ハーピーと人間
俺はあれから大体二時間ほどで目が覚めて自分の部屋に戻って行った。今は蒼井さんはリフと出かけているはずなので部屋には自分一人のはずなんだが……
「起きたんだ。少しくらい反省した?」
全員が俺の部屋でトランプをやっていた。蒼井さんも戻ってきているみたいで、海香が顔をしかめながらそう言った。
「ぶふぅ!」
蒼井さんが俺を見るやいなや吹きだして大爆笑していた。と言うかトランプなんてどこにあったんだよ…。
「竜樹…くんもやろ…うよ」
笑いをこらえながら言う蒼井さんに少しイラッとしたが我慢して、海香たちの隣に座ってはいけない気がしたので蒼井さんと姉ちゃんの間に座った。
みんなでババ抜きを三戦程したけど全部海香が負けて何故か俺が睨まれた。
「もう寝る」
海香が不貞腐れたようにそう言って自分の部屋に戻って行った。それに続くように女子みんな部屋に戻って行った。部屋に残った俺と蒼井さんはトランプを片づけてからこの顔のことを説明してから布団に入った。まだ若干顔がひりひりするけど何とか眠れた。
因みにボルク達体の大きな幻獣は専用の部屋が用意されたらしくそっちで眠ったようだ。
翌日起きてみんなで朝食をとっていると突然ナナがボルクの方に飛んで行った。
「ボルテックス様、アンナが帰ってきましたよ!」
ナナのその声にボルクとは朝食を食べたら行くと言っていた。正確には向こうが俺達の方に来てくれるらしい。
俺達が朝食を食べ終わったのを見計らったかのように一人の女性が入ってきた。いや女性と言うには人間とは程遠い姿をしていた。身長は大体海香と同じくらいだろうが、本来人間なら腕が生えているべき肩のあたりから白くて大きな羽が左右両方から生えていて、足は人間と言うよりは鳥の物ようで水色の肩まで伸びた髪をした優しそうな顔の幻獣が入ってきた。
「お久しぶりです、ボルテックス様」
その幻獣は右の羽を自分の腹あたりに持ってきながらぺこりとお辞儀をした。その声は虫も殺さぬような優しい声で、喋り方はとてもおっとりしている。
「紹介する。こいつはハーピーのアンナだ」
「よろしくお願いします」
ボルクの紹介にアンナはまたもぺこりと頭を下げた。アンナはその後朝食を食べて自宅に戻って行った。俺達はその後ボルクにアンナの家に連れて行ってもらったのだが、その家はクウル町から離れたところにあり町を北に出てから二十分くらい歩いたところにあった。
「はぁ……」
そこにはアリエスの屋敷よりも一回り、二回り程広く上にも高かった。
「あら、皆さん来ていたのですか」
その声に反応してみんな上を向くと三階くらいの高さからアンナが顔を出していた。
「今開けますからー」
アンナはそう言って顔をしまうと一分くらいしてガチャと言う音と共にボルクが入れそうな程大きな扉、の端にある人間サイズくらいの小さな扉が空いた。
優しくニッコリとアンナは笑ってボルク達は大きい扉の方から入るように言った。
屋敷の中に入ると真っ先に目に入ってきたのは小さな体をした幻獣達だった。
「驚かせてすいません、ここは親を亡くした幻獣達の子供を預かっているのですけど、外に出かけたときに会った子供も預かっているのでいつの間にかこんな大所帯になってしまって大変ですよ」
朗らかにはにかみながら言うアンナに子供たちはなついているようで、みんなアンナの足元に集まっていた。
見回してみると子供と言ってもカイエンやリフみたいに成体で体が大きくなる幻獣の子供もいるようで俺と同じ身長くらいの子供もいるし、かと思えばフェアリーのように成体でも手の平サイズ程の大きさの子供もいるみたいで指先ほどの大きさの子供もいた。でもみんなそんなのは気にならないのか、仲良さそうに見えた。
「そう言えばさっきから気になってたのですが、そちらの四体はなんていう幻獣なんです? 見たことないんですが……」
「こいつらは人間だ」
アンナの問いにボルクが答えた。
「ニンゲン!? 初めて見ました……」
アンナはそう言った後、俺達の隅々まで観察するかのように見回した。
「ねーねーアンナ、ニンゲンって何ー?」
人間の子供くらいのサイズの幻獣の子供がアンナの足元で聞いた。
「実界で暮らしてるとっても頭のいい動物だよ」
ニッコリと笑って答えるアンナに聞いた子供は満足そうに笑って走っていってしまった。
「あの子はこの間幻界で拾ってきた子でエルフの子供ですよ。両親が病気で死んでしまったみたいで私が引き取ったんです」
優しそうに子供たちを見つめるアンナの瞳からは子供たちが本当に好きなんだということが伝わってくるようだった。
「こんなところではなんですしリビングに案内しますね」
俺達はアンナの後に続いてリビングに向かった。途中廊下では体の大小さまざまな幻獣の子供たちが元気よく走っていく光景がほほえましかった。
リビングに入った俺は言葉を失ってしまった。広いだろうとは予想していたが、その想像の遥か上をいく広さだった。
「ここがリビングです」
そこは直線で百メートル走ができるんじゃないかってくらい広かった。中ではやっぱり子供たちが元気よくはしゃいでいた。その中でも目立っていたのは身長五メートルくらいの人の姿をした幻獣だった。
「アンナさん、お客さんですか」
その声は少し低かったが丁寧な言葉づかいだった。
「この子はここで一番年上の巨人の子供のユリウス君」
「ユリウスです、よろしく」
そう名乗った幻獣は礼儀正しくお辞儀してくれた。
「すいません、私はこの後用事がありますのでユリウス君に案内させます。お部屋の方はほとんど子供たちが使っているので二部屋しかないのですが大丈夫ですか?」
俺達はアンナの問いかけに頷き、三階の角部屋二つに案内された。途中ユリウスがトイレの場所とキッチンの場所を教えてくれた。
部屋はお決まりのように男子と女子で別れた。今回は幻獣達の部屋はなかったので、各パートナーの中に戻って行った。
「ねえ竜樹君、この家広いよね?」
広めの部屋に入って少ししてから蒼井さんが話しかけてきた。
「うん? あ、もしかして……?」
俺は蒼井さんが何を言おうとしてるかなんとなく分かった。
「うん、そのもしかして」
俺達は顔を合わせて二ィと笑って言った。
「「探検!!」」
ということで俺達はこの広い屋敷を探検することにした。
まずは部屋がある三階から探検することにした。でも部屋がいっぱいあっただけで特別面白いもんがあるわけではなかった。ただ一つの部屋にスライムのようなものがびっしり詰まってて、二人してダッシュで逃げだしたくらいだった。
三階が一番上の階だったので次は二階に行った。二階には主に赤ちゃんたちが多いらしく俺達は思いっきり和んだ。そこでは部屋ごとに体の大きさで別れていて、フェアリーサイズの子供の部屋は赤ちゃんを踏まないようにするのに大変だった。その次に行った人間くらいのサイズの赤ちゃんは可愛くて可愛くてしかたなくて、心が洗われるような気がした。大きな幻獣の赤ちゃんの部屋は踏まれないようにするのに大変で、逃げ回って汗だくになった。二階の後の部屋も同じようだろうと予想して、行くのをやめた。
次に一階に行って最初は大広間を探検した。大広間と言うだけあってかなり広い。テニスコート三、四面くらいの広さで走り回りたくなる衝動を何とか抑えたところで蒼井さんが話しかけてきた。
「こう広い部屋だとさ、隠し部屋とかありそうじゃない?」
「それは俺も考えてた」
「奴らの研究室は必ずこの家の中にある!」
突然蒼井さんが口調を変えて喋ってきた。
俺はそれに乗るように答える。
「あぁ、見つかったら連絡をくれ……死ぬなよ」
「お前もな」
俺達はそう言ってお互いの拳をコツンと合わせて逆方向に走っていった。が、一緒に探検をするためにすぐに戻って合流して歩き始めた。
「流石」
俺達はニコッと笑って歩いた。と言っても一階はきてすぐに少し見たので必然的に奥の方の部屋に向かうことになった。一階には物置やら歳の高い幻獣の部屋が有った。一つの少し奥の部屋を開けるとそこはアンナの部屋だった。なぜすぐわかったかと言うと、勿論中にアンナがいたからだ。
「あら、お二人ともどうかしましたか」
手に持っていた本を閉じてアンナがこっちを見て言った。
「いや別に、広い屋敷なので少し見て回ろうかと」
「そうですか、どうです? お茶でも飲んでいきますか?」
俺達は言われるまま部屋に入って用意された椅子に座った。
「いや、それにしても私人間て初めて見ましたよ、あなた方みたいのが実界にはたくさんいるんですか?」
アンナはその羽の手で器用にお茶の準備をしている。
「えぇ、まあ。というかここは私たちの世界―――実界にあるのではないのですか? 俺達幻界にきた覚えがないんですけど……」
「この島は常に移動し続けているんですよ、基本は幻界の上空を。でもたまに、ごく稀に実界に移動してしまうことがあるんです。その軌道は私達のようなこの島に住んでる幻獣にも分からないんですが、最上位のドラゴンは把握してるみたいですよ。それで実界にいる時を狙ってここに来たんじゃないですか」
なるほどな、そういう事だったのか。
「お茶が入りましたよ」
俺達の前に出されたお茶はコップの中で緑茶のような色をしていて、お菓子のようなものは底が浅い皿の上にのっていて日本のせんべいに似ていた。
「こちらは幻獣達の間ではかなりメジャーなお茶、ルスコという葉からとれたお茶です。ほろ苦くて後味をひくおいしさですよ」
「じゃあこちらのお菓子みたいのは何です?」
蒼井さんが指をさして聞いた。
「これはカラナの実をすりつぶして固めた物です。とても甘くてやわらかくおいしいですよ」
俺はそれを聞いた後にお茶を飲んだ。それは温かくて日本の緑茶を思い出させるような味がして心も体も温まるような気がした。
「「はぁ~」」
俺と蒼井さんは自然に声が出ていた。
お茶を一口飲んでからコップを置いてせんべいのような物を手に取った。ふわふわの感触をしていてほのかに甘い匂いがした。俺と蒼井さんはそれをほぼ同時に口の中に入れた。歯ごたえは豆腐のようで、噛むたびに甘い汁が出てきてとてもおいしかった。
「おいしい! これはアンナの手作り?」
俺が聞くとアンナはパァァと笑って答えてくれた。
「はい、料理に興味がおありで?」
「えぇ、今度教えて下さいよ」
「いいですよ、代わりにニンゲン達の料理も今度教えてくださいね」
俺とアンナがちょっとしたやり取りをしているのを蒼井さんはほほ笑みながら見ていた。
「それよりも、ニンゲンのこととか実界のことを詳しく教えて下さい」
アンナの目は純粋な子供のようにキラキラしていた。
「実界に行ったこと無いの?」
「はい、実界には見たこともない凶暴な生物や巨大な生物がいると聞いたことがあるのですが……」
「いないいない、じゃあとりあえず俺達が住んでた日本って国のことから……」
俺はそう言って人間のことや色々な動物、文化のことなどを日が暮れるまで話した。アンナは興味津々に質問などしてくれたので俺達もたくさん話すことができた。
その日のご飯は昨日と同じメニューにプラス蟹と魚が融合したような姿をした焼いたものが出てきた。普通においしかった。
その後は俺達は体を拭いてからベッドに入った。流石に今回覗いたら本当に死ぬ気がしたので覗かなかった。
そう言えばここに来た目的である索敵の道具をもらうことを今まですっかり忘れていた。ボルクに確認したらそのアイテムを俺達にくれるのはアンナらしい。ハーピーは元々索敵能力に優れている種族らしく、そのハーピーの羽を身に着けているだけでハーピーには劣るが、かなり能力が上がるらしい。
その日はベッドに入ってから数十分で眠りにつくことができた。
「竜樹、竜樹起きて!!」
誰かが俺を起こす声がして、薄目ながらも目を開けるとそこにはフラスがいた。外は既に明るくなっているようだ。
「……なに……」
意識がはっきりしないまま声を出すと何故かバチーンと言う音と共に頬をはたかれた。おかげで目が覚めたが。
「ってーな! なんだよ!」
俺は少しイラッとして、声を荒げてしまった。
「ごめん、でも大変なの」
よく見ると、いやさっきまでは意識がはっきりしなくて分からなかったがフラスはとても慌てているように見えた。
「うみちゃんがいないの!」
「トイレでも行ったんじゃねーの?」
「いないの! 屋敷のどこ探してもいないの! 今ユリウス君にも探してもらってるんだけどどこにもいないの! 連絡も何もないんだよ!」
フラスの目には涙が溜まっていてそれが嘘ではないとわかった。
「は? どういう事だよ!」
俺はは驚いて声をあげてしまい、その声で蒼井さんも起きた。蒼井さんにも状況を説明して俺達は急いで海香を探しに出かけた。
どこに行ったんだよ海香、急にいなくなるなんて何考えてるんだ。もしかして誘拐でもされたのか? そんな嫌な考えが俺の頭をよぎった。
―――せめて無事でいてくれ―――
そう願いながら俺達は走った。




