言ったこともある。

 俺は……『未熟』の一言に尽きる。ボルクの力も十分に引き出せてなく、体力もすぐに無くなってしまって寝込むことが多々ある。超電磁砲だって基本は一日に一発が限度だ。せめて五発は撃てるようになりたい。

 もっと体力をつけて、修行して、どんな敵が来ても仲間たちを守れるようになりたい。それが俺の今の目標だ。



 とりあえず海香たちは連れて行かないにしてもフラスなら多分水の空間を作る事くらい容易だろうし、それだけ作ってもらったら俺だけで出発しよう。

 辺りは既に明るくなっていて丁度今歩いているメインストリートもちらほらと店が開きはじめてきた。恐らくみんな起きてるような時間なのですぐに説明してつれて行っても恐らく問題はないだろう。


「竜樹、どこ行ってたの?」

 旅館に入ると入口には海香が立っていて少し心配そうな顔をされた。

「ちょっと散歩に」

「病み上がりなんだからじっとしてなきゃだめだよ」

「はいよ」

 俺は適当に返事して既にみんな集まってると海香から聞いた大広間に向かった。そこに入るとまたみんなに心配そうな声をかけられ、とりあえずで謝っておいた。

 俺はだらだらしてる場合じゃないのになとか思いつつもさっきのミリアのことをみんなに話した。勿論俺が西の海まで連れて行ってあげようと思ってることも含めて、すべてをだ。

「ねぇ、私ってそんなに弱い?」

 海香は箸をおいて俺の目を見ながらそう言った。

「え…そんなことは…」

 思わず曖昧な答えになってしまう。

「竜樹が私達のことを心配してくれてるってのはわかるけど、自分の身を自分で守れるくらいには私達は強くなってるはずだよ? ……そりゃああんなことがあったから不安になるのはしょうがないけど私は大丈夫だから」

 まっすぐと俺の目を見つめながら言うその強いセリフに俺は勿論反論なんて出来るわけがなかった。

「そういう事、そもそもあんた一人じゃ逆に不安」

 いつの間にかご飯を食べ終わっていた姉ちゃんが水が入ったコップを持ちながらそう言った。

「じゃあご飯食べたらその湖に行こうか」

 まだモグモグと口を動かしてる蒼井さんの提案にみんな異論はなかった。

「…てゆうかまだ食べてるの蒼井さんだけ」

「え?」

 俺のつっこみに蒼井さんはみんなの方を見回すと、残っていたご飯を掻き込むように平らげた。最後に水で流し込んでから蒼井さんは立ち上がる。

 俺達も立ち上がってから湖に向かった。



「おっそーい!」

 ミリアが湖から顔を出しながら頬を膨らませてそう言った。俺は適当に謝ってからフラスに水の空間を出してもらおうと思った時、何故か口を開いたのはリフだった。

「お前、竜樹になにした」

 久しぶりに聞いたような気がするリフの声は何故か迫力がこもっていた。ミリアはその言葉を聞くとわざとらしく目を大きく開けてから口を開く。

「………催眠をかけた」

 ミリアのその言葉に俺は、いや俺だけでなくその場にいた全員が耳を疑った。

「普通は人魚ってのは魔法や催眠の類と言ったものは使えないんだけど、何故か私は生まれた時から催眠が使えたの。多分それが理由で売られたんだろうな……でも催眠が使えるって言っても自分の思い道理に操って―――みたいなことは出来なくて、相手になんとなくで私に対して好印象を抱かせる程度のもの」

「で?」

 リフが強く言った。

「多分竜樹から聞いてると思うけどあれは全部本当の事。ただ故郷の西の海に帰りたかっただけ」

 そんなリフの言葉を気にせずにミリアは続けた。

 すると俺の体からすぅっと何かが抜けるような感じがして少し楽になった気がした。

「今催眠を解いたからそれでも私を連れてってくれる気があるならお願いします。無理だっていうなら止めない」

 ミリアは俺の目を見て問いかけるように話しかけてくる。でも俺の答えは既に決まっていた。

「勿論行こう」

 俺はほほ笑みながらそう言った。

「全く、竜樹君はお人好しすぎるよ」

「我が弟ながら呆れた」

「まぁ、それが竜樹のいいとこでもあるんだけどね」

 姉ちゃんと蒼井さんと海香はどうやら賛成してくれたようだ。幻獣達も各パートナーに従うと決めているように見える。


 海香がミリアが入れる程度の水でできた空間を出して、ミリアがその中に入って行った。

「二十四時間ごとに新しく作んなきゃなんないから」

 海香がそう言って歩き出すと水の空間も海香に続いて動き出す。どうやら海香の動きに合わせて動くように出来てるようだ。

 そして俺達は幻界の西側に通じるというゲートに向かって飛び始めた。

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