傭兵二体
「海香ー!!」
「海香ちゃーん!!」
俺と蒼井さんは声を大きくして海香を見つけるために走った。商売をやっている幻獣達に俺達みたいな生き物はみなかったかと聞き込みをしたり、町の外も走り回って探した。でも海香が見つかるどころか、手掛かりすらない。
「竜樹!」
名前を呼ばれて振り返るとフラス達が俺達の方に走ってきていた。
「見つかった?」
見つかってないのはフラス達の様子をみても明らかだった。でも聞かずにはいられなかった。
「ううん」
フラスが首を横に振ってこたえた。
「あと皆さん」
フラスと一緒にいたユリウス君が口を開いた。
「言おうか迷ったんですがアンナさんもいないんです」
聞くとアンナは出かける時は自分か、自分の次に年上の女の子のウェアウルフの子供のサウスちゃんにどこに行くか何時ごろに帰ってくるかを必ず告げてから出かけるらしい。でも今日はそのサウスちゃんも、勿論ユリウス君も何も聞いてないらしい。それと屋敷にいた子供も二人いなくなってたようだ。
「てことは誰かが夜中に侵入して四人は攫われたってこと?」
姉ちゃんはまだ慌ててるようだが声にはほんの少し落ち着きが戻っているようだった。
「考えたくないがもう一つ……」
ボルクが少し遠慮がちに言ったけど俺は気になったので続けてもらった。
「最悪の場合誰かが裏切ったってことも」
全員が口をつぐんでしまった。全員がそれではないことを祈った。
「何のために?」
蒼井さんが聞くがボルクの答えは「わからない」だった。
「フラス、ソラス、お前達はパートナーだから集中すればある程度の居場所はわかるはずだ」
ボルクがそう言うとフラスとソラスは目を閉じて集中し始めた。
「わかった、今幻界にいる。多分南のほう」
フラスが目を開いて言うとソラスもそれを聞いて頷く。
「場所が分かったんだから今すぐ行くぞ、ボルク案内しろ!」
俺は気持ちを抑えられず声を大きくして言った。
「待って竜樹君! どうやって行くの、無茶してどうにか行ける場所じゃないでしょ」
蒼井さんに止められたが、俺は勿論そんなのは考えていなかった。気持ちだけが先走ってしまって抑えられない。海香が心配で仕方ないのと思うのと同時に俺は一つ気づいた。いつの間にか俺の中で海香の存在がとても大きなものとなっていることに、まだ出会ってから半年も経っていないのに。海香が大事だというだけで俺が無茶をするには十分だった。
「わかった、準備をして三十分後に行こう。俺達が実界に来た時に通った場所に案内する」
ボルクが真剣な口調で言った。
「三十分もいらない、今すぐ行く」
俺は両手の拳をガッと合わせて言った。
「あぁ、問題ないね」
蒼井さんが頷いて言うと他のみんなも頷いた。
「ぼ、僕も行きます!」
ユリウス君が言った。はっきり言って俺はユリウス君が来るのに乗り気ではなかった。これから俺達は命の危険があるかも知れない場所に行くのに、いくら幻獣とはいえ子供であるユリウス君を連れて行くわけにはいかなかった。
「こんな事態だから屋敷にいる子供たちになんかあったら大変だ。だからユリウス君は子供たちを守るためにここに残ってくれ」
俺は体が大きなユリウス君を見上げて言った。
「……わかりました」
彼の目は気迫がこもっていてとても強い目をしていた。
「行くぞ」
俺は雷銃を取り出して飛び立った。
みんなそれに続いて飛び上がった。振り向くとユリウス君が強い目をしてこっちを見ていた。「子供たちを頼んだぞ」と俺は心の中で言うとそれが伝わったのか力強くユリウス君が頷いていた。
「急ぐぞ、まだ遠いからな」
幻獣達は各々のパートナーの中に戻って行って俺達はボルクの案内で飛んでいた。途中アンナから聞いた雲空島が移動していることについて聞いてみた。ボルクが言うには移動していることには移動しているらしいのだが、幻界に行くことはないらしい。俺は勿論アンナよりもボルクの方を信頼しているのでボルクの言葉を信じることにした。でもこのことで益々アンナのことを信じられなくなった。
俺達は飛び続けてボルクが言うゲートの近くにまで降り立った。
「なにか…いる!」
俺は気配を感じてそう言うと蒼井さんやフラスも何か感じたようであたりを見回していた。声も姿も見えないけど確かに二体ほどの気配を感じる。
「出てこい」
蒼井さんが普段からは考えられないような低く、迫力のある声でそう言った。その声は味方であるはずの俺ですら震える程の迫力があった。
するとガサガサと俺の右側にある草むらが動いて、二体の生物が出てきた。二体とも犬に似た姿形をしていたが、あたりがまだ明るかったために分かった体毛はまがまがしい濃い紫色をしていて、大きさは大型犬の五倍近い大きさでギラリと光る赤い目をしていた。大きさや姿形もそうだが俺が一目見ただけで犬ではないとわかったのは二体とも普通の犬なら、いや犬に限らず俺の知る限りの生物には一つしかない物が一体には二つついていて、もう一体には三つついていたからだ。それは、頭だ。
「俺達が通った時にはいなかったんだがな……」
ボルクが小声で言うとカイエンがそれに続けるように口を開いた。
「奴らは金で動くフリーの傭兵のケルベロスとオルトロスの兄弟で、頭が三つある方が兄のケルベロス、二つの方が弟のオルトロスだと思います。噂には聞いていましたが実際に存在するとは思いませんでした」
「説明どーも、ゲートにお前達は通すなって依頼主からいわれてるんでね、止めさせてもらうよ」
ケルベロスの方がそう言った。
「依頼主は誰だ」
蒼井さんが強い口調で言った。やはり蒼井さんも海香がいなくなったことに怒っているようで足止めをするこいつらを邪魔だと思っているようだ。
「それは言えん。プロのプライドってやつかね」
オルトロスがそう言うと姉ちゃんが無言で炎で燃えた羽を大量に二体に向かってとばした。ゴウッという音がして赤い炎が大きくなって二体を包んだ。姉ちゃんは羽を飛ばすことをやめずに、その目には少しの涙と大量の怒りが溜まっていた。
「いきなり攻撃とは卑怯だな」
炎の中から二体の影の首が三つある方がそう言った。
「うるさい。お前らがプロだとか関係ない、私たちの道を邪魔するなら倒す」
俺でも初めて見るその姉ちゃんの顔は殺気に満ちていて恐ろしかった。
姉ちゃんはポケットからあのライターを取り出してオレンジ色の炎を出して自分の炎で大きくした。それを発射してその炎がオルトロスの右前足にピトとくっついて、自分の方に力強くそれを左手で引っ張った。オルトロスは「うおっ!」と驚いたような声を出して姉ちゃんの方にすごい勢いで引き寄せられていく。姉ちゃんはオルトロスが目の前に来ると、無言で左側の頭を数発殴ってくがもう一つの頭で左肩を噛まれる。姉ちゃんはそれを意に介さずに殴り続けた。俺達も見ているだけではダメだと思いケルベロスのいた方を向くと、そこには既にケルベロスはいなくて、俺は焦って周りを見渡すと姉ちゃんに向かって走っていた。
「姉ちゃん!」
俺がそう呼ぶと姉ちゃんはケルベロスに気づいたのか炎を離して距離をとろうとするが、間に合わずに攻撃を受けてしまう。
「くッ……」
苦しそうな声をあげて左手で右肩を抑える。
俺はケルベロスの攻撃のあとに一瞬動きが止まった瞬間を見逃さずに攻撃するために雷銃を取り出して弾を込め、パンパンパンと乾いた音を出して三発撃ってその弾が真ん中の頭にすべて命中した。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
ケルベロスの苦しそうな声が聞こえた後に蒼井さんが勇ましい声を放って間髪入れずに風斧を振り下ろした。それは避けられたが、その避けた先ではフラスが既に魔法を使っていてケルベロスの後ろ脚がパキパキと音をたてて凍り付いた。
でもオルトロスがフラスに二つの口で噛みついて魔法を中断させた。その噛みついた牙は炎を纏っていてフラスは苦しそうな顔をして離れようとしていたがオルトロスは噛みついたまま離れようとしない。
「離れてよぉぉぉ!!」
ソラスがダッと走ってきてオルトロスに体当たりした。その衝撃でオルトロスは噛みついていた二つの口を離してしまった。フラスは噛みつかれた両肩からは血を流してつらそうな顔をしていたが、オルトロスと少し距離をとり右手を前に出して人差し指をオルトロスの方に向けた。
「ボン!」
フラスがそう言うとオルトロスの右側の頭が爆発した。
「がはっ!」
もう一つの残った頭で苦しそうな声を上げたオルトロスに俺は向かって行って電撃を纏った右手で全力で頭を下から殴り上げた。オルトロスの体が宙に高く浮いて当然のように落ちてくる。俺は雷銃を取り出して落ちてくるオルトロスに標準を合わせた。オルトロスがだんだんと近づいてきて丁度目の前にきたその瞬間、俺は後のことなど考えずに超電磁砲を思いっきり撃った。バチバチと音がして太い電撃を纏った弾丸がオルトロスの体を打ち抜いた。
「ガ…ハッ……」
オルトロスの体から焦げた匂いがしてその巨体が地面にドサッという音をたてて落ちた。
不思議と超電磁砲を撃った後の疲労を感じなかった。俺は姉ちゃん達の方を向くと三人はまだ交戦中だった。俺は姉ちゃん達の手助けをするために雷銃を構えてケルベロスの方に銃口を向けた。姉ちゃん達はケルベロスの相手をしながら俺が撃ちやすいようにケルベロスの位置を変えようとしてくれているのか分からないが動き回っていて狙いが定まらない。
ケルベロスは俺が攻撃しようとしていることに気づいてないようだ。
このまま気配を消してタイミングを狙えば……
するとケルベロスは二人の攻撃をさばきながら一番右側の顔の目がこっちを殺気のこもった目でにらみつけてきた。
気づかれた!
俺とフラス達はさっきのオルトロスとの戦闘で姉ちゃん達とはかなり離れてしまったはずなのにだ。
蒼井さんが風斧をで風を起こしながら斬撃を繰り出し、姉ちゃんが炎を纏った攻撃や多色の炎を使った攻撃でケルベロスにダメージを与えていく。
ケルベロスが二人と少し距離をとると大きく前足をあげて地面にドン! と勢いよくたたきつけた。すると二人の足元の地面がモコッと盛り上がり、巨大な土の塊が地面から勢いよく飛び出して二人に直撃した。俺はやばいと思って助太刀に行こうとするが、俺の足元からも土の塊が飛び出してきたが、それを何とか紙一重でかわして二人のもとに走った。後ろからフラスとソラスも走ってくる。
「うぉぉぉぉ!!」
俺は二人の近くまで来ると右手を振り上げながら勢いよくケルベロスに向かって振り下ろした。それは一番左側の頭にヒットして一瞬隙ができる。その隙を蒼井さんは見逃すことなく巨大な風を纏った風斧をケルベロスに向かって振り下ろして、それは一番右の首を切り落とした。
「があぁぁぁぁぁ!!!」
ケルベロスは苦しそうな叫びをあげて膝をついた。蒼井さんは斧の刃の部分をケルベロスの真ん中の首筋に軽く当てて冷たい声で言い放った。
「依頼主は誰だ?」
ケルベロスは観念したのか溜息をついて話し出した。
「名前は知らないがハーピーだった」
俺達と関係のあるハーピーなんて一体しかいない、アンナだ。
「そうか」
「なぁ、弟を治してやってくれないか、あと俺の首を」
「断る」
蒼井さんは即答した。
「じゃあ弟だけでも、治してくれたらすぐにここを去る」
「……わかったが、一つ質問に答えろ」
俺はそう言って雷銃を右の腰あたりにつけている茶色いホルダーにしまって言った。
「そのハーピーと一緒に人間はいなかったか」
「……見てない。ただお前と同じくらいの大きさの袋を担いでいた」
ケルベロスはフラスを見ながら言った。
「さ、いいだろ。そろそろ弟を治してくれないとマジで死んじまう」
俺達は微かに息のあるオルトロスのところに行き、ソラスに治してもらった。治癒の腕は以前よりも上がっているようで、二十分足らずでオルトロスを治して、ケルベロスは十分ほどで切り落とした頭をくっつけて治してしまった。
「じゃあな」
その後二体は計五つの首をぺこりと下げて振り返って歩き始めてしまった。
「あの依頼主どこに行ったと思う?」
突然オルトロスが俺達に聞こえるように喋り始めた。俺はその意図が分からなかったから黙っていた。みんなも黙っている。
「んー、幻界の南にあるでかい奴隷ショップじゃねえの?」
「なんでそう思う?」
「勘だ」
「勘か」
ケルベロスがそう言ってこっちをチラッと見た、ような気がした。
「違う出会い方をしてたら良い友人になれてた気がするよ」
蒼井さんが風斧をしまって微笑みながらそう言った。
「だな」
俺はそれに同意したように言って口元が緩んだ。
「早く行こう、海香ちゃんが心配だ」
蒼井さんが気迫のこもった声でそう言うと俺達は頷いてゲートに向かって走り出した。




